ふああ、と出そうになったあくびをなんとか噛み殺して黒板に書かれていく文字をノートに写す。

眠気のせいで、だんだん文字が歪んでいく。

これ、絶対テスト前に困るだろうな…。

 

 

今日の授業はこれが最後。

この時間を乗り越えれば、あとは家に帰って…あ、だめだ部活行かなきゃ。

まあ部室で寝ればいいか。

 

 

神話科の授業の話は非常に眠い。

かくんかくんと頭が船をこぎ出す。

…もう、無理。ちょっと寝よう。大丈夫、10分くらい寝たって大して支障は出ない…はずだ。

 

 

心の中でおやすみなさい、と呟いて腕をまくら代わりにするように組んで頭を乗せる。

ふと、隣の席の颯斗の顔が目に入った。

今日も颯人は美人さんだなあ…半分ちょうだいよ、その色気。と思っていると当人と目が合った。

 

ごめん、おやすみ。そう口パクで伝えると、颯人は綺麗ににっこりと笑って、先生にバレないように手を動かす。

…え、なに、ジェスチャー?

 

ええと…「寝たら、後で黒板キーキーの刑に処す」……。

 

 

がばっと顔をあげて前を向く。

「なんだ、質問なら顔じゃなくて手を挙げろよー」

「え、あ、ごめんなさい!」

先生の発言により、私と同じく眠気に負けかかっていた生徒がくすくすと笑う。

盛大に噴き出した犬飼には今度お昼奢らせようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーン、と終業のチャイムが鳴ると同時に私の手からシャープペンが転がった。

机から落ちそうになるのを、にこやかに笑う颯人がキャッチしてくれた。

 

「お疲れさまでした。ちゃんと、起きてましたね」

「誰かさんが脅したからだよ…」

「へえ、誰でしょうね、さんにそんなことするなんて」

くるくると私のシャープペンを回して言う颯人。なんだかシャープペンが人質のように見える。

 

 

「10分くらい仮眠するだけなんだから許してよ」

「そう言って授業の終わりまで寝てるのはどこの誰でしょうね」

「………」

駄目だ、颯人に口で勝てる気がしない。

黒板キーキーの刑の恐怖心から眠気は綺麗に吹き飛んだのはいいけれど、こんな飛ばし方は遠慮したい。

 

 

「それに、なぜあなたはいつも横を向いて寝るんですか」

「下向いて寝るとさ、おでこが赤くなるんだよ。横だと腕が赤くなるだけで済むじゃん?」

さっきみたいに腕を組んで頭を乗せて実演しながら言う。

前におでこが真っ赤になっているのに気付かず、哉太に爆笑されたのは苦い思い出である。

 

 

「そういうわけで、横が一番いいという結論がでたのだよ」

「そうですか」

颯斗がそう言った瞬間、窓の外でカラスが一鳴きした。

 

 

「颯斗、あのカラス絶対今私をバカにした!月子に言って射ち落としてもらいたいんだけど」

「そんなことに彼女を呼びださないでください。それにあなたがバカなのは本当のことでしょう」

「…なんかさ、最近の颯斗って私に対して遠慮ないよね」

一年生の頃はもう少し丁寧に扱ってくれてた気がするんだけど。

 

おかしいな、学園にたった2人の女子なのに。月子との扱いの差がどんどん開いていく気がする。

まあ月子は可愛いからね!守ってあげたい気持ちはすごく分かるけどね!

 

 

「遠慮しないでほしいと言ったのはさんじゃないですか」

「それはそうだけどさ、遠慮しない部分が間違ってると思うんだよ」

敬語じゃなくていいし、名前も呼び捨てでいいと言っても癖なんです、と言って不変だし。

 

 

「とにかく、横向いて寝るのはやめてください」

「じゃあ上向いて寝ろと!?」

「授業中に寝ないでください」

それができたら苦労はしない。

 

 

いつの間にか教室には私と颯斗しか残っていなかった。

そろそろ部室行かなくちゃ。桜士郎先輩が待ってる…っていうか、寛いでるだろうし。

 

「まあ、授業中の睡眠については…努力するとして。そろそろ部活行かなくちゃ」

颯斗からシャープペンを受け取り、荷物をまとめてイスから立ち上がろうと机に手をつく。

しかし、なぜか肩をぐっと押されてイスにすとん、と逆戻りしてしまった。

 

 

「あの、颯斗…?」

部活行かなくちゃ、と言いかける前に颯斗はさっきまでと違って落ちついた声でゆっくりと話す。

 

「教室で、寝顔なんて晒さないでください」

颯斗の綺麗な色の瞳が夕焼けに照らされてきらきらと光って見える。

さんだって……一応、女子生徒なんですから」

一応は抜いておいてほしかった。

 

 

「何かあってからでは、遅いんですよ。もう少し警戒心をもってください」

諭すような言い方に、はい、と小さく返事を返す。

 

「いい子ですね。ちゃんとそれを実行できたら、いいのですけど」

そう言ってふわりと笑い、私の頭を撫でる。

 

 

「引きとめてしまってすみません。僕も生徒会室へ行かなくてはいけませんから、途中までご一緒しますよ」

「あ、うん」

颯斗はすっと私から離れて教室の扉の所に立つ。

 

警戒心、かあ。

どの程度の警戒心を持てばいいのやら。

 

 

「うーん…」

鞄を持って颯斗と一緒に教室を出る。

「ねえ颯斗、じゃあ私ってどこで寝ればいいの?…家以外で」

「そうですね…」

 

 

さすがに颯斗も悩んでいるようで、考えているうちに廊下の先に部室が見えてきた。

「あ。颯斗が警戒心とかなんとか忠告してくれたってことは、颯斗の傍は安全地帯ってことだよね?」

「え?」

 

 

颯斗の一歩前、部室の扉の前に立って颯斗の顔を見上げる。

「じゃあ、今度は颯斗の傍で寝ることにするよ。それなら安全っぽいし!」

名案でしょ、と言うと颯斗はぽかんとしたまま言葉を発しなかった。

 

「よし決定!では私は部活行ってきまーす!颯斗も生徒会がんばってね!」

 

 

そんじゃねーと手を振って部室の扉を開ける。

 

部室へ入ると、桜士郎先輩が寛ぎながら今日のおやつであるクッキーを食べていた。

「あー!ちょっと、私の分も残しておいてくださいよ!」

「うん、それはいいけど、番長に何言ったの?今すごいポカーンてしてたけど」

大したこと言ってないよ、と桜士郎先輩に返事をして私もクッキーに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

安全地帯であり危険地帯








(「そ、れは…別の意味で、もっと危ないとおもうんですけど、ね…」)

 

 

 

 

 

 

あとがき

ずっと書きたかったスタスカ夢。冬組が好きです。←

2011/10/19