授業が終わった後、私は次の新聞のネタを探して校内を歩きまわっていた。

すれ違った水嶋先生に「ちゃん暇なの?」って言われたけど、これも立派な部活動ですと言い返しておいた。

 

今日は曇り空。

窓から見上げた空は灰色で、星も月も見えそうにない。

 

 

「それでなんで生徒会室に来るんだよ」

「だってネタありそうじゃん?何かないのー」

ソファに座って足をばたつかせる。

 

月子は部活で、颯斗は職員室に行っているらしく今は翼と一樹会長しかいない。

まあ翼はラボにこもっていて、一樹会長と二人なのだけど。

 

 

「ねえねえ何かないの?生徒会会長、不知火一樹に不倫疑惑!?とか」

「ねえよ!お前俺をどうしたいんだよ!」

「面白くしたい」

やめんか、とお父さんのようなお叱りの言葉を飛ばされる。

 

「じゃあ学園のマドンナ、夜久月子に迫る生徒会長を激写!とか」

「殺される。いろんな奴に殺されるからやめてくれほんと」

まあ確かにあの幼馴染組はやりかねないだろうなあ、とぼんやり思う。

 

 

「うーん。何かないかなあ」

そう言葉を発したのと同時くらいに、ラボから爆発音とものすごい煙が出てきた。

文字にするならドッゴォォォン、だ。

 

 

「げっほげほげほ、うぬ、苦しいのだ…!」

ラボから倒れるように出てきた翼を見て、顔を引きつらせる一樹会長と私。

 

「…翼死す、発明に犠牲はつきものなのか」

「やめろっつの」

「冗談だよ」

ぱたりと床に倒れたままの翼の元へ向かい、背中をぽんぽんと叩いてみる。

 

「大丈夫?翼、生きてる?」

「ぬ…が3人いるように見えるのだ…」

「やばい重症!!」

ごろんと仰向けに寝転んだ翼の頭を持ち上げ、とりあえず膝に乗せてあげた。

さすがに床は痛いだろうし。

 

 

「なっ、てめ、翼…!なんつーおいしいとこを…じゃねえや!」

自分の机にいた一樹会長が駆け寄ってきて翼の頬をぺしぺし叩きながら声を上げる。

「お前早くこの惨状をどうにかしねーと颯斗に怒られるぞ!寝てる場合じゃねーぞ翼!!」

 

 

「大丈夫ですよ。もう手遅れですから」

「くひひっ、今日も派手にやらかしたねーエジソン君」

 

音も無く現れたのは、大魔王様…もとい颯斗と桜士郎先輩。

一瞬にして顔が青ざめた一樹会長の肩にぽん、と颯斗は手を置く。

 

 

「一樹会長。言いましたよね、僕がいない間は一樹会長が翼くんを見ててください、って」

「ひっ、い、いや見てた見てた見てたけど!今日は突然だったんだ、なあ!」

突然話を振られてびくりと顔を上げる。

なんでこっちに振ったんだ巻き込むんじゃない。

 

「まあ確かに今日は突然だったかな。何の前触れもなくドーンだったよ」

「そうですか」

「お前の言葉なら信用するのな」

ぽつりと余計なことを言った一樹会長に冷ややかな笑顔を向けたあと、颯斗は私の足元へ目を向ける。

 

 

「それで、どうして翼くんは彼女に膝枕してもらってるんですか」

「うんうん。分かるよ番長、ずるいよねー。俺でもまだしてもらったことないのに」

「先輩はちょっと黙っててください」

「ハイ」

颯斗は桜士郎先輩を黙らせ…いや、大人しくさせて床に座り込み、私と同じ視線にくる。

あ、やばい。怖い。

 

 

「な、なんかね、ラボから出てきて倒れちゃって。さすがにそのままは可哀想だからさ」

「…まあ翼くんに限って下心は無いでしょうけど…」

難しい顔をして颯斗は翼を見下ろす。

 

「エジソン君なら大丈夫でしょ。一樹だったらヤバそうだけどね、くひひっ」

「桜士郎。ゴーグルかち割るぞ」

ぐいぐいと桜士郎先輩の長い三編みを引っ張りながら一樹会長は低い声を出す。

 

「一樹こっわーい!でも思ったでしょ、ちゃんに膝枕されるなんてずるーいって」

「おっ…思ってねえよ!」

ばしんと掴んでいた三編みを桜士郎先輩の顔にむかって投げ飛ばす。

べち、と顔面に結び目のリボンが激突した。

 

