この国は今日も晴天、お出かけ日和。

仕事もしばらくお休みだしちょっと出かけようかなと思い立ち、今あたしは森の中を歩いていた。

 

 

どこへ行こうかと考えていると、ものすごく見覚えのあるテントが森の中に設営されていた。

「……」

関わらない方がいいよね。うん、それがいいと思う。

 

心の中でそう自問自答して、テントを避けてハートの城の方へ向かうことにした。

お城でビバルディとお茶会をしようかな。

今日のお茶菓子は何だろう、なんて楽しいことを考えながら歩いているとがさりと草むらが揺れた。

 

 

「やあ、なんだか久々だな!」

「うわあああ出たァァァァ!!!」

目に優しい緑の多い森の中に、目に非常に良くない真っ赤が現れた。

というか、この真っ赤…もといエースは目どころか色んなところに良くない。

 

 

「なんだよ、そんな幽霊が出たみたいな声出しちゃって」

「そりゃ出るよ、わざわざテント避けてきたのに…」

 

ああ、あそこで避けなければよかったのか。素通りすればよかったのか。

ガッデム自分!あの時に戻りたい!

 

 

「えっ俺のテント見かけたの?」

「え?あー…まあ、ね」

何で避けたの、といつものニコニコ顔で聞かれると思ったのに聞かれたのはテントを見たかどうか。

なんか珍しいなあと思っていると、エースはあたしの手を掴み、口を開く。

 

 

「テント、どこに張ったか分からなくなっちゃったんだ。連れてってくれない?」

 

 

「……拒否権は?」

「君が連れて行ってくれないなら、このまま軽く30時間帯は一緒にテント探しの旅をすることになるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざくざくと草を掻き分けて森の中を歩く。

ていうか、普通の道を行けばいいもののエースはわざわざ道から逸れていく。

そしてあたしの手をぐいぐいと引っ張って逸れていく。

おかげで時間帯がひとつ変わってしまった。

 

 

「お前ェェ!いい加減にしなさいよ!案内してほしいのかしてほしくないのかどっち!」

「真っ直ぐ着いたらつまらないじゃないか。せっかくのとの旅なんだし」

「真っ直ぐ着くために道案内頼んだんじゃないの!?」

 

オレンジ色の空の下、あたしたちはぎゃあぎゃあと騒ぎながら道を歩く。

そしてようやく、テントが見えてきた。

 

 

「あ、やっと着いた…あーもう、ものすごい遠回りしたじゃん」

「あはは、楽しかったぜ。ところで、何で避けたんだ?」

「は?」

 

…え、何その時間差での質問。

にこにこと笑顔を絶やさず、真っ直ぐテントに向かいながらあたしの手をぐっと握る。

あれ、これ色々危ないんじゃね?

 

 

「いや、別に深い意味はないんだけど…」

 

「君ってアウトドア嫌いだっけ?…それとも、俺が嫌い?」

 

ぞくっと背筋が冷えた。

 

 

「き、嫌いじゃないよ。アウトドアもエースも」

それは本心。どっちも嫌いじゃない。

「じゃあ、好きなんだ。俺のこと」

「どうしてその両極端しか無いの」

 

エースのことは嫌いじゃない。かといって好きかと聞かれると、答え方に非常に困る。

なんとなく傍にいたいと思う時もあるけど、傍にいると殺されそうな気になる時もあるわけで。

どうなんだろう。あたしは、エースにどういう感情を持っているんだろう。

 

 

 

「おっ、やっと戻ってこれたぜ」

その声に、はっと我に返って目をぱちぱちと開閉する。

エースの顔を見上げても、さっきの威圧感は無い。

 

「よかったね。じゃあ、あたしの役目はこれで終わりなんで。じゃ!」

ばっと身を翻し、一歩踏み出す。しかしそれ以上は進めなかった。

 

 

「エース、手離してよ」

「せっかくだから上がっていってよ」

「そんな普通の家みたいな言い方すんじゃないっつの。夜になる前にお屋敷戻らなきゃだから」

本当はそんなにすぐ戻らなくてもいいけど、なんとなくここにいたら危ない気がした。

 

 

「えーいいじゃん。それにさっ」

「ぎゃっ!」

ぐいっと手を引っ張られ、テントの中に転がり込む。

とん、と床に転がった私の顔の両側にエースの手が降りる。

 

 

「俺、今傷心してるから慰めてほしいなー」

にっこりと笑って言う姿から、とてもじゃないけど傷心なんて感じられない。

 

「大丈夫だって。エースのハートは鋼鉄製だから、ちょっとやそっとじゃ傷つかないって」

「酷いなあ。俺だって傷つくよ、に避けられたなんてさ」

 

 

そう言ったエースの瞳は、ほんの少しだけ寂しさの色を含んでいた。

 

…こういう所は、ずるいと思う。

いっそ本当に鋼鉄製のハートだったらいいのに、本当はきっとすごく傷つきやすいんだ。

ただそれは時と場合、モノによるのだろうけど。

 

 

 

「…ごめん。でも、あたしがこういう風に本音で接せられるのって、結構少人数なんだよ」

「本音?」

尋ね返すエースの瞳にはもう寂しさの色は見えない。

 

「辛いときに無理して笑ったり、嫌なことでも受け入れたり、そういう取り繕うことをしてないってこと」

 

こう言ったら嫌われるかもしれない。

こうやったら傷つけてしまうかもしれない。

そういう事を考えないで、ぶつかっていける。

 

 

「たとえ自分の発言や行動に後悔して落ち込んでも、エースなら受け止めてくれるでしょ?」

そっとエースの頬に手を添えてにこりと笑う。

 

「寧ろ落ち込んで欲しいくらいだぜ?うじうじしてるってすごく可愛いからさ」

「あんたも結構ドが付くほどストレートに言うよね。あたしも傷心しそうなんだけど」

何で自分の発言とかに落ち込むといってる人に追い討ちをかけるんだろう、しかも笑顔で。

 

 

 

が傷心したら俺が目一杯癒してあげるから、安心しろよ!」

「超安心できない」

それでも結局こいつに癒されるというか、絆されてしまうんだろうなあなんて思いながらあたしは散歩を諦めた。

 

 

 

 

 

本音トークができる相手






「で、あたしは本音でぶつかってるけどエースってそうでもないよね」

「俺が本音喋ったら年齢制限入っちゃうぜ。あ、それとも実はってそういうの…」

「だれかァァ!ガムテープ持ってきてェェェ!こいつの口塞いでェェェェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

たぶんエース相手なら気を遣うとかあんまりしなくていい気がするんですけどどうなんでしょうね。

しかしエースが本音で喋るといろんな意味で危ない気がする。

2010/08/21