閉じた瞼の上に、日光が射して朝を告げてくる。

目覚まし時計はまだ鳴っていないんだから、起きなくてもいいだろうと思ったが

そういえばここは現代ではなく戦国時代なんだっけ、と眠い頭で考える。

 

「んぅ…」

ごろり、と寝返りを打とうとして違和感を感じる。

なんだか体が動かない。っていうか、なんだか息苦しい。

 

 

薄く目を開けると太陽の光を遮るように誰かがいるのが見えた。

「おや、おはようございます、

その声で目の前にいるのが光秀さんなんだ、ということが分かった。

 

…目の前?

 

 

「うわっ、うわぁぁぁぁぁ!?えっ、ちょっと、何してるんですか!?」

あろうことか光秀さんは私の上に跨って、首を絞めていた。

というか絞めてかけていた。

 

 

「あまりにも安らかな寝顔だったもので、つい」

「ついの意味が分からない上に怖いんですけど!ついで首絞めないでくださいよ!」

にこりと笑う光秀さんの綺麗な銀髪に朝日が反射して綺麗…とか思ってる場合じゃない。

このままでは二度寝どころか永眠してしまう。

 

 

「ちょ、ど、どいてください…っ!」

は骸になっても綺麗なんでしょうね…」

光秀さんはうっとり、という効果音が似合いそうな頬笑みで恐ろしいことを言ってくる。

「誰かァァァ!誰か通訳ぅぅぅ!」

未だに首から離れない光秀さんの手を引き剥がそうとしながら叫ぶ。

 

 

 

「はよーっす!もう朝餉だ…ってうわっ、何やってんだよ光秀!!」

「ら、蘭丸くん!助けて!死ぬ!永眠しちゃう!」

元気よく襖を開けていい所に来てくれた蘭丸くんに向かって手を伸ばす。

 

 

から離れろよ、この変態!」

ああ、相変わらず仲がよろしくない…と思っていると蘭丸くんはおもむろに弓を引いた。

 

 

「え、いや、ちょっと待ってそれ私にも当たりそうなんだけど…ひゃっ!」

ビュッという風を切る音と共に弓矢が放たれる。

思わずぎゅっと目を閉じると、ふわりと謎の浮遊感を感じた。

 

 

「危ないですね。当たったらどうするんですか」

随分と近くから聞こえた声に目を開けてみると、私は光秀さんに横抱きにされて布団から離れた場所にいた。

そしてさっきまで私が寝ていた布団にはどすりと矢が突き刺さっていた。

 

 

「蘭丸が狙いを外すわけないだろ!お前にしか当てないよ!」

ばーか、と蘭丸くんは遠慮なく悪態をつく。

確かに蘭丸くんの弓の腕は凄いけれど、実際自分がその的の近くにいるとなれば話は別だ。

でも。

 

 

 

「光秀さん…ちゃんと私のこと、助けてくれたんですね…」

てっきり放置されるものだと思っていた。

朝一番で安らかだとか骸とか言ってくる人なんだから、私が死んでも気にしないんじゃないのか、と思っていた。

意外と、光秀さんも優しいとこがあるのかな。

 

 

「当然ですよ」

何の躊躇いもなく、頭の上から声が聞こえる。

 

はとても綺麗な骸になりそうですから。私の手で、綺麗に眠らせてあげますよ」

「………」

 

前言撤回。

優しさで助けてくれたわけじゃなかったんですね。

 

 

「私まだ死にたくないです!!おろしてくださいーっ!」

ばたばたと暴れて光秀さんの腕から抜け出す。

どしゃ、と落ちるようにして光秀さんから離れる。

 

 

とりあえず布団まで戻って光秀さんから距離をとる。

それを見計らってぱたぱたと蘭丸くんが駆け寄ってきた。

 

 

「うう…平和な我が家に帰りたい…」

目覚ましを止めて、面倒だなあ行きたくないなと思いながら学校へ行く。

そんな平凡な生活が少し恋しくなってぽつりと小さく呟くと、ぎゅっと両手を握られた。

 

 

「か…帰っちゃうのか!?、どこか行っちゃうのか…!?」

「え?あ、いや…」

帰ろうと思っても帰り方が分からない。

そもそもどうやってこっちに来たのかすら覚えがないのだから、手の打ちようもない。

 

 

「い、行っちゃやだ…!」

私の両手をぎゅっと握って不安そうな顔で見上げてくる蘭丸くんを安心させるように、微笑む。

 

「大丈夫だよ。ここに、いるから、ね」

そう言うと、蘭丸くんはこくんと頷いて安心したように笑った。

 

 

が安心できるように、蘭丸がを守ってやるからなっ!」

ぎゅっと私の手を握る蘭丸くんの手は、子供の手なんかじゃなくてしっかりした男の人の手だった。

「うん、ありがとう」

 

 

「そういう訳だから、光秀は絶対に近づくなよ」

ぎっと未だ部屋の陰になってる所に立っていた光秀さんを睨みつけるようにして言う。

あ、光秀さんいたこと忘れてた。

 

 

「まったく…子供はすぐそうやって取り入るから困ったものです。騙されてはいけませんよ」

「いやどう考えても蘭丸くんは騙すとか考えてないと思うんですが」

やれやれ、と言いながら近づいてくる光秀さんから私を庇うように蘭丸くんが立つ。

 

 

「邪魔ですよ」

に近づくな、変態がうつる」

織田軍にお世話になってる私が言うのもなんだが、蘭丸くんも怖いもの知らずだと思う。

光秀さんの顔が明らかに不機嫌になっていて、私は今すぐにでもここから逃げたい。

 

 

「頭の悪い餓鬼はこれだから困りますね…お前を先に骸にしてあげましょうか」

「はっ、やれるもんならやってみろよ!」

光秀さんはさらさらの銀髪を掻き上げて、懐から短刀を取り出す。

蘭丸くんは私の布団に突き立った弓矢を引き抜いて再び弓を構える。

 

 

「いやいやいや、私の部屋でそういうことするのやめてええええ!」

 

 

 

 

 

 

 

平和な朝が恋しい毎日







(朝餉が冷めるわよ、と言って部屋にきてくれた濃姫様が天使に見えました。)

 

 

 

 

 

 

あとがき

織田軍に滞在するのも楽しそうですが、戦場じゃなくても常にデッドオアアライブな生活だと思います。

2012/01/27