「ひひ、俺には分かっちゃうよーん。羨ましいどころか、あわよくば太腿撫でたいとか思ってるだろ一樹!」

「桜士郎ォォォ!!黙らっしゃい!!」

「一樹ってば顔まっかー!」

 

 

 

 

 

「なにあれ中学生?」

「もう怒る気力もなくなりました」

ぐるぐると机の周りを走り出した二人を眺めて颯斗は肩を落とした。

 

「そもそも倒れたのが一樹会長だったら、こんなことしないし。腹パンで起こすよ」

「賢明な判断です」

「どのへんが!?!?」

しっかり会話は聞こえていたのか、一樹会長からツッコミが飛んできた。

 

「じゃあ俺は?俺は?」

にこにこしながら自分を指差して聞いてくる桜士郎先輩にも、一樹会長と同じだと返事をしておいた。

 

 

 

 

「つかいい加減起きろよ翼。こんだけうるさいのに、なんで起きねーんだよ」

「さすがに心配になるもんなあ…翼ー、救急車いるー?」

少し身体をゆすってみると、うう、という呻き声みたいなものが聞こえた。

 

「…翼くん」

ぽつりと颯斗が翼の名前を呼び、少しだけ顔を耳元へ近付ける。

 

 

「あと3秒で起きなかったら、ラボは取り壊してニワトリ小屋にします。ハイ、さーん、にー」

「ぬわああああああ!!コケこっこさんにとられるのは困るのだー!!!」

がばっと勢いよく起き上った翼の頭がぶつかりそうになって、身体を仰け反らせる。

颯斗も同じく寄せていた身体を反らしていた。

 

 

「んん?あれ、なんでそらそらとおーしろーもいるのだ?」

「ラボが爆発した音を聞きつけて来てくれたんだよ」

「あ」

くるっと翼はラボを振り返り、颯斗の顔を振り返り、あわわわと脅え出した。

 

「そらそら、ごめんちゃい…」

「言いたい事は山ほどありますが、まあ後にしましょう。どこか痛いところはありませんか?」

「ぬー」

翼はぴょんと立ち上がり、その場でぴょこぴょことび跳ねたり身体を捻ったりする。

私は颯斗に手を引かれて立ち上がり、少し痺れた足を解していた。

 

 

「ん、大丈夫なのだ!」

にかっと笑ってブイサインをする翼にほっとする。

 

「よかった、全然起きないからどうしようかと思ったよ」

「エジソン君てば、ずっとちゃんの膝枕で寝てたんだよー。一樹が羨ましがっててね」

「なんで今日はそんなに俺を陥れようとしてくるんだよ、何かしたか俺」

 

また言い合いを始めた一樹会長と桜士郎先輩を他所に、翼はじっと私の顔を見て、ぽんと手を打った。

 

 

「そっか!なんかすごく気持ちいいなーって思ったらの膝だったのか!ありがとぬん!」

 

 

翼がそう言い放った瞬間、生徒会室が一気に静まりかえった。

 

「…翼くん」

「翼、お前、起きてたのか」

じりじりと翼に攻め寄っていく颯斗と一樹会長に気圧され、翼は一歩ずつ後ろへ下がる。

 

「お、起きてないぞ!最初は意識あったけど、なんか気持ちよくてつい、すやーっと…って二人共顔怖いぞ…!」

「てんめ翼ァァァ!」

「詳しく聞かせて頂きますよ、翼くん」

今度は翼と一樹会長の追いかけっこが始まった。

そんな二人をしかり飛ばす颯斗を見ていると、横に影ができた。

 

 

 

「やー、エジソン君も男だったってことだねぇ。くひひ、君も気をつけなよ」

「いや、えと、はい…」

一応そう返事はしたが、翼のことだから、純粋に枕みたいだと思ってただけじゃないかと思う。

 

そう、だよね、と自分に言い聞かせながら一樹会長と颯斗に責められている翼を見ていた。

 

 

 

 

 

 

やわらか枕








(「桜士郎先輩は逆に枕にしたい」「えっ?抱き枕ならいつでも」「嘘です座布団にしたいです」「ぐひっ」)

 

 

 

 

 

 

あとがき

翼がいいとこ持ってったようで結局怒られてる。

2015/02/08