がくがくと体が揺れている。
というよりは、揺さぶられている感覚がする。
「…、……!」
誰かの声が聞こえるけれど、ぼんやりとしか耳に届かない。
けれど、微かに起きてと言われたような気がしてゆっくりと目を開いた。
「…!さんっ!」
綺麗な青空をバックに、太陽の光を遮るようにして私を覗きこんでいたのは夏目くんだった。
「あ…えっと…おはよう?」
「いやおはようじゃないから!」
すかさずツッコミを入れてくる夏目くんをぼーっと見上げる。
「なんで夏目くんがこんなとこに…?」
「それはこっちの台詞だよ。急にすごい風が吹いて何かと思ったらさんが倒れてて…」
びっくりして心臓止まりそうだった、目が覚めてよかったと夏目くんは安堵の息を吐く。
そういえばなんで私は倒れてるんだっけ、と思った時に何かを手に握っていたことに気付いた。
かさりと音を立てた紙の切れ端に書かれたのは、妖祓いのための呪。
「もしかして、また、妖に?」
「うん。ちょっと、食べられそうになって追い払おうとしたんだけど…」
ゆっくり手を上げて、握ったままのお札を目の前に持ってくる。
「あー。ちょっと間違えて書いちゃったみたい。そのせいで変な爆発しちゃったのかも」
あはは、と笑う私と反対に夏目くんは顔を強張らせていた。
「ば、爆発って…さっきの突風!?あれに巻き込まれたってこと!?」
「今に始まったことじゃないよ。ただちょっと、今回は…当たり所が悪かったみたい」
さっきから背中が痛くてたまらない。
起き上ろうにも力が上手く入らないせいで、未だに仰向けに寝転んだままだ。
「今までも…ずっと、こんな風に怪我してたのか…?」
眉間にしわを寄せて夏目くんは私の鎖骨あたりに手を滑らせる。
ぴりっとした痛みが走ったことで、そんなとこも怪我してたのかと気付いた。
「いつもはこんなに怪我しないから、大丈夫!だから、そんな心配」
「するよ」
再び私の顔を覗き込み、強く言われた言葉で私の声は止まる。
「心配、するよ。さんはおれの大事な…」
じっと夏目くんの目を見つめると、綺麗な色の瞳がゆらゆら揺れていた。
「夏目くん…?」
ぽつりと名前を呟くと夏目くんはぱっと顔を上げた。
「っ、と、とにかく!心配するんだから、これからは怪我しないように気をつけること!いいな!」
「は、はいっ」
太陽の光のせいなのか、夏目くんの頬はさっきよりも少し赤みが差しているように見えた。
「それで、起き上れそう?」
「手を貸してもらえれば…」
分かった、と言って夏目くんは私の手をそっと握る。
そのまま引っ張ってくれるのかと思ったら、もう片方の手を背中に添えてゆっくり体を起してくれた。
手と背中に伝わる夏目くんの温もりが、びっくりするほど優しくて。
とす、と頭を横にスライドさせて夏目くんの肩に凭れかかった。
「あ…ごめん、痛かった?」
「……うん。痛い。だから、もうちょっとこのままでいてほしいな…」
そう言って夏目くんの顔を見上げると、気のせいとは思えないくらい真っ赤になっていた。
「ちょっ、こっち見ちゃ駄目だ!」
ぱっと顔を逸らしても、髪の間から見える耳はしっかり赤く染まっていた。
それを見て小さく笑って、私は握られたままの手に視線を落とす。
「見ないから、もうちょっと、このままでいてもいい?」
「…もう、少しだけなら」
いい、と小さな声が聞こえた。
「夏目くんって、なんか包帯みたい」
「それは…どういう…」
「優しく包んで傷を癒してくれる、包帯みたい。今、この怪我ほとんど痛くないんだよ」
いつの間にか傷の痛みは治まっていた。
背中に添えられた手、ぎゅっと握っていてくれる手に安心する。
「ありがと、夏目くん」
そう呟いて夏目くんの肩にすり寄る。
服越しに聞こえた心臓の音は、とくんとくんと忙しく鳴っていた。
きっと、夏目くんだけじゃなくて私の心臓も同じくらいの速さで鳴っているのだろう。
傷だらけ少女と包帯少年
(…どうしよう。顔が熱い。ものすごく熱い。さんはあれだ、おれにとってとんでもない爆弾だ。)
あとがき
ヒロインは素で喋ってます。天然っていうより、そういうことに関して鈍感なんですきっと。
2012/04/28