「この学校の制服ってスカート短すぎると思うんだよ」
「…いきなりどうしたのさ」
食堂で錫也お手製のお弁当に箸を伸ばしていた羊の動きが止まる。
哉太と錫也もきょとんとした顔で私を見た。
「この前急いでた時に階段3段分くらいジャンプして降りたのよ、その時に隆文くんにウッカリ見られまして」
「みっ、みみみ見られたって」
「まあスパッツ穿いてたんだけどね」
一人であわあわしている哉太に何やってんのと聞くとなんでもねーよ!と怒鳴られた。
「そういうわけで、同じ女の子である月子に意見を聞こうと思ったんだけど…今日はいないの?」
「ああ、月子は部活の集まりに行ってるよ」
「ぐへえ、タイミングミスったか…」
もぐもぐと錫也お手製の卵焼きを頬張る。うっわあ相変わらずすごく美味しい。
「大体月子はと違って階段飛び降りたりしないよ」
「それもそっか」
羊の言うことも確かに頷ける。
「つーか何ナチュラルに混ざってんだよ」
「俺が誘ったんだよ。食堂のメニュー前ですっごく悩んでたからさ」
隣で鮭おにぎりにかじりつく哉太に、私の前に座る錫也がさらっと説明する。
「私だって最初は遠慮したよ、幼馴染集団に急に乱入しちゃ悪いだろうと思って」
からあげに箸を伸ばすと横から羊に掻っ攫われた。ちょ、それ私のからあげちゃん!
「…でも錫也が、今日はお重弁当作ってきたからとか言うから」
「目覚まし鳴る前に起きちゃって」
つい、と言って笑う錫也と目の前に広がる3段分の重箱。
もぐもぐと別のからあげを頬張りながら思う。私なら二度寝する、と。
「せっかくなら大勢で食べた方が美味しいだろ?それに哉太も羊もに会いたがってただろ」
「うん」
「ねっ、ねーよ!んなこと思ってねーっつの!」
こくんと頷く羊と対照的にガタッと立ち上がる哉太。
しかしすぐに錫也に笑顔で座りなさいと言われて、すとんと元の位置に収まった。
「羊は良い子だね、さっき私のからあげを奪っていったの許してあげよう」
「Merci、」
「…知らない間に打ち解けたよな、お前ら」
次のおにぎりに手を伸ばしながら哉太がぽつりと呟く。
「があまりにもしつこいから」
「あー、あの頃は毎日羊のところに通ってたよな」
懐かしいなあと言いながらお茶を飲む錫也。
月子にしか懐かなかった羊に対して、謎の意地が発生した私は毎日…ではないものの、ほぼ毎日羊のクラスへ通った。
その結果、少しずつでも喋るようになりいつの間にか打ち解けたのである。
「いやー、羊に初めて名前を呼んでもらえた時は嬉しかったなあ…!通った甲斐があったよ!」
「喜ばれ過ぎてちょっと引いたけど」
「えっ」
そんな事実は初耳である。
引かれてんじゃねーかとさりげなくツッコんだ哉太の足をどすっと踏んでやった。
「いってーな!何すんだよ!」
「えっ何の話?やだ哉太ってば…一人でなにしてんの怖っ」
「哉太、食事中は落ちつきなさい」
「俺のせいじゃねーよ!!!」
ほんと錫也って日に日にお母さんになっていくなあと思いながら心の中でくすりと笑う。
それからは錫也のお怒りに触れないために、たんまりあったお弁当が無くなるまでは大人しく食べることに集中した。
「で、だよ。この学校のスカートが短いのは男子生徒へのサービスなのかな」
「ゴホッ」
「唐突に話を戻したね」
咳き込む哉太に目もくれず、羊は最後のひとつだった卵焼きを口へ運んだ。
「男として、こういう短いスカートは嬉しいものなの?」
「そうだなあ…嬉しくないって言えば嘘になるけど、俺は俺以外の男には見せないでほしいかな」
肘をつき、手を組んで少し首を傾ける錫也。
「ちょ、待った。不覚にも今錫也にときめきそうになった」
「はは、ときめいてくれていいんだよ」
にこりと微笑む錫也の目線から逃れるように目を逸らす。
「じゃあ月子は僕が貰うね」
「それじゃあ哉太が可哀想だろ」
「そっか。…あ、こういう時にあの言葉を使うんだよね、!」
わくわく、といった効果音が似合いそうな笑顔で羊が私を見る。
何の話だっけ、と少し考える。
もしかして数日前に羊に教えた言葉だろうか。
「あー、アレか、あの言葉か」
「うんうん」
「「哉太ざまあ」」
せーの、と合わせることなく私と羊の台詞はハモった。
「てめーらァァァァ!!!表出ろ!ぼっこぼこにしてやる!」
ガタァァンとイスを跳ね飛ばして立ち上がる哉太を私と羊の冷めた目が見つめる。
「やだ哉太ってば女の子に対してそれは無いわー」
「そうだよ、だって一応女の子なんだよ」
「羊、それフォローしてるようでしてない」
お前ら本当に打ち解けてるのか、と哉太がツッコミを入れる。
もちろん打ち解けてるに決まってるよ、と返しながら私と羊も立ち上がって哉太と間合いを取る。
「哉太のくせに、僕に勝てると思ってるの?」
「きゃー!羊かっこいー!」
「おちょくってんじゃねーぞコラァァァ!」
ぐっと足を踏み込み、走る体勢になった哉太。
しかし、それは突如立ち上がった錫也の一声によって留められる。
「哉太、羊、。食堂で暴れるんじゃありません」
「「「すいませんでした」」」
その声はとてつもなく低く、オカンではなく魔王様のようだった。
食事は落ちついて
(「すんません、もうお茶も飲み終わってたし大丈夫だと思ったんですすいません」「うん、今度は気をつけてね」)
あとがき
春組はドタバタギャグが楽しいのです。
2013/03/10