授業が終わって部活も終わる時間。

私は新聞部部室にひとり残って今度の構内新聞の記事の調整をしていた。

外はもう薄暗くなってきている。もう少ししたら星も綺麗に見えそうだ。

 

一息つこうかと思ってイスから立ち上がり伸びをすると、コンコンと部室の扉がノックされた。

「うん?はいはーい、どちらさ…」

「ぬぬーん!!」

 

扉の方へ歩き出そうとした時、特徴的な声と共にでかい男が飛びかかってきた。

 

「ぐはっ、つ、翼…重い苦しいつぶれる…!」

よろよろと数歩後ずさると腰あたりに机が当たる感覚がした。

片手を机について、もう片方の手で翼を押し返す。

 

 

「聞いてほしいのだ!」

ぱっと私から離れたかと思うと今度は両手を握ってブンブンと上下に振られた。

この子はほんとに動作が大きすぎる。

 

「ぬっふっふ、新しいロボが完成したから新聞に載せてほしいのだ!」

「唐突だなあ…。で、新しいロボって?ここで爆発させるのはやめてよ?」

「大丈夫なのだ!昨日生徒会室で爆発したから、今日はちゃんと調整してきたぬん!」

爆発してんじゃないか。

大丈夫だろうか、と部屋に散らばる資料に目配せしてから翼の方を向く。

 

 

「ぬんぬぬーん!!」

じゃんじゃじゃーん、の音程で自分の後ろにあったキツネ型のロボを見せる。

 

「おお!なんか可愛い!」

足にローラーがついているところをみると、どうやら自分で歩いてくれるロボらしい。

 

「ぬっふふ。この子は両手が塞がってても扉のノック、開け閉めをしてくれるロボ!コンコンコン太郎さんなのだ!」

相変わらずのネーミングセンスはこの際スルーだ。

「へえー、珍しく便利そうな発明したじゃん」

珍しいは余計なのだ!と言って、ごそごそと自分のポケットを漁る。

 

 

「この油揚げマスコットが発信機になってて、これについて歩いてくれるから手が塞がってても動かせるのだ」

そして扉の前で立ち止まると自動的にノックして扉を開けてくれるらしい。

 

「おおー!これは便利かも!」

「だろっ、だろっ!?だから新聞に載せてあげてほしいのだー!」

コン太郎さんの頭を撫でながら翼はうるうるした目で見上げてくる。

 

 

「絶対の保証はできないけど…部長に頼んでみるよ。あ、じゃあ写真撮っておいていい?」

「ぬん!かっこよく撮ってほしいのだ!」

部屋の隅にあるデジカメを構えると、翼は両手ピースでコン太郎さんの後ろに立った。

 

 

 

何枚か写真を撮ってから翼も私もイスに座る。

「でもほんといきなりだったね。何かあったの?」

「ぬ…その、ちょっぴり研究費を増やしてほしくて…」

視線をあちこちに飛ばしながらぼそぼそと翼は言葉を零す。

 

「ぬいぬいに相談したら、校内新聞に載るくらいのものを作ったら考えてやるって言うから、頼みに来たんだぬん」

「なるほどね。あ、チョコ食べる?」

夜食というわけではないけど、小腹がすいた時の為に持ってきていたお菓子を机に広げる。

 

 

食べる!と元気よく返事をして持ってきたチロルチョコに手を伸ばす。

「ぬー…書記と居る時も落ちつくけど、と一緒に居る時も落ちつくのだ」

だらーんと机に上半身を倒してくつろぎモードに入った翼の頭を撫でる。

 

 

「こんな遅くまでお疲れ様。もうちょっとしたら私も帰るけど、途中まで一緒に行く?」

「行く!」

ぱっと顔を上げてふにゃりと微笑む。

図体はでっかいけれど、翼を見てるとなんだか癒される気がする。

 

 

 

「残念だがなぁ…まだお前は仕事が残ってんだよ翼ァァァ!」

「ぬぬぬぬいぬい!?」

 

どーん!といつの間にか部屋にいた一樹会長にびくっとする。

気配もなく入ってこないでいただきたい。

 

 

「生徒会室飛び出してこんなとこで油売ってんじゃねえ!殺気立ってる颯斗と二人とか怖すぎんだろうが!」

「それは怖いわ…ってあれ?月子は?」

「もう暗いからな。あいつは颯斗が笑顔の圧力で先に帰したんだ」

なんとなくその光景を想像してぞわりとする。颯斗の笑顔は色んな意味ですごい力があるからなあ。

 

 

「ほら、早く生徒会室戻ってちゃっちゃと仕事終わらせろ!」

「ぬぅぅ…もうちょっとここでとまったりしたいのだー!」

一樹会長に手を引っ張られながらもイスから立ち上がろうとしない翼が、なんだか親子みたいに見えてくすりと笑う。

 

 

「まあまあ。そうカッカしないでさ、一樹会長もチョコどうですかー?」

「おっ、悪いな」

近くにあったイスを引っ張ってきて私たちは三角形になるかたちで座ってチョコをつまむ。

 

 

「あーなんか一回座っちまうと戻りたくなくなるな」

「だろ、だろ!?ほらーぬいぬいも俺と同じなのだ」

一樹会長もイスの背もたれに体を預けてリラックス体勢に入る。

 

 

「そもそも翼がここにかけ込んできたのは一樹会長のせいらしいじゃないですか」

「は?俺?」

きょとんとして私と翼を交互に見る。

 

「研究費欲しさに、この新しいロボを新聞に載せてくれーって言いにきたんですよ」

「マジかよ。まあどうせ載らないだろ?」

一樹会長はこいつか、と言って翼の横にちょこんと座るコン太郎さんの頭をぽんぽんと撫でる。

 

 

「それが、結構今回はまともな発明なんで。部長に掛け合ってみようかと」

「えええええ!?」

ばっと体を起して私の顔を見る。いや、そんな見られても。

 

「ぬっふふふー!はちゃんと俺の発明の良さを分かってくれるからな!」

「マジで載ったら俺が颯斗を説得しなきゃならない…」

ぶつぶつと何かを呟いたかと思うと、今度は一樹会長が私の手をガッと握る。

 

 

「頼む!今月の新聞は勘弁してくれ、予算ギリギリなんだ!!」

「ぬー!来月じゃ遅いのだ!ー頼むのだー!」

「あんたら私にどうしろというの」

 

 

 

「会長、翼くん。なかなか戻ってこないと思ったら…さんに迷惑でしょう?」

 

 

は、やと…という一樹会長の掠れた声と共に、私の背後に冷ややかな空気が漂った。

 

「少し、じっとしててくださいね」

その声の後に耳に何かがすぽんとはめられる。ああ、きっとこれは。

 

 

耳栓を通り越して断末魔のような二人の声がかすかに届いた。

ご愁傷様、と心の中で呟いて合掌する。

 

耳栓が抜かれると、颯斗の「二人が迷惑をかけてすみません」という申し訳なさそうな声がして後ろを振り返る。

声と裏腹に非常にご立腹そうな顔に頬が引きつってしまった。

とりあえず颯斗もチョコどうぞと言って気を静めてもらうことにした。

 

 

 

 

 

避難所は新聞部









(ところで、生徒会の人って出身どこなの?なんで皆気配消せるの?)

 

 

 

 

 

 

あとがき

翼オチにする予定が全員集合してしまったという生徒会の仲良し具合。

2012/02/22