今日も江戸はいい天気。

ささっと布団をたたんで寝巻きから隊服に着替える。

 

あ、私はこの真選組唯一の女隊士なのです!

…まぁ唯一ってワケで結構有名人のようです。

 

 

「…うーん…」

寝巻きを少しだけ肌蹴させて鏡を見る。

…やっぱい、少し赤い。

「…くっそう…全部あの人の所為だ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夜に夜食調達、兼、見回りをしていたとき。

 

…なんか、嫌な気がする、と思った瞬間、腕を引っ張られ路地に引きずり込まれる。

「なっ、なにもががっ!!

口を押さえられて壁に押し付けられる。

「…む、ぐっ…!!」

 

うっすらと月明かりで見えたのは、指名手配犯…高杉晋助。

 

「ククッ、お前が真選組の女隊士か…。こんな夜中に見回りとはな」

いや、すいません、実は夜食調達に。

なんて言うわけにもいかない。とりあえずじたばた暴れてみると口は自由になれた。

 

「ぷはっ、ちょっ、何するんですかもう!っていうか腕はなしてくださいよ!」

…指名手配犯に敬語か。…面白い女だなお前…」

 

にやり、と笑うその人の笑顔は、なんか、うちの隊長を思い出させる笑顔だった。

 

「…あの、なにするん……っ!!??」

片手で私の隊服のスカーフを解き、首元に、唇を寄せる。

それは一瞬のことだった、けど、何が何だかわからない私には、とても長い時間に感じられた。

 

「ククッ…まぁまた縁があったら会おうや」

そう言って、へたり込む私を置き去りにしてその人は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁあああ!!!なんか思い出したらむかむかしてきたァァァ!!!」

ドンドンと地団駄を踏む。隣の部屋の迷惑なんて考えてられない。

「何がまた会おうだコノヤロー!くっそ…!」

捕まえれば給料アップだったのに…!今更思っても遅いけど、なんか悔しい!!

 

 

 

「どーしたんですかィ

「どうしたもこうしたもないよ…もうちょっとで給料…」

 

 

……。…目の前の鏡に映るのは隊長、沖田総悟。

 

 

「…ってちょっとまってェェ!!何勝手に入ってきてるんですか!」

の叫び声が聞こえたから、もしや昨日仕掛けた罠に引っ掛ってるかと思ったんでさァ」

「何よ罠って。人の部屋に何しかけてくれてんですか」

言いながら慌ててぎゅっと寝巻きで首元を覆う。

 

 

 

「んで、その赤いのどーしたんですかィ?」

あぁもう!そういうのは心の中にしまっておいて欲しいのに!

なんて答えようか悩んでると総悟はポン、と手を打って言った。

 

「あぁ、第二の罠の蚊ですかねィ」

…第二の罠ってオイ。何個しかけたのアンタ!!

 

 

でも丁度いい言い訳になりそう。

「そ、そう!蚊!蚊にやられてもう!こんな時期に蚊ですよー!」

「……へーぇ」

 

 

うっわ、すごい納得してない顔。

 

 

「そりゃー大変ですねィ」

「そうそう…大変ですよー。っていうか着替えたいんで出てってくれませんかね?」

なるべく普通の声のトーンを出して言う。

「あぁの隊服なら外の倉庫にしまってきてやりやしたぜィ」

「は!?何してくれちゃってんですか!!」

 

思わず寝巻きを握る手の力が弱まったとき、壁にガンッと押し付けられる。

あれ、なんかデジャブ?いやいや実際あったよねコレ。

 

 

「ちょっ…あの、総悟?」

「そーいえば蚊30匹を仕掛けたのは土方さんの部屋でさァ」

ケロリという総悟。

…初めから、そのこと覚えてたんじゃないのこの人。

 

 

「んで、誰にやられたんですかィ?」

「…あ、あははは、それは、その」

言えない。

別に庇いたいわけじゃなくて、逃がしてしまった事についてのお咎めが怖い。

 

「言わねぇとそこの木に逆さ吊りにしやすぜ」

「高杉晋助でーす」

 

…おっと口がすべった。

 

 

「…高杉…?」

すっ、と総悟の目が細まる。

そして私の手首を握る力が強まる。

「…真選組の中なら思いっきりシメてやれるのに…チッ」

「は…?っていうか、いたい、痛いですって!」

 

 

「消毒…しといてやりまさァ」

 

そう言って総悟は私の首元に、唇を寄せる。

「…っ…そ、ご…!」

昨日よりも、もっと痛い。いたい。

「い、ったいって言ってるでしょうがーーー!!!」

 

 

ドンッ、と渾身の力を振り絞って総悟を突き飛ばす。

総悟はぐらっと後ろによろめくがすぐ立ち直る。

「何するんでさァ」

「それはこっちの台詞ですからね!あぁああちょっと薄くなってたのにこんなに濃く…!」

鏡をみながら赤くなった部分を手で覆う。

 

 

「やられたのはそこ一箇所ですかィ」

「…そーですよ。ここだけですよ」

総悟から後ずさって距離をとりながらいう。

 

「…っていうか、逃がしてしまったお咎めとか無いんですか」

「そんなもん別に無いですぜィ」

「うわぁ珍しい」

「何かされたいんですかィ?」

「いいえ全然」

にっこりと笑って返す。

 

 

「…あいつは俺が捕まえて地獄を見せてやらァ…」

 

 

タダでさえ寒い部屋の温度がさらに下がるような低い声で総悟は言う。

一瞬だけど、殺気が篭っていた。正直、怖い。

 

 

「…まぁそれとは別に、

くるっ、とこっちを向く総悟の顔はいつもみたいな爽やか笑顔だった。

「な、んですか?」

 

 

「逃がしたお咎めは無ェけど、敵にそんなことされたっつー事に対してのお咎めはありやすぜ」

「………はい?」

 

「今日一日は俺の命令を聞いてもらいまさァ」

にきやりと笑うその顔は、さっとは違う意味で怖かった。

「手始めに…土方さんの部屋の戸ボンドで引っ付けて開かないようにしてきてくだせェ」

「いや、そんなの無理ですよ!絶対やってるの見つかりますって!」

 

 

「…やらなかったら逆さ吊りの刑に…あ、それか土方暗殺用の薬の実験に付き合って…」

「頑張ります隊長ォォォ!!」

 

 

 

 

給料、上がるどころか下がりそうな勢いです。とりあえず隊服…とりに行かなきゃな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蚊の所為にさせて


(ほんっと蚊だったらよかったのに!…っていうか今日の土方さん蚊取り線香くさいです。…やっぱり蚊も嫌かも。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

前半高杉夢じゃん、とか言っちゃ駄目ですよ…!(ぁ

この冬の時期に二箇所も蚊にさされた腹いせで書きました。か ゆ い !

うぐぐ、ドSって難しいです…。なんかこう、サディスティックな台詞考えないと…(ぉ

2007/11/18