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銀時編 ・ 総悟編 ・ 土方編 ・ 高杉編 ・ 退編 ・ 春雨第七師団編

 

 

 

*日常のひとこま 銀時編 *

 

「銀ちゃん…気合い入れていくよ」

「ああ。お前も、負けんじゃねーぞ」

 

お互いに目配せし、すうと深呼吸する。

頭の中に時計の秒針の音が響き、それがカチリと12の数字に重なる。

 

 

「ただいまより、タイムセールを開始します!」

 

「「うおりゃああああああ!!!!!」」

 

何の戦争か、と言うほどの勢いで走りだした私と銀ちゃん。

ちなみに私がお惣菜売り場で、銀ちゃんがお肉売り場へと特攻した。

 

結果は、お互いに勝利を勝ち取った。

 

「いやー今日もいいもの買えたわー!」

「なんつーか、マジで戦争だよな。この時間って」

喋りながら買い物袋に食材を詰め込んでいく。

 

「あ、銀ちゃんまたチョコ買ってる」

「ストックが無くなりそうなんだよ」

「禁煙ならぬ、禁チョコしなよ。糖尿悪化するよ」

「お前それ俺に死ねっつってるようなもんだからね」

 

買った物を袋二つにおさめると、私が荷物を持つ前に銀ちゃんがすっと袋を持った。

「ほら、帰るぞ」

「あ、うん。でも片方私が持つよ」

「いーんだよ。こういう時は男に持たせておきなさい」

 

そう言って銀ちゃんはすたすた歩いてお店を出る。

私も銀ちゃんの背を追ってお店を出た。

 

 

「銀ちゃん、ね、やっぱり片方私が持つ!」

「女と歩いてて荷物持たせてるなんざ、男としてダメだろ。マダオだろ」

「いいから、片方!」

 

銀ちゃんの前に立ちふさがるようにして銀ちゃんの手に自分の手を伸ばす。

 

「だーもう、わかったから!こっちにしなさい、軽い方!」

「ありがと。じゃ、帰ろうか」

 

ぎゅっと空いた方の手を握る。

 

「…あの、何してんの?」

「なんとなく、手繋いで帰りたかったの。だから片方貸してって言ったんだよ」

「…ったく…可愛いこと言いやがって」

 

もごもごと銀ちゃんは何か呟き、私の手を少し離して指を絡めるようにして握り直した。<br>

 

「ぎ、銀ちゃんっ!?」

「せっかくなら、こうやって繋いで帰るぞ」

 

にまにまと笑って、銀ちゃんは私と同じ歩幅で歩きだす。

もっとゆっくり歩いて帰りたいな、なんて思いながら私たちは万事屋への道を歩いた。

 

 

 

(暖かい買い物帰りの、夕方のひとこま)

 

 

 

*日常のひとこま 総悟編 *

 

ジリリ、と目覚ましが鳴った瞬間。

カッと目を開いた私は枕元に常備してある紙製のハリセンを片手に部屋を飛び出した。

 

足音をなるべく立てないようにして廊下を走り、沖田の部屋のふすまを開ける。

そっと戸を開けて、部屋の中央で寝ている沖田を確認する。

 

「ふふ…今日こそ、もらったァァァ!!!」

 

ばっとハリセンを振り上げ、沖田の頭めがけて振り下ろす。

しかしそれは寝ているはずの沖田の手によって止められた。

 

「なっ…!」

「ふっ、まだまだ甘ェですぜっ!!」

 

 

バシーーーン!!という、え?ハリセンからそんな音する?みたいな音が屯所に響いた。

 

「…狸寝入りなんて…卑怯ものめ…!」

ぼすっと沖田の布団に倒れ込んだまま呟く。

「戦場ではこういうのを卑怯とは言いやせん。作戦、っつーんでィ」

にやにやと笑っている沖田を横目で見る。

 

「じゃ、今日の昼もおごってくだせぇよ」

「うう…私のお財布がぁぁ…」

 

