季節は冬、そして学校も冬休みに入った。
朝早く起きる必要も無いので、半日くらい寝て過ごそうと思っていた。
けれどそれは突如鳴り響いた私の携帯に届いたメールによって妨害された。
「…どこのどいつだ…こんな朝から…!」
布団に入ったまま手探りで携帯を取り、画面を見る。
新着メールを開くと、そこには『おはようございます、!今からお邪魔しますね!』という
ハイテンション極まりない本文が記されていた。
「いや、お邪魔しますて…」
何のこと、とつぶやきかけた瞬間、バーンと部屋の戸が開いた。
「おはようございます!メール見ましたか!?」
そう言って、冬休み期間であるにも関らず制服に身を包んだ骸が部屋にずかずか入ってきた。
「見た、って今さっき届いたんだけど…」
「おや。お寝坊さんですねえ。もう9時ですよ。あっ、もしかして僕のモーニングコール待ちでした?」
「待ってない」
って、いうか。ちょっと待て。
「おまっ、骸ォォォ!!何ナチュラルに人の家に上がりこんでるの!?」
「今日はちゃんと玄関から来ましたよ。鍵は開いてませんでしたので、まあ、ちょちょいと」
こいつ一回警察に捕まればいいと思う。
まあ、いつも窓から入ってくることを思えば、まだ正当な手順で来てるわけか…。
…あれ、なんか私の基準もおかしくなってきてない?
「クフフ、パジャマ姿も可愛いですね。ところで今日は何の日か知ってますか?」
「冬休み」
すぱん、と答えると骸は目をしばたかせた。
「本気で言ってるんですか、」
「本気本気。だからさっさと帰れ。私は今から休みの惰眠を満喫するの」
とは言ったものの、実際眠気はこいつが来たせいで大分吹き飛んでしまっている。
「…、今日はクリスマスですよ。恋人同士には欠かせないイベントの日ですよ!」
「へーそう。じゃあ彼氏のいない私にはまったくもって関係無いわけだ」
「何を言ってるんですか!には僕という旦那がいるじゃないですか!」
「話が飛びすぎている!!」
どこまで勝手な設定を作ってるんだ骸は!旦那て!彼氏を飛び越えて旦那て!!
そんな勝手な骸は私の話をまったくもって聞かず、一人ぺらぺらと喋り続けている。
「というわけで、クリスマスデートをしましょう!」
「いやだよ、外寒いし。着替えるのも寒いんだから、冬は家にいたいの」
もそもそと布団から出て、ストーブのスイッチを入れてから、もう一度布団にもぐる。
とりあえずは部屋を暖めないとここから離れることもできそうにない。
「クフフ…そういうと思ってましたよ!」
「あっそう。じゃあ何で来たの」
わざわざこの寒い中を黒曜の制服のみで家まで来たらしい骸は、私のベッドの横に座った。
「僕を誰だと思ってるんですか」
「六道変態ストーカー骸」
「そんなミドルネームみたいにストーカーなんてもの挟まないでください」
変態の方は否定しないのかお前。
ジジ、と音がしてストーブが動き出す。
じわりじわりと部屋に暖かい空気が充満していく。
「、少し目を閉じてくれませんか」
頭からかぶった布団ごしに顔を両手でそっと挟まれる。
「…変なことしたら、それ相応の仕返しするからね」
「クフフ、今日はしませんよ」
…今日は、ってあたりがなんとなく引っかかるけど、まあいいか。
ゆっくりと目を閉じること、ほんの数秒。
「はいっ!目を開けていいですよ!」
骸の声と同時に目を開ける。
ぱちり、と目を開けた先に見えたのは、真っ白な雪が振る、私の部屋。
「うおおおお!?おまっ、ちょ、何これ!?」
「クリスマスといえば、ホワイトクリスマスでしょう!」
得意気に笑顔で骸は私の顔を覗き込んでくる。
「いやそうだけど!部屋濡れるじゃん!」
「濡れませんよ。これ、僕の幻覚パワーですから」
だから寒くもないでしょう、とにこやかに骸は言う。
そういえば、寒くない。そもそもストーブと雪が共存してる時点で、普通じゃありえない。
「…と、とんだ能力の無駄遣いだね…」
「何を言うんですか。のためなら無駄なんて何もないですよ」
顔色ひとつ変えずに、そんな恥ずかしい台詞をさらりと言ってのける。
何で、言われた私のほうが恥ずかしくならなきゃいけないんだ。
「クフフ、僕からのクリスマスプレゼントです。はい、」
ふわりと手に載せられた、小さな雪だるま。
普通なら冷たくてたまらないのに、私の手に乗っているそれは冷たくもなければ、溶けもしない。
「…ありがとう、骸。しょうがないから、今日は一日骸に付き合ってあげようじゃないか!」
雪だるまを持って立ち上がる。
壊れはしないだろうけれど、そっと丁寧に雪だるまを机に置いた。
「せっかく、暖かいところで雪遊びができるんだから、目一杯遊ぼう?」
ベッドに座ったままの骸に手を差し伸べる。
ふんわりと骸は笑って、私の手を取る。
そのままくるりと私の手を翻し、甲に唇を落としてからゆっくり立ち上がった。
「ありがとうございます、。でも、さすがにそのままの格好では風邪を引いてしまいます」
「うーん、そうだね。じゃあ着替えるから、ちょっとあっち向いててよ」
骸に掴まれていない方の手で壁のほうを指差す。
「いえ…折角ですから、僕が着替えさせてあげますよ!」
「何が折角なのかさっぱりわからない」
「さあほら脱いでください!あっ、脱がせるところから僕がやったほうがいいですか!?」
「やっぱりお前帰れええええ!!!」
室内ホワイトクリスマス
(「冗談です!冗談ですから!雪投げないでください!」「うるさい!雪の中に消しゴム入れてやろうかコラァァ!」)
あとがき
今日くらいは紳士にさせようかと思ったんですが、やっぱり私の中の骸はこういう人でした。
2009/12/24