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銀時編 ・ 総悟編 ・ 土方編 ・ 高杉編 ・ 退編 ・ 万事屋編

 

 

 

*欲しいものがありまして 銀時編 *

 

「あっれ…買い置きしてなかったかなー…」

がさごそと万事屋の棚の引き出しを漁る。

「朝っぱらから何やってんの、お前は」

ふあー、とあくびをしながら銀ちゃんが歩いてくる。

 

「あ、銀ちゃん。丁度いいや、あのさ、銀ちゃんリップクリームとか持って…るわけないよねぇ」

「何なの。朝から俺を貶したいの?」

いやいや、そうじゃなくて。と言いながら、開けっ放しの引き出しを閉めていく。

「昨日どこかで落としちゃったみたいでさー…」

「別にリップクリームくらい無くても大丈夫だろ」

 

「いやいや、大丈夫じゃないよ。女の子としては唇ガッサガサっていうのは重大な問題なんだよ」

「あーあー、冬場とか切れると痛いもんな」

「そうそう。あのピシッってひびわれる感じ…って違う!女の子はいつでも潤っててほしいものなの!」

ぱたん、と一番下の段の引き出しを閉めて立ち上がる。

 

「んなもん、ほかのもので代用しとけばいいだろ。何か…甘いものとかさ。ツルッツルしてそうじゃん」

銀ちゃんはどかっとソファに座って適当なことを言う。

「ツルツルっていうより、砂糖でテカテカになりそうだけどね」

「テカテカとか言ってんじゃねーよ。糖分なめんなよ」

そんなこと言われても。

そもそも砂糖塗りたくるなんてしたくない。

 

「あ。なら、いいモンがあるぞ」

ソファに座ったまま、銀ちゃんが呟いた。

「え、何。まさかリップ持ってんの!?うっわ何か意外!」

「違ぇよっつーかほんと何、貶したいの?虐めたいの?」

冗談冗談、と笑いながらソファへ近づく。

 

「リップじゃないなら、何持って…」

何持ってるの、といい終わる前に腕を引っ張られ、銀ちゃんの胸にダイブする。

 

「潤いが欲しいんだろ?水分くらい、俺の分けてやるよ」

 

意味が分からない。

そう言ってやりたかったけれど、その前に銀ちゃんは私の唇をべろりと舐めた。

 

「ぶわあああああ!!!!何してんのお前ぇええええ!!!」

「何って、水分」

「当たり前みたいに言うなァァ!唾液なら自分ので間に合ってます!」

「遠慮すんなって。ほら、お前の唇もツヤツヤになるし、俺もお前にちゅーできるわけで。オールオッケーじゃね?」

「ねえよ!これ私が恥ずかしいだけじゃん!ちょ、顔近づけないで!」

「乾いてきたらまた舐めてやるからよ。金もかかんねーし、一石三鳥じゃねーか」

「無理無理無理!私の心臓が持たない!あーもう恥ずかしいからやめてェェ!!!」

のしかかってくる銀ちゃんを押しのけて、薬局へ走ったのは3分後だった。<br>

欲しいもの:リップクリーム

 

 

 

*欲しいものがありまして 総悟編 *

 

「あのさ、総悟」

「何でィ」

「手錠持ってない?」

 

「…ついにドMに目覚めたんですかィ」

違う。あんたを繋いでおきたいんだよね。あの…橋の欄干とかに」

「何でまたそんなとこなんでさァ」

 

「あんたが朝っぱらから嫌がらせをしてくるからに決まってんでしょうがァァァ!!!」

バーンと傍にあった枕を総悟に向かって投げつける。

総悟はそれを軽やかにひょいとかわす。

 

「もうね!うんざりなのよ!毎朝毎朝、部屋の前にバナナの皮敷き詰めたり、天井に水入りバケツ仕掛けたり!

よけるのが大変なのよ!お前は小学生か!」

「寝起きならぜってー引っかかると思ってたんですけど…案外上手くいかないもんですねィ」

「ふっざけんなよお前ぇぇえええ!!」

 

びゅんと目覚まし時計を投げつけてやる。

それも軽やかによけられる。

遠くでガシャンという音が聞こえた。…投げなきゃよかった。

 

「とにかく!ほんと私の安眠のためにも、夜中どこか行ってて欲しいの!どこかに繋いでおきたいの!」

「なら、お前が橋の下で寝ればいいだろーが」

「あんたなら橋の下まで来て何か仕掛けるでしょ」

「……チッ」

 

舌打ちした。

仕掛ける気満々じゃないか。

「まあ、安心しなさい。仕事はしてもらうから、朝一番の見回りの時にはずしてあげるから」

「ちっとも安心できねーや。そもそも外で寝たら風邪引いちまいそーでさァ」

「大丈夫よ。あんたみたいなドSなら風邪菌も避けるわよ」

 

まあ、でも風邪なんか引かれたら仕事に支障が出るか。

「じゃあ、室内にしてあげるわ。この屯所内の倉庫の中の柱に繋いであげるから」

「嫌でィ」

 

「じゃあ私の安眠を約束してよね!」

「それはもっと嫌でさァ」

 

この野郎。そんなに私の睡眠時間を減らしたいのか…!