いつも朝の訓練に遅れる私と沖田の日課が、これだ。

相手よりも早く頭をハリセンで叩けた方が、その日のお昼をおごる。

…今のところ一か月に2回くらいしか、沖田には勝てていない。

 

 

「あんたもうちょっと爆睡したらどうなの」

「おめーの足音は爆睡してたって響いてくるんでィ」

「酷っ!そんなにうるさくないもん!」

 

ごろんと布団に仰向けに寝転がる。

「…なんか、あんたの布団やけにふかふかじゃない?」

「昼代が節約できてるんでその金で新調しやしたからねィ」

「ちょっと、それもう私のおかげじゃん。ある意味私の金じゃん。ってわけで、布団交換しようよ」

「意味がわからねェ」

 

ぐいっと掛け布団を引っ張って抱き寄せる。

「よーし今日からお前は私の布団だ!」

「何言ってるんでィ。おめーには埃よけの布とかがお似合いでさァ」

「いやいや、沖田の方が似合うって。ちょっと穴開いてるやつとかもうバッチリピッタリ」

 

 

「「………」」

 

無言でにらみ合い、フッと笑う。

 

「朝の訓練前に、もうひと勝負といきやすかィ…」

「望むところよ…今度こそ、勝つ!!」

 

 

 

(結局訓練に遅刻して怒られる、早朝のひとこま)

 

 

 

*日常のひとこま 土方編 *

 

昼下がりの見回り中。

今日は土方さんと一緒に見回りなのだ。

 

「いやー、今日も平和ですねー」

「平和ならいいこった」

「あ、土方さん!あそこのお茶屋さん見てくださいよ!」

「ん?」

 

私が指差した先には、『新商品発売』の文字の看板。

 

「…遊んでる場合でも、休憩してる場合でもねーんだぞ」

「いいじゃないですか、沖田なんか毎日寄り道してますよ」

「あいつ帰ったらシメる」

ギリッと歯ぎしりの音が聞こえた。

 

 

「ね、ね、土方さん!だから私たちも今日くらい行きましょうよ!」

「食べたいなら持ち帰りにしとけ」

「えー、一緒に食べていきましょうよー」

ぐいぐいと土方さんの服の袖を引っ張る。

 

「…っ、あのな、副長がそんなだと下に示しが…」

「じゃあ私の我儘に付き合ってくれた、ってことでいいじゃないですか」

 

ぐいぐいと服を引っ張っていると、ついに土方さんはあきらめたように溜息をついた。

「…今回だけだぞ」

 

 

お茶屋に入って、さっそく注文をする。

お店の中は満員だったため、外の長椅子に座った。

 

「はー、なんかいいですねー。デートみたいで」

「っゴホッゴホッ!」

「大丈夫ですか、土方さん」

 

突然せきこんだ土方さんの背中をさする。

「だ、大丈夫だ…」

「もう、煙草吸ってばかりいるからそういうことになるんですよ」

「…うるせーよ」

 

そんなことを言ってるうちに、私たちの間にお茶とおまんじゅうが置かれる。

「わあ、美味しそう!いっただっきまーす!」

ああ、疲れた体にはやっぱり糖分だよね…!

 

もぐもぐとおまんじゅうを食べていると、土方さんが外を見たままぽつりと呟いた。

 

「…今度は、非番の日に来るか」

「へ?」

それって、つまり…。

 

「まあお前が嫌じゃなければ、だが」

「いっ、嫌なわけないです!私なら非番でも非番じゃなくても御供しますっ!!」

「非番じゃない日は仕事しろ」

 

赤い顔を隠すように、私たちはお茶を啜った。

 

 

 

(お茶屋で休憩もとい見回りの、昼下がりのひとこま)

 

 

 

*日常のひとこま 高杉編 *

 

「晋助ェェェーー!!!」

ばーんとノックも何もなしに晋助の部屋へ乱入する。

 

「んだ…うるせーな」

「うるせえぇぇ!晋助ェェ!あんたまた遊郭行ってたんだって!?」

「…誰に聞いた」

「万斉」

チッという舌打ちの音が聞こえた。

 

