ふわっと巻いた髪を揺らしながら、私はかぶき町に店を構える、万事屋銀ちゃんへ向かう。

以前、万事屋にお仕事を依頼してから、私はどうやら店長さんに恋をしてしまったようだ。

さすがに転職はできなかったけど、こうして週末に足を運ぶことは許してもらえた。

 

 

万事屋の玄関の前、チャイムを押す指は未だに少し震える。

「おはようございまーす、でーす」

「待ってたネ、朝ご飯!!!」

玄関を開けると同時に飛んできたのは、万事屋に居候している神楽ちゃんだった。

確かに朝ご飯作りには来たけど、その認識はいかがなものか。

 

 

お邪魔します、と部屋に入れてもらう。

周りが静かっていうことは銀さんはまだ起きてないのかな。

「新八のご飯も銀ちゃんにご飯も飽きたネ。やっぱり女子の手料理最高アルな」

「いやたぶん美味しさは新八くんの方が上だと思うの」

万事屋の従業員である新八くんは、剣術の腕はまだまだとか言われているけど生活能力は十分だと思う。

 

っていうか!銀さんの手料理だよ!あーもー羨ましい!

「ね、神楽ちゃん、銀さんの手料理って美味しい?」

「フツー」

先にお米を炊飯器に入れて、お味噌汁を作りながら聞く。

普通、かあ。一番なんとも想像できない返事だ。

 

 

 

「ふあ、うまそーな匂い」

その声にビックゥと体が揺れる。

「ぎっ……銀さん、おおおおおはようございます!」

「ん。はよ」

まだ眠いんだろう、いつも半開きくらいの目がさらに細い。

 

「銀ちゃんだらしないアル。私のようにシャキッとしなきゃだめヨ」

「寝ぐせまみれの頭で何言ってんだ」

「あ、あの、ご飯炊けるまでもう少しかかるので、居間で待っててください」

「ん」

のそのそと洗面所の方へ歩いていく背中を目で追う。

 

ああ、寝起きの銀さんも可愛い!

天パなのか寝ぐせなのか分からない髪とか、眠そうな目とか、朝からトキメキをありがとう!

、味噌汁沸騰しそうアル」

「あっやばっ」

 

でも、今日は髪巻いてみたいんだけど…気づいてないのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた一週間が過ぎて次の日曜日が来る。

同じように朝ご飯を作り、片づけをしていると玄関の扉が開く音がした。

時間的にきっと彼だろう、と思って玄関へ向かう。

 

「おはようございます」

「おはよう、新八くん」

「あ、さん。今日も来てくれてたんですね」

いつもすみません、と言ってくれる新八くんは、本当にいい子だと思う。

 

「なんか今日雰囲気違いますね。あ、着物の色がいつもと違うんだ」

「そうなの!ちょっとね、いつもと違う色に挑戦してみたの!」

待ってましたとばかりに私は新八くんに、どうかな、と問う。

新八君は、似合ってますよ。なんか大人っぽくなりますね、と少し照れた感じで言ってくれた。

 

「新八くんはこうやって神対応してくれるのになあ……」

「別に神対応じゃないですよ。普通に気づく……あ」

居間を通り過ぎるときに、チラッと横目で銀さんを見る。

 

「あのバカ、何も言ってくれなかったんですか」

無言は肯定の証拠。

新八くんは私の恋心を知る唯一の人だったりする。

「はあ、本当に何がよかったんですか。確かに強い人ではあるけど、それだけですよ」

「そんなことないよ、もう全部が全部大好きなの!」

「そっすか」

あ。ちょっと呆れてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、私は銀さんに構ってほしくて毎週とは言わないものの二か月に一度くらい変化をつけている。

着物の裾を普段より少し短くしてみたり。

お化粧を少し変えてみたり。

それでも未だ、銀さんからは何も言ってもらえていない。

いやまあ似合わないとか変とか言われるよりは良いんだけど!

