今は真昼間。

普通の人なら仕事に行ってたりと忙しい時間帯。

そんな時間帯に、私は町を歩いています。

 

…小脇に封筒を抱えてルンルンしている彼氏を連れてね!!

 

 

 

氏!氏!早く行かないと郵便局しまっちゃうでござるよ!」

「……………うん」

 

 

ぎゅ、と私の左手を握って私より少し前を歩くのは、真選組副長こと、土方十四郎。

…ただいま、昨日終わらせた同人本の…原稿?を送るため郵便局に向かっています。

 

 

 

なんていうか、町を行く人の視線が、痛い。

っていうか同情されてる目だよアレ。

…でも、なんでか嫌いになれないのよね。

 

 

 

もはや引きずられてる状態でトシの後ろを歩いていた。

…はずだったんだけど、急に横の路地からビュッ、と人の手が出てきて口をおさえられる。

 

 

「…んぐっ!?」

あまりにも突然すぎた所為で、トシの手を掴むどころか離してしまった。

っていうか、何事!?

 

 

「…、氏?」

 

 

私が路地に引っ張り込まれる瞬間に見えたのは、驚きに目を開くトシだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…む、ぐ!」

いつの間にか両手が後ろで拘束されている。っていうかなんか人がいっぱいいる。

刀持ってる…ってことは、攘夷浪士、かな。

って、どうしよう!落ち着いてるように見えても、心臓はばっくんばっくんと物凄い音を立てているわけで。

 

 

氏!!」

勢いよく路地に飛び込んできたトシが、一瞬もとの、真選組副長のトシに見えた気がした。

…けど、できればその叫び方はやめてほしかったな。

 

 

 

 

「真選組副長、土方十四郎!今日こそ貴様の首を落としてやる…」

頭の上から低い声がふってくる。

あ、もしや私人質?……ってヤバイヤバイヤバイ!!!

今のトシは、こういうのに立ち向かえない、だろう。…いや、でも彼女のピンチなんだし…。

 

 

「ひ、ひええ」

 

 

…ちっくしょぉぉーー!!!

駄目だった!なんかもうガタガタ震えてるもん!

 

 

 

ざっ、と一歩トシが後ろにさがる。

って置いていかれないよね!?この状況で置いていかれないよね!?

 

 

けれど、トシが下がった瞬間、私の口から手が離れたけれど、その代わりに刀が首に添えられる。

「貴様が大人しく殺されなければ、この娘の首が飛ぶぞ?」

直接触れているわけではないけれど、ひやりとした冷気が首に当たる。

 

 

 

 

「…っ、あ、…」

逃げたい、でも逃げるわけにもいかない。

トシの状況はそんな感じ。

 

 

 

私は、死にそうです。

いや冗談じゃないわよ。周りにいる人たち…何人かも刀を抜く。

綺麗な刀じゃない。ふき取られていても至近距離にいる私には感じられる、鉄の、血の匂い。

頭がぐらぐらする。気持ち悪い。

 

 

 

 

前を向けば悲痛に顔をゆがめるトシ。

……。

「……トシ!逃げな、さい!」

「…え、…!?」

 

 

 

なんとか声を搾り出す。

今のトシじゃ絶対に勝てない。かといって、目の前で彼氏の首が飛ぶだなんて、そんなもの、絶対みたくない。

 

 

 

「で、でもっ…」

「いいからッ!!わ…私は、大丈夫…だと思う…から!」

私は生粋の日本人の人間で、天人でもない。

だから多分攘夷志士の人からは恨みは買ってない、だろう。

それでもやっぱり、首に感じる刃物の感触はとてつもなく恐ろしくて。

 

 

 

 

 

 

「…に、げられる、かよ」

 

 

 

 

 

「…と、トシ…?」

さっきとは打って変わったような低い声。

一瞬で空気が、冷たいものに変わる。

 

 

「お前を…をほったらかして逃げれるかっつってんだよ!!!」

さっきまで震えていたヘタレ野郎とは思えない動きで私の横にいた男を蹴り飛ばす。

 

 

「ぐっ、ふ…!?」

「お前もさっさとその手ェ離せ!!」

どかっ、という低い痛々しい音と共に腕が解放され、すぐ横に刀が音を立てて落ちる。

 

 

 

「…、と、し…?」

へたりと座り込んだ私の前に立つ彼は、怖いほどの威圧感を放っていた。

「すぐ、片付けるから。目ェつむって、耳ふさいで、待ってろよ」

 

 

 

 

ぎゅ、と目を閉じる。腕はカタカタと震えて上手く動かない。

 

 

 

…聞こえてくる音は、刀の切れる音ではなく、殴る音や蹴り飛ばす、低い音ばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だい、じょうぶ…じゃねぇよな」

近いところで声が聞こえたので、ゆっくりと目を開ける。

「ごめん、ごめんな。遅くなって…」

 

 

目の前にいるトシが、何故か凄く懐かしく感じてしまって、思わずぎゅっとしがみついた。

「ううん、ありが…とう…でも、遅いよっ!!」

「お前なぁ……まぁ今回は俺が悪いよな。…ごめん

ぎゅ、とトシの背中に腕を回すとトシもそれ以上にぎゅうっと抱きしめ返してくれる。

腕の震えはいつの間にか止まっていた。

 

 

 

「……丁度いい。このままの体勢でいろよ」

「え?でも、なにも見えないよ?」

「それでいいんだよ」

トシは私を抱きしめたまま、ぐいっと腕を引っ張り立たせてくれて、そのまま表通りの方へ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表通りに出ると、すっと私から離れる。

「ど、どうしたの?」

「…薄暗いところじゃ危ないだろ。それとも…そういうのがお好みか?」

「……!!いいいいいえ!!!」

 

慌ててぶんぶんと手を振ると、トシは声を出して笑って、私の頭を撫でて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「急がないと郵便局しまっちゃうでござるよ」

 

一瞬、自分の耳がこわれたのかと思った。

 

……は?…え、ちょっとまって、この流れで、まさか…」

氏!!は、早くしないとぉぉーー!!」

 

 

「え、うそぉ、嘘ォォオオォー!!!??

 

 

 

 

そのまま私は大絶叫しながら、郵便局へと引きずられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テンポラリー・リカバリー


(何で!何でさっき戻ったの!?一瞬しか戻れないの!?な、なんでよぉおおー!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

一瞬の幸せでした。でもどっちかといえば刀突きつけられたりで辛いことばっかりですよね。

本当は戦闘シーン、もっと…その、グロい感じにしようかなーと思ったんですけど、カットしました。

”土方”の最後の台詞は深読みするもしないも、貴方におまかせします(何

2008/1/7