「やっぱ外に繋いでやる!ほら!手錠貸して!」

「嫌なこった」

 

そう言って逃げる総悟を走って追いかける。

「待てこらァァ!私の安眠のためにも、手錠プリーズ!」

「そんなつまんねーことさせやせんぜ」

「人の安眠をつまらないとか言うなァァ!」

 

この後、土方さんに2人そろって怒られました。でもわけを話したら土方さんも協力してくれました。

やっぱり、安眠は欲しいですよね。そのためにも手錠プリーズ。

 

欲しいもの:手錠

 

 

 

*欲しいものがありまして 土方編 *

 

「やっぱり、百万本の薔薇って憧れますよねー!」

「何の話だ」

「告白とか、プロポーズとか、記念日とかそういうときの話です」

休憩時間。土方さんの部屋でテレビを見ていると、丁度告白特集みたいなものがやっていたのだ。

 

「つーか百万本なんて持てるわけねーだろ」

「そんな現実的な返答はいらないです」

「でも無理だろ。百本でも無理っつーか花屋に置いてねえよ」

「気分の問題なんです!気分!」

 

ごろーん、と大の字に寝転ぶ。

「そういう風にされると、思い出に濃く残るじゃないですか。忘れられなくなるじゃないですか」

「へえ」

「軽っ」

 

「好きな人との思い出なんですよ。せっかくなら、とびきり綺麗でろまんちっくーな感じに残したいじゃないですか。

ね、土方さん」

「んじゃ、見回り行ってくるからな。お前もちゃんと仕事しろよ」

「あっれ、今私割りと良いこと言ったと思うんですけど。全部スルーなんですかコノヤロー」

 

そんな呟きに返事もしないで、土方さんは部屋を出て行ってしまった。

むなしく響くテレビの電源を消して、私も自分の部屋に戻って仕事を始めることにした。

…今日は、付き合いだして一年の『記念日』なのになあ、なんて思いながら。

 

 

 

「あーつっかれたー」

休憩休憩、と心の中で呟きながら廊下を歩いていると、門から土方さんが入ってくるのが見えた。

「あ、おかえりなさい土方さん!」

ぶんぶんと手を振って叫んでみると、土方さんはこっちに向かって歩いてきた。

 

「お疲れさまでーす」

「ああ。お前も仕事はちゃんとしてたか?」

「そりゃもう、ばっちりがっつり……あとちょっと残ってます」

息抜きくらいいいじゃないですか、と慌てて言う。

 

…あれ。

いつもなら、『仕事終わってないのにふらふらしてんじゃねえ』とお叱りの言葉が飛んでくるのに。

「あの、土方さん?」

何か変なものでも拾って食べたんですか。

そう思いながら疑問の声を上げてみると、ずいっと何かが目の前に出てきた。

 

「…薔薇の、花…?」

「百万本もなくても、一本で十分だろ。その…記念日の思い出とやらには」

 

びっくりした。

覚えて、いたんだ。

 

そっと、綺麗にラッピングされた一本の薔薇の花を受け取る。

「土方、さん……土方さんが花屋にいるところとか想像できないんですけど!

ちょ、行くなら私もついていきたかったんですけど!しかも薔薇って…ぶっふー!」

「なっ、なんだコラ!お前が思い出は綺麗なーとか何とか言うから行ってきてやったんだろうが!」

「でも、まさか本当に行くとは思ってなかったんですよ!ぶ、ふふっ!」

「笑ってんじゃねーよこのバカ!」

二人そろって顔を真っ赤にして。「ありがとう」と「これからもよろしく」を、とんだ喧嘩口調で言い合った。

ああ、こういう忘れられない日も、私たちらしくていいかもしれないな、なんて思いながら。

 

欲しいもの:百万本の薔薇

 

 

 

*欲しいものがありまして 高杉編 *

 