 

「情報収集だ」

「だからって…だからってなんで遊郭!?そういうとこへは武市先輩あたりを行かせればいいのに!」

「浮くだろ、あいつじゃ」

ふああとあくびをしながら晋助は眠そうな目をこする。

 

「くっ…だったら私だって……ま、また子と一緒にホストクラブ行ってやる!」

「なんで来島誘ってんだよ」

「ひ、一人は不安」

「だったら行くな」

喋りながら晋助は押入れの戸を開けて布団を引っ張りだす。

 

 

「何してんの、もう朝だけど」

「さっき帰ってきたとこなんだよ。今から寝る」

 

「な…あ、朝帰りだとォォ!!お母さんそんなの認めません!」

「付き合ってられねーや。騒ぐんならよそでやれ」

 

敷布団と枕を引っ張り出して、晋助は「あ」と呟いた。

 

「おい、ちょっと来い」

「よそへ行けと言ったり、来いと言ったり…」

どっちかにしてくれ、と思いながらも晋助の方へと歩いて行く。

 

晋助の前で立ち止まった瞬間、腕を引っ張られ敷布団に倒れ込む。

「は!?何なに!?ああああんた、遊女だけじゃ飽き足らず…!」

「違ェよ。掛け布団…昨日洗濯頼んで、まだ戻ってきてねーんだよ」

ぎゅうと私を抱きしめて言う。

 

…つまり、掛け布団代わりの抱き枕状態…?

 

 

「あんた…どんだけ私をおちょくれば…!」

「やっぱ、お前くらいが丁度いい」

目を閉じたままでぽつりと呟く。

 

 

「ああいう、どぎつい香水まみれの女よりお前の方が…寝やすい」

 

「いや、それも複雑な気分なんだけど」

と言いながらも、私はすぅすぅと寝息を立てる晋助を見て小さく笑った。

 

 

「抱き枕くらい、いつでもなってあげるからちゃんと帰ってきてよ、晋助のばか」

 

 

 

(遅いおやすみなさいを言った、午前のひとこま)

 

 

 

*日常のひとこま 退編 *

 

朝の掃除をするべく、私はホウキを片手に外へ出た。

屯所の入り口の門周りを掃除して、庭へまわる。

 

あつめた落ち葉やごみを回収していると、庭に丸まった紙が落ちていた。

「……よしっ」

紙くずを手に、私はホウキを持って屯所内を走った。

 

 

 

ここは屯所の庭の中で、土方さんの部屋から一番遠い場所。

 

「さあ来い!私がうけてたーつ!」

ぎゅっとホウキをバットのように握ってかまえる。

 

「頑張れ嬢ちゃん!」

「原田ァ、手加減してやれよー」

隊士の人たちの声を受けながら、原田さんはさっき私が拾った紙くずを持って振りかぶり、投げる!

 

「そおおい!」

ブンッと振ったホウキは何にも当たることなく、空を切っただけだった。

「あーもう、原田さん剛速球すぎるよー」

 

「あんたら何やってんのォォォ!?」

あはは、と笑っていると後ろからツッコミの声が聞こえた。

 

 

「山崎さん!あ、山崎さんってミントン得意でしたよね?」

「へ?え、まあそうだけど…っていうか何やってんの?」

「掃除してた時に見つけた紙くずで野球もどきしてました」

「怒られるよ副長に…」

 

だからこうして、土方さんの部屋から一番遠い庭でやってるのだ。

それに、隊士の皆も結構ノリノリだ。

 

「山崎さんならきっと打てますよ、ホームラン!」

「え?え?」

「頑張ってください、応援してますから!」

ぎゅっとホウキを山崎さんの手に握らせて、私はその場から少し離れる。

 

 

「え?何この流れ」

「山崎さーん!日頃の成果を見せる時ですよー!」

応援場所から叫ぶように言うと、山崎さんはぎゅっとホウキを握って構えをとった。

 

