朝と昼の間くらい、そんな中途半端な時間帯。
私の働く和菓子屋さんの新商品の味見を頼もうかなーなんて思って
片手に和菓子の入った箱を持って、万事屋への階段を登っていた。
「こんにちはー」
チャイムを押して一言言うと、奥から「どーぞー」というやる気のなさそうな声が聞こえた。
「相変わらず生き生きしてないね銀時」
「常に生き生きしてたら疲れるだろーが」
そんな屁理屈を言う銀時は、いつもの定位置のいすに座っていた。
「ん?ちゃん何持ってんの?」
「あ、そうそう、これなんだけどねー、ちょっと頼みがあってさ」
机に箱を置いて、ふたをあける。
「和菓子じゃねーか!どうしたんだよ、これ」
「うちの店の新商品として売り出そうかと思うんだけど、銀時に味見してもらおうかと思って」
甘味に関しては、ほんとに凄い味覚持ってるもんね。
「なーんだ、味見かァ。銀さんへの愛の篭ったプレゼントかと…」
「そんなわけないよ」
「ですよね」
いつからそういう関係になったんだ、と問い詰めたくなる。
…まぁ確かに銀時はかっこいいと思う。けど、たまに、の話だ。
たまにすごくかっこよくて、どきっとする時はあるけど、大抵はこういう死んだ魚みたいな目してるわけで。
でも、やっぱり……って何考えてんだ自分!!
「じゃ、じゃあ私お茶いれてくるから、食べてて!ちゃんと感想聞かせてよね!」
「へいへい」
すたたたっ、と居間から出て台所へ向かう。
いや、だから違うって!銀時なんかに惚れたら、将来大変よ!!
糖尿寸前だし、収入ほぼゼロだし、駄目人間だし…。
心の中でそう唱えて自分を落ち着かせる。…よし、大丈夫。
そして食器棚から湯のみを取り出そうとしたとき、視界の端に黒いものが写った。
「………」
どくん、と心臓が大きく跳ねた気がして、一瞬息が止まる。
そのすぐ後、頭で考える前に、体が動いていた。
「はぁーももうちょい可愛くなんねーもんかなー…」
なんて思わず呟きながら和菓子を口に運ぶ。…お、美味ぇ。
すると廊下からどたどたどたっという音が聞こえてきた。
…っつーか今この家俺としかいねぇわけだし。
何だろう、と思って立ち上がって廊下を覗こうとしたとき。
「ぎ、銀時ィィィーーー!!!」
「ごふぅっ!!」
猛スピードで走ってきたが、俺の腹あたりに物凄い勢いで抱きついてきた。
ちょ、さっきの和菓子が逆流するッ!
「何…どーしたのちゃん…」
げほっ、とむせながら俺にしがみついてるの顔を上げさせる。
「ぎ、ぎんときぃ…」
「………」
なんで涙目になってんのこの子ォォォ!!!
え、ちょ、何こいつ、可愛いんですけど。
「で、でででででたッ!!」
ぎゅううっと俺の着物を掴んで言う。
「な、なにが…?」
こいつがこれだけ慌てるくらい、ってことは………。
「クモ!!」
「……は?」
思わず聞き返す。
「だーかーらっ、クモが、だ、台所、にっ」
「…よしよし、わかった。あーそう、クモ、ねー…」
急激な脱力感を覚えつつ、台所へ向かう。
未だには俺の腹…から背中に移動して、着物をつかんでいる。
「いないじゃん」
「いるっているって!ああああそこ!!」
俺の後ろから少し顔を出して食器棚のあたりを指をさす。
「お、こいつか」
開け放たれた食器棚の扉にぺとり、とくっついているクモ。
そんなに怯えるほど、でかいわけでもなく、指に乗るような大きさなんですけど。
「何、お前クモ苦手なの?」
ひょい、とクモを持ち上げてを振り返る。
「いやああああ!!こっち向けるなァァァ!!」
「いでででで!!おま、着物どころか背中まで掴んでるだろ!」
びったりと張り付いているをひきずりながらよろよろと窓に近づいて、クモを逃がしてやった。
「ほら、もう大丈夫だって」
ぎゅうう、とまだ着物を掴むはいつもより弱弱しくみえる。…着物を掴む強さはめっさ強いけどな。
でも、こいつも女だったっけ、と当たり前のことを再確認する。
…なんだ、可愛いトコ、あるじゃねーか。
後ろ手にの手をきゅ、と握って背中から放して、向き合ってからもう一度言う。
「…ほら、もう大丈夫だって」
俯いてる所為で表情は見えねぇ。だから顔を覗き込もうとしたとき、がばっと顔を上げたと目が合う。
「バカじゃないの!台所くらいちゃんと掃除しなさいよ!」
って、第一声がそれかよお前ェェ!!
「してるっつーの!…たまに」
前に掃除したのはいつだったか…。
うーん、多分新八が小まめに掃除してる、はず。
「たまにじゃなくて毎日しなさいよね!!」
「なんだよお前!さっきまでちょっと可愛いかなーなんてときめいた俺の心をかえせー!」
「は!?かっ、かわい、い…!?」
ぼわっと赤くなるの顔。
それと同時にどくんと強く脈打つ俺の心臓。
「…ば、ばかなこと言ってんじゃないわよ!!」
「いや、でもお前顔まっか」
「うるっさーいッ!!」
ぎゃんぎゃんと顔を真っ赤にして叫ぶは、普段と違ってどこか可愛く見える。
これは、多分俺の目が悪くなったわけじゃなくて、ほんとにこいつが…。
呆然としてると目の前にはいなくて、食器棚から湯飲みを取り出していた。
そして振り返ることもなく、そのまま一言。
「あの…ありがとう、銀時」
この一言の所為なのか、この一件の所為なのか。
を見るたびに俺の心臓は妙に早く鳴る様になってしまった。
可愛さチラリズム
(…いいかもしれない。こういう一瞬の可愛さもいいかもしれない。)
あとがき
倭月さんからのリクエストでした!ネタ提供ありがとうございます…!!!
前半ヒロインさん語り、後半銀さん語りという中途半端な小説になってしまい、すみません;
強がりヒロインさんリクだったのですが、ツンデレですよねこれ。…す、すみませ…!
2007/12/24