「たーかすーぎさーん!」

「あ?」

窓辺で煙管をふかしていた高杉さんは私の顔を見るなりめんどくさそうに声を出した。

「何ですかそのテンションの低い声!」

「お前のテンションが高すぎるんだ」

「そんなことないですー。ってそうじゃなくて!」

今日ここへ来た目的を果たさなきゃ。

 

「高杉さん!刀一本くださいな!」

 

「……あァん?」

「すいませんそんな低い声出さないでください」

「お前こそ、そんな高らかに言う言葉か。刀は八百屋行きゃ売ってるようなもんじゃねーぞ」

「わかってますよ!だから、高杉さんに頼んでるんです!」

 

「何で刀なんざ欲しいんだ」

「私も鬼兵隊の一員…高杉さんを守るため!強くなろうと思ったのです!」

「…俺を、守るねェ」

ふうっ、と煙を吐いて薄く笑う。

 

「はい!私も皆さんに負けないように、強くなって、高杉さんを守ってサポートしたいのです!」

ぐっと握った手を天井に向かって突き出す。

「いざとなったとき、誰も守れないなんて、辛いですもん」

そう言うと、窓辺からため息が聞こえた。

そして高杉さんは私の前に立って、思いっきり、私の頬を引っ張った。

 

「いっひゃい!いひゃいれふ!」

「ククッ、俺がおめーなんかに守られなきゃならねぇほど弱いと思ってんのかァ?」

「思っへないれひゅ!れも、万がいひっへこほも!」

「何言ってんのかわかんねーよ」

それは貴方がひっぱるからです。

 

べちべちと頬を引っ張る手を叩いてみると、最後にぐいっと強く引っ張られて、手は離れた。

「あのな。てめーの事はてめーで守る。お前に守られるほど、一杯一杯じゃねぇんだよ」

「ですから、万が一ってことが…」

「無ェよ。俺が負けることなんかな」

ふん、と鼻で笑って高杉さんは言葉を続ける。

 

「だが。お前のことまで守ってやれるかはわからねえ」

「え」

「だから、お前はお前のために強くなれ。俺を庇うとか守るとか甘いこと言ってんじゃねえ」

びしっ、とデコピンをくらって一瞬ひるむ。

 

「俺を守ってお前が死ぬとか、許さねえ。自分が死なねぇように強くなれ。…一緒に生きろ」

 

「…高杉さん…」

「で。刀、いるのか。いらねぇのか」

私の横を通り過ぎて、そう言った。

「…いります!私、自分のために、高杉さんと一緒に生きてくために強くなりたいです!」

「ククッ、俺の稽古は厳しいぞ」

「うう…が、頑張ります!」

 

そして私は高杉さんの後を追いかけた。

貴方が心配しなくてもいいように。私は、強くなろうと思います。

 

欲しいもの:刀

 

 

 

*欲しいものがありまして 退編 *

 

屯所の裏側の家に住む私には、現在欲しいものがあります。

それは…。

 

「おふだ?」

「そう!魔よけの御札が欲しいのよォォォ!!!」

バーンと机を叩いて叫ぶ。

目の前に座る退はキョトンとしている。

 

「え、な、なんでまた御札なんか欲しいの…?」

「聞いてよ退!最近、夜な夜な台所のほうから変な呪文みたいなのが聞こえるの!」

「…呪文?」

「そう!おかげで夜が怖くて怖くて…!ぜったい変な霊的現象よ!あわわ、どうしよう!」

「ま、待って待って。台所…って、あそこだよね」

そう言って退は指をさす。

「うん」

小さく頷くと、退は少し考えるようにして呟いた。

 

「……あー…多分、それ…沖田隊長の声だと思う」

「………はい?」

「最近、夜に副長抹殺儀式みたいなのやっててさ。

俺も気になってこの間見てみたら、なんか呪文唱えながら釘打ってたんだよ」

 

「退…沖田さん抹殺儀式開くわよ」

「ちょちょちょちょっとまったァァ!!!」

ゆらりと立ち上がった私の手を退はがっしりと掴む。

 

「駄目だって、沖田隊長に呪いなんて効かないって!多分!」

「…確かに。逆に呪い返ししてきそうだもんね」

真っ黒い笑みを浮かべている沖田さんが頭に浮かぶ。

 

「でも、原因がわかっても怖いものは怖いよ。寝ちゃえば平気だけど、寝るまでが、さ」

もしそのせいで、本物とかが来ちゃったらもう私にはどうしようもないのだ。

「俺が沖田隊長に言っておいてあげるよ」

「退…!ありがとう!」

「そ、それとさ」

そっと私の手を離して、自分も立ち上がる。

そしてきゅっと抱き寄せられる。

 

