今日もここ、奥州はいい天気。
少し寒いけれど、窓を全開にして部屋の掃除をしていた。
「よし、片付いた!」
綺麗になった部屋を見てふう、と息をついた。
それと同時に、ビュオオッという風の音と共に、窓から何かが部屋に転がり込んできた。
「久しぶりだな、!」
「かすが!」
くるりと窓のほうを振り返ると、にっこりと笑ったかすがが立っていた。
しかし、足元に白い羽根が散乱しているのを見て、あたしは一瞬固まった。
ああ、折角、掃除したのに。
かすがは一応敵対している土地の忍だけど、あたしはとっても仲良くさせてもらっている。
このあたりでは少ない、女友達の一人なのだ。
「久しぶりだねー。任務とか、そういうのが忙しかったの?」
「ああ、最近はな。だが謙信様のためならば苦には思わない!」
「そっすか」
かすがはたまに…というか、しょっちゅう乙女モードに入る。
「それで、実は今日も任務の最中なんだ」
「うん?あ、もしかして政宗さんに用事?」
「ああ。というわけで、からこの文を渡しておいてくれ」
そう言って差し出された手紙。
「かすがが自分で渡したほうがいいんじゃないの?」
「私はあいつの顔など見たくない」
「そっすか」
相変わらずかすがはキッパリとものを言う。
そんなところも好きなんだけどね、あたしは。
「じゃあ、預かります。ちゃんと渡すから、安心してね」
「ああ。のことは信用している。頼んだぞ」
そう言ってにっこり笑う。
こうしてると、かすがはお姉さんのようなんだけど、謙信様ラブモードに入るとなんだか妹のように思えてくる。
「にしても、お前も大変だな。あんな男と共同生活とは。苦労しているだろう?」
「あー…まあ、してないとは言い切れない…」
朝っぱらからグッモーニン!と言って襖を開けられたり、セクハラされかけたり。
あれ、よく考えたら苦労だらけだ。
「謙信様はお優しいし、美しいし、強く賢く…ああもうとにかく素晴らしいお方だ…!」
「そっすか」
あたしは今日で一体何度この切り返しをしたんだろう。
「でも、美しいっていうと、かすがも美人だよね」
「は…な、なっ何を言っているんだ!」
一瞬ポカン、とした顔をしてからかすがはバタバタと手を左右に振る。
ていうか、本当に美人だと思う。
謙信様と並んでると宝塚でも見にきたんじゃないかって錯覚するし。
「いいよねー。美人で可愛くて強くて…かすがも十分凄いよ」
「そ、そんなことはない!」
「あるよー」
あはは、と笑いながらこういう話をしていると、元の時代を思い出す。
よく学校でこうやって友達と話したなあ。
「あたしなんか何もないし」
どこにでもいるような一般人顔だもの。
「だって十分可愛いだろう」
「いやいや…あたしは並だって」
「いや、も可愛いが…ちっとsexyさが足りねェな」
「なんだと!しかし否定はできない!」
と、叫んでからふと思う。
今喋ったの、誰。
目の前のかすがは思い切り嫌そうな顔をしてあたしの後ろを見ている。
ギギギ、と後ろを振り返る。
「うっわ、何してるんですか政宗さん」
「Ah?ここは俺の城だろ。城主がどこで何してようが勝手じゃねェか」
そう言う城主は朝方、小十郎さんに仕事してください、と言われて引きずられていったはず。
「お前は本当に気の遣えない男だな」
「そっちこそ、無断で入ってくるたァ、躾のなってねえ客だな」
「あーはいはい、落ち着いて落ち着いて」
バチバチと見えないところで火花が散っている。
真ん中にあたしを挟まないでいただきたい。
「にしても…やっぱり並ぶと差がよく分かるな」
政宗さんは顎に手を当てて何度か頷く。
「差?」
「Yes」
そう言った政宗さんの視線は、あたしの頭のてっぺん…いや、首から足まで。
「ちょっ、おま、比べるな!!!」
「貴様、そっちの目もつぶしてやろうか」
地を這うような声で言ったかすがは、あたしを庇うように少し前へ出る。
「恐ろしい女だな。そんなんじゃ謙信公にもフられるぞ」
「謙信様の名を気安く呼ぶな!!…っと、そうだ。そろそろ戻らねば…」
くるりとかすがはあたしの方を向いて、そっと手を握った。
「またしばらく会えないが…元気にしているんだぞ」
「うん。かすがも、無理しないでね」
「今度はちゃんと入り口から来いよ。歓迎してやるぜ」
「貴様は黙っていろ」
本当に、容赦ない。
「じゃあな、」
「うん!またねー!」
来た時と同じように窓から出て行ったかすがを見送る。
「で、何しに来たんだあいつは」
あたしの横に立って政宗さんは呟いた。
「何って…あ、そうだ。これ、政宗さんに渡してくれって言われてたんです」
かすがから受け取った手紙を渡す。
政宗さんは「Thank you」と言ってから、その場で手紙を読んでいた。
「…何の用事、でした?」
「Ah、戦とかそういうことじゃねぇから安心しろ」
ぽんぽん、とあたしの頭を撫でて政宗さんは笑った。
「それで、政宗さん仕事は」
片付いたんですか、と聞こうとしたところで口を手で押さえられた。
「Be quiet。まだ片付いてねぇが…抜けてきた」
小声で話す政宗さんの手をそっとどける。
「休憩無しでぶっ通しなんざ、できねぇっつーの」
ごきごき、と首を回してため息をつく。
何の仕事をしているのかは、サッパリわからないけれど。
大変なことには変わりないんだろう。何せ一国の主なんだし。
「…あの、政宗さん。その…肩、揉んであげましょうか?」
そう言うと政宗さんは驚いたような顔をしてから、笑みを浮かべた。
「……じゃあ、頼むぜ」
「はいっ」
お疲れ様です、という気持ちをこめて肩を揉んだり叩いたり。
「、お前も揉んでやろうか」
「え?あたしは別にそんな労働してないですから大丈夫ですよ」
今日したことといえば、せいぜい部屋の掃除くらいだ。
「肩じゃねぇよ」
「じゃあどこですか」
「breast」(「胸」)
……。
「小十郎さあああーーーん!!政宗さんが仕事抜け出してまーーーす!!」
「バカ、てめっ!」
「政宗様ァァァ!!!」
顔だけよくても困ります
(「ふざけんなこの卑猥城主!」「んだよ、俺が直々にイイ身体にしてやるっつってんのに」「ギャアアセクハラ!」)
あとがき
かすがと仲良くなりたいです。
そして私の中の政宗さんはサラッとセクハラしてくる人です。卑猥でなんぼ。(ぁ
2010/03/15