日が昇った昼頃。

先日まではぽかぽかと暖かい日差しの下でお昼寝ができるくらいだった。

しかし今は冬。しかも、ここ奥州の冬はとてつもなく寒かった。

 

 

「寒い…奥州寒い…!」

「Ah?まだこんなの寒いうちに入らねぇよ」

書きものをする手を止めないまま、政宗さんはさらりと言ってのけた。

 

「えええ嘘でしょ!?冗談と言ってください!」

「これからもっと寒くなるぞ」

政宗さんはにやにやと意地悪な笑みを浮かべてあたしを見る。

くっ…地元民には負けるってことか…!

 

 

 

「まあ、そのうち慣れるだろ」

「無理です!」

コトンと筆を置く音は、あたしの声にかき消された。

 

 

ひゅう、と開けっ放しの窓から吹き込む風に背を向ける。

両腕を擦りながら、あたしはなるべく風があたらない場所へと移動した。

 

「あーもう寒いの無理…!政宗さん、あたし冬の間、上田のあたりに旅立ちます!」

「What!?何であそこなんだよ!」

両手を擦り合わせて暖めていると、ガタンと政宗さんが立ち上がった衝撃でさっき置かれた筆が転がった。

 

 

「だって…幸村さん、暖かそうですし」

「アレは暖かいじゃねえ、暑いだ」

まあ、間違ってはいない。

 

 

「でも今は冬ですし、きっと今の季節はちょうどいい温度になってますって」

「駄目だ、あそこはいつ行ったって真夏だ」

「でもここよりは暖かそうですもん」

もうすぐ、雪が降るのではないかと思うほどの寒さに肩を震わせる。

政宗さんは転がった筆を机に置き戻し、おもむろに自分が羽織っていた着物を脱ぎ始めた。

 

 

「うっわ、何やってるんですか!」

が寒いっつーからだ。ほら、これ着とけ」

ぼふっと肩にかけられた政宗さんの羽織。

肩から伝わっていく、政宗さんのぬくもり。

 

 

「これじゃ政宗さんが寒いじゃないですか!」

とは鍛え方が違うんだよ。これくらいなら、どうってことねェ」

政宗さんは着物の首元を直し、それよりお前はどうなんだ、と促す。

 

 

「…あったかい、です」

「Of course。ほら、ちゃんと袖通して着とけ」 (ま、当然だな。)

言われた通り羽織に袖を通す。

当然ながら普通に着ただけじゃ袖から手は出ない。

 

なんだか、改めて政宗さんが男の人なんだっていうのを認識させられた気がする。

 

 

「どうした、顔が赤いぜ?」

すっと至近距離で顔を覗き込まれ、思わずとんとん、と数歩後ずさる。

 

 

「べっ、べべべ別に何でもないですよ!」

袖を手繰って手を出し、羽織の左右を引き合わせる。

「その割には、動揺してんじゃねーか…なァ?」

 

笑顔を浮かべながらじりじりと近づいてくる政宗さんから逃げるように後ずさる。

しかしここは室内。逃げるにも、限界がある。

 

 

とん、と背中が壁に当たった瞬間、政宗さんの腕があたしの顔の左右に付く。

「逃げるんじゃねぇよ」

にやりと笑ったまま、政宗さんはあたしの耳元へ顔を近づける。

 

「俺に抱きしめられてるみたいで、照れてんのか?」

「ち、違いますよ…っ!」

政宗さんの肩をぐいと押さえて精一杯の抵抗をする。

 

 

「嘘は、いけねぇな。それとも、羽織じゃなくて直接hugして欲しいのか…?」

低い声と息が耳にかかり、あたしは声にならない叫び声を上げて、その場にへたり込んだ。

 

 

 

「っ…ま、ま、政宗さんの、ばか…!」

はあはあと息を整えながら声を絞り出す。なんてことするんだこのエロ武将。

「くくっ、はははっ、ほんっとはいい反応してくれるぜ」

笑いながら政宗さんはあたしの前にしゃがみこむ。

そして伸ばされた手を見て、あたしは反射的に身構える。

 

 

 

「Don't scare」 (怯えるなよ)

「…誰のせいだと、思ってるんですか」

頭を撫でる手はさっきと違って優しかった。

 

「だが、暖かくはなっただろ?」

「暖かくなったのは顔だけですけどね!」

叫んでも、顔に集まった熱はなかなか冷めてくれない。

 

 

「ならさっき体も暖めてやろうか?」

「もう十分です!ぽっかぽかです!!!」

また距離を近めようとする政宗さんに静止の声をかける。

 

 

ほんの少し残念そうな顔で政宗さんはあたしに伸ばした手を引っ込める。

「ま、寒くなったらいつでも俺が暖めてやるよ」

「こういうやり方は却下です」

政宗さんは間髪入れずにそう言ったあたしに笑いかけ、少しだけ目を細める。

 

 

「I see、やりすぎるとに避けられそうだしな」

「全力で逃げます」

そして小十郎さんに助けを求めよう、と心の中で誓った。

 

 

 

「とにかく、寒くなったら俺のとこへ来い。勝手にどこか行くんじゃねえぞ」

その声には少しだけ不安が混ざっていたような気がした。

 

「…もっと、安全かつ平和な感じの暖め方をしてくれるなら、奥州に…政宗さんのそばに、います」

そっと羽織に顔をうずめる。

ふわりと香る政宗さんの匂いに冷めかけていた熱が戻ってきてしまう。

 

 

 

それを見てかどうかは分からないけれど、政宗さんはフッと笑って立ち上がった。

「仕方ねえな。なら、今から温かいsoupでも作ってやるよ。これなら安全かつ平和、だろ」

「は…はいっ!それなら大歓迎です!」

すっとあたしも立ち上がって笑う。

 

 

「んじゃ行くぞ」

「はいっ!」

 

あたしの手をぎゅうと握った政宗さんは、ゆっくり歩き出す。

手から、肩から、全身へと伝わる暖かさを感じながら、これなら冬も大丈夫かななんて思った。

 

 

 

 

 

 

全身へ伝わる温もり







(身体だけじゃなくて心まで暖まっていく。今度は、あたしが暖めてあげようかな。)

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

珍しくギャグ度が低い、冬のお話。そしてネタを考えたのは一年前という古いものです。(ぁ

政宗さんはセクハラくさかったり英語混ざってきたりで、書くのがいろんな意味で難しい。

2010/11/15