「俺が傍にいてあげる。守ってあげる。そしたら、怖く無いだろ?」

 

「…さ、がる…」

「俺じゃ頼りないかもしれないけど…君を守るなら、俺、頑張るから!」

真っ赤になった顔で真剣に言われる。

「ううん、頼りにしてるよ、退!言ったからには、ちゃんと守ってよね!」

もちろん、と言った退の顔は真っ赤だったけど、なぜだか頼もしく見えた。

 

欲しいもの:御札

 

 

 

 

*欲しいものがありまして 万事屋編 *

 

「今帰ったぞー」

「みーんなー!依頼料ゲットしてきたよー!!」

ガララッと万事屋の玄関を開けて、中にいる神楽ちゃんと新八くんに向かって叫ぶ。

 

「おかえりアルー!!」

「おかえりなさい、2人とも」

居間の方からひょっこりと顔を出す2人。

あたしと銀さんも居間の方へ向かう。

 

「いやーそれにしても、久しぶりの収入ですね。いくらくらい貰えたんですか?」

「後払いーとか言ってたくらいだから、それなりにはあるハズネ!」

「むっふふー!銀さんが上手いことごまかして、ちょっと予定より多めにもらってきました!」

「ごまかすとか言わないでね」

さりげない銀さんの呟きが聞こえた気がするけど、まあスルースルー。

 

「で、とりあえず半分は家賃に回すけど、残りは皆で分けようと思うのよ」

「いや、その半分は俺のだろ。働いたのは銀さんですよコノヤロー」

「バッカ皆で頑張ったんだから、山分けにきまってんでしょ!」

 

そして、皆で均等になるように給料として分ける。

もちろん、定春のえさ代も含めて。

 

「新八くんはやっぱり生活費にするの?」

「はい。…あ、でも、少しくらいはお通ちゃんグッズにまわそうかなー」

そう言ってえへへ、と笑う新八くん。

「ったく、おめーは面白味の無ェ使い方しかしねーな」

「ほっといてくださいよ!」

 

「でも、銀さんより確実に有効に使うと思うよ新八くんは」

「そうですよ!どうせパチンコか酒に費やして終わりな銀さんとは違うんですよー!」

「バッカ俺にだって、ちゃんとした使い道はあるんだよ!」

「たとえば?」

 

「……パ、パフェとか」

「結局一瞬で終わるものに使ってんじゃねーか!どこら辺が有効活用なんですか!」

「うるせー駄眼鏡!俺にとってのパフェは生きるのに必要不可欠なモンなんだよ!」

「誰が駄眼鏡だ!」

 

ぎゃんぎゃんと騒ぎ出す2人と見ながら、あたしは何に使おうかなと悩んでいた。

そんな絶妙のタイミングで銀さんはあたしに言う。

「お前は何に使うんだよ?それか欲しいものとかあんの?」

「うーん…そーだなあ」

生活費にする…とはいえ、万事屋生活だから、それはまあ…銀さんに任せるとして。

欲しいもの…欲しいもの…。

 

「銀さんが欲しい、とかでもいいんだぜ」

「いらない。っていうか、一緒に住んでるから欲しいも何もないし」

「…すげー微妙な気分」

 

 

「ううーん…あ、じゃ、じゃあ神楽ちゃんは?何か欲しいものとかあるの?」

「神楽こそいらねーだろ。俺によこせよ」

「何言ってるアルか!私だって欲しいものくらいあるネ!」

「どーせ酢昆布だろ。そんな二桁台で買えるモンなら大分余るだろ。ほらほら、銀さんに渡しなさい」

「嫌アル!それに、今回は違うネ!これだけあれば、ずっと欲しかったものが買えるアル!」

「何なに?なにがそんなに欲しかったの?」

 

にこにこ笑ってる神楽ちゃんに尋ねると、ぎゅ、とあたしの手を握って言った。

「私、ずっと姉御とおそろいの服が欲しかったのヨ!今度一緒に買い物行ってくれるアルか?」

「か…神楽ちゃん…!!いいわよいいわよ!てか今から行こう!おそろいで何か買おう!」

「やったアル!2人でかぶき町のツートップを目指すアル!」

ぴょん、と抱きついてきた神楽ちゃんとぎゅううと抱きしめる。

 

うん、使い道はこれにしよう。

神楽ちゃんとのおそろいの服と…余ったら、皆にいつもお世話になってるお礼に何か買って帰ろう。

 

いつもありがとう、と、これからもよろしく、の気持ちを込めて。

 

欲しいもの:生活費・甘味・おそろいの服

 

 

 

 

 

2010/02/10