朝からピンポーン、と家のチャイムが鳴り響く。
はーい、と返事をして玄関へと歩く。
「よー、ちゃん」
「あれ銀さん。どうしたの?」
ガラッと玄関を開けたところに立っていたのは、近所に住む万事屋オーナーの銀さん。
「いや、今日はねー、その、届け物が…いや届け人が…」
「えーっと?」
目を泳がせつつぼそぼそ呟く銀さん。
「…まぁ、その、あとは頼んだから!!」
「は!?」
そう言って、銀さんは横に立っていたらしい人を、ドンッと私の前に突き出して、走り去っていった。
…はずが、その人に襟をつかまれて、ぐぇっ、という声を出していた。
「坂田氏ィィ!置いていかないでほしいでござるよォォ!」
「知るかァァ!テメーの彼女の家だろうが!つーか離せ!!」
そう、その突き出された人は、私の彼氏。
「と、トシ…!?」
…でも、こんな風だったっけ!?
「えーと、説明をしてほしいんだけど」
「あー…まぁ、その、かくかくしかじか、ってことで」
「わかんないわよ!!何がどうなったら、トシがここまでオタクになるのよォォ!!!」
とりあえず状況を説明してもらおうと、トシも銀さんも家に入ってもらった。
そして説明を聞くと、なんか妖刀に取り付かれたとかなんとかで、こうなったらしい。
…わっかんねぇよ!!!
「っていうか、あの、トシ…それは?」
心の中でノリツッコミをしてる間に、トシは突如どこに持っていたのか、同人本作成道具を机に広げていく。
「氏、その、原稿の締め切りがもうすぐなんでござるよ!」
「…………」
「だから、その、手伝ってほしいでござる」
…思わず思考が固まる。
見た目も、声も、顔も、トシなのに、中身だけが、中身だけが、何か違う!!
「て、手伝うって…っつーか絵酷ッ!!」
言っちゃ悪いんだけど、ついポロッと本音が。
今までトシが絵描いてるのなんて見たことなかったけど、すっごい下手なんだけどコレ!
「ちょ、銀さんほんとなんで…っていねぇ!!」
さっきまで隣にいたはずなのに、あとは頼んだ!と走り書きで描かれた紙があるだけで、本人はいなかった。
え、これは、私、手伝うしか、ないわけですか…?
「トシー。ここ、ベタはみ出てたから直しといたよー」
「あ、ありがとー氏ー」
へらり、と笑うトシ。
…あれ、今のはちょっときゅんときたかも…ってオイ自分!!
ぶんぶん、と首を振って頭を切り替える。
なんとか前のトシに戻す方法を考えなくちゃ。
「やっぱり、嫌、でござるか?」
「へ?」
初めて聞く、弱弱しい声。
「坂田氏が言ってた…今の僕じゃ、氏に嫌われるぞ、って」
「……」
「こんな、僕じゃ…」
しゅんと俯くトシは、小動物みたいに見えた。
ああ、そうだよ。忘れてた。
どんなにヘタレでも、どんなにオタクになってても、私は。
「嫌いになんて、なるわけないよ」
イスに座って俯くトシの前にしゃがみこんで、頬にそっと手を添える。
「どんなに変わっても、トシは、トシ。それだけは、変わらないでしょ」
「、氏…」
「私は今だってトシが好き。…トシは、私が、嫌い?」
「そ、んなこと、ないっ、よ…!」
顔を真っ赤にして言うトシは、昔より可愛く見える。
ぎゅっ、とトシの首に手を回して、抱きしめる。
そうすると、トシは弱弱しいけれど、ちゃんと抱きしめ返してくれた。
「…ありが、とう…」
「…!……と、し…」
今、名前呼んでくれた、よね。
なんだろう、今はそれだけでも、ものすごく嬉しい。
少しだけ。ほんの少しだけ、こういうトシでも、このままでも、いいかな、なんて思ってしまった。
けれど。
突然がばっ、と引き剥がされる。
「し、締め切りィィ!!あああ、明日には投稿しなきゃいけないんだよぉ…!」
「……………」
突然そう叫んで、また机に向かうトシ。
…さっきまでの私のときめきを返せェェェエエ!!!
メタモルフォーゼ
(でもトシの顔、今も真っ赤で可愛いな…って駄目だってば私!やっぱり戻ってくれないと駄目ェェェ!!!)
あとがき
なんかもう、ほんとすいません。(土下座)
書いてて凄く、その、楽しかったんですけど、申し訳ない気持ちで一杯です。
しかもオタク時の口調がイマイチつかめなくて、なんかもう誰だよこいつ!みたいになってますよね。
あうう、すみません…!っていうかござる口調にするとどうしてもバサラの幸村が頭をチラつく…!
2007/12/25