 

 

「おはよーございまーす」

から、と玄関の扉を軽く開ける。

今日はなんとなく朝からやる気が入らなかったせいで何もできていない。

いつも通り、最低限の身なりを整えるので精いっぱいだった。

 

ってあれ、いつもなら飛んでくる神楽ちゃんがいない。

のそのそと部屋に上がると、珍しくもう銀さんが起きてきていた。

「おはよーさん、。神楽は新八んとこ泊ってるから今日は俺とお前だけだぞ」

「ああ、そうなん……!?」

 

ということはついに、ついに夢の銀さんと二人っきり!?

ああ、どうしよう!嬉しい!でも緊張するしドキドキするし、なんか頭が全然働かない!!

 

 

「……。、ちょっとこっち」

「ヘエッ!?あっ、はい!」

危ない。脳内トリップしてたせいで変な声が出た。

 

手招きする銀さんの方へ歩いていく。

座って、とソファを指され、言われた通り銀さんから少し距離をとった位置に座る。

「なんで離れてんの」

「えっ、や、なんかもう、恐れ多くて」

「なんじゃそら」

ドキドキしすぎて平常心でいられる気がしないからです!とは本人に言えない。

だって私の恋心を知るのは、新八くんだけ。銀さんには、まだ、言えていない。

 

 

「お前さ、風邪引いてねぇ?」

「は……?」

 

きょとん、とする。

は?風邪?

 

「なんか目ェ死んでるし、ちょっと声かすれてるし」

目は銀さんの方が死んでると思うんだけど。

 

「そんなこと、ないと、思うんです、けど……っひゃ!」

ひた、と私のおでこに銀さんの大きな手が触れる。

「んー。熱、って感じじゃねーな。でも体調いつもと違くね?どうよ」

「えっあっ、いいい言われてみれば朝からなんかやる気が出ないっていうか、力が入らないっていうか……」

今はそれより触れてる手の温かさとか大きさとかで心臓が飛びそうです!

 

 

「それ、風邪なんじゃねえの。今日はあいつらも来ないし、帰って悪化する前に薬飲んでゆっくりしてろよ」

「え……」

するっと銀さんの手が離れる。

心地よい温かさが離れていく。

 

 

「だ、大丈夫です!大丈夫です、から」

言いながら声が尻すぼみにになっていく。

私はもっと一緒にいたい、週末しか会えないんだもの、もう少しここにいたい。

けど、本当に風邪だったら銀さんにうつしちゃうといけないよね。

 

どうしよう、と言葉に詰まって下を向く。

下がった頭の上に、ぽん、と銀さんの手が乗った。

 

が辛くないんなら、もうちょっと居ていいぞ」

「いいん、ですか」

「まー、あれだ、体だるいうちに帰って倒れられても困るしな」

「だるいです!あーなんかめっちゃだるくなってきた!今帰ったら途中で絶対倒れます!!!」

「すげえ元気になってね?」

単純な奴、と銀さんはへらっと笑う。

ああもう、その笑顔でどれだけ私が癒されていると思っているんですか!ちくしょう!ずるい!

 

「ま、今日はここでゆっくりしていけや。銀さんとごろごろしてようぜ」

「は……はい……!」

同じ空間で、しかもこんな近い距離で、しかもしかも二人きりなんて……!

神様ありがとう!!私、明日は普通に仕事だけど頑張るわ!!

 

 

 

「銀さん」

「ん?」

 

好き。大好き。

優しいところ、温かいところ、ぶっきらぼうなところ。

私が頑張っても何も気づいてくれないくせに、私が気づけていない部分に気付いてくれるところ。

ぜんぶぜんぶ、大好き。

 

「ありがとう、銀さん」

「え?なに?なんに対してのありがとう??」

「えへへ、ぜーんぶですよ」

そうやって頭に疑問符を浮かべているのであろう、きょとんとした表情も大好き。

 

いつか、伝えられたらいいな。

いつか、気づいてくれたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとうに隠した恋









(いやまあ、全部気づいてんだけどな。恥ずかしくて言えるかコノヤロー。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

銀さんは変なところで勘がよくて勘が鈍そう。ずるい。

2017/09/30