そしてさっきと同じ剛速球で投げられた紙くずを、気持ちが良いくらい綺麗に打ち飛ばした。

 

 

「す…すごっ…!すごいです山崎さん!!」

「まあ、伊達にミントンやってないからね。これくらいはできるよ」

「すごいです!なんか、さっきの山崎さんすごくかっこよかったですよ!」

私がそう言って笑うと、山崎さんは一瞬ぽかんとしてから、わたわたとうろたえ始めた。

 

「え、えっ!?か…かっこよ…!?」

「はい、素敵でしたよー!いつも素振りしてるとこしか見てないので、なんだかびっくりでした」

「じゃあ、その…今度河原でミントン仲間と試合やるとき、見に来る…?」

「いいんですか?」

「うん、それで、その時はまた応援してくれる?」

少し頬を赤く染めて言う山崎さんに私は大きくうなづいた。

 

 

 

(いつもと少し違った一面が見えた、朝のひとこま)

 

 

 

*日常のひとこま 春雨第七師団編 *

 

日が沈み、夜がくる。

部屋に布団を敷いて、さて寝るかと思っていたその瞬間。

 

「ねえちょっと用事があるんだけど」

「すいません団長明日にしてください」

ノックも無しに部屋に入ってきた団長に冷たく一言言い放つ。

 

「君に拒否権があったことがあるかい?」

「ないですね」

ごきっと恐ろしい音を右手から発しながら団長は笑った。

 

 

 

団長に引きずられて到着したのは、春雨の戦艦の甲板。

「…よー嬢ちゃん、寝る前だったみてーだな」

「寝る寸前だったよ…」

あくびを噛み殺しながら、ガラス張りの壁に背を預けて立つ阿伏兎に返事をする。

 

「今日は気が向いたから君にちょっとしたプレゼントだよ。ほら」

すっと団長が指差した方を見る。

 

そこに見えるたは、声も出なくなるほどの綺麗な星空。

 

「わ…すご…!」

地上から見るよりも近い場所から月や星が見える。

星の光をさえぎるものもなく、本当に綺麗な空が広がっていた。

 

 

「ちょっと時間に余裕ができたからね。久々に地球に寄ってあげたんだよ」

「団長…」

「君は普段、仕事頑張ってるからね。俺の分の書類仕事も」

「ええ、本当に毎日大変ですよ」

 

 

星空を眺めていると、ひとつくしゃみが出た。

いくらガラスで外の空気が遮断されているとしても、さすがに夜は冷える。

 

「大丈夫か、嬢ちゃん?中入るか?」

「ちょっと冷えてきたけど…もうちょっと見ていたいかな」

えへへと笑うと、阿伏兎は「仕方ねーなァ」と言って手を握ってくれた。

 

「阿伏兎の手、あったかーい」

「地球人とは出来が違うんだよ」

「そうそう。本当に君は貧弱で困るよ」

「誰もそこまで弱いなんて言ってません団長」

 

 

いつも何かしら余計なことを言う団長は、おもむろに自分の首に巻いてあったマフラーをほどく。

「ま、夜は別にこんなもの巻いてなくても大丈夫だからね」

 

そう言って団長は、ふわりと私の首にそのマフラーを巻いてくれた。

 

 

「…大変、阿伏兎。今日こんなに綺麗な星空だけど、明日は台風だよ」

「ああ。外出は控えた方がよさそうだな」

「二人共殺されたいの?」

 

にこにこと黒いオーラを放ちながら笑う団長に二人で一緒に謝った。

 

 

「神威団長」

まだ空いている方の手を差し出して、名前を呼ぶ。

 

「団長も、手、繋いでくれませんか」

「………ま、今日だけだよ」

 

本当はちょっとした冒険だった。団長なら、手を握りつぶしかねないと思っていた。

けれど繋がれた手は思っていたよりも優しく暖かく、本当に明日は台風じゃないかと思った。

 

「ありがとうございます、団長」

 

 

 

(三人で見上げる星空の下、夜のひとこま)