季節は冬。
外はひゅうひゅうと音を立てて風が吹いている。
それでも子供達は外で遊んでいるようで、時々元気な声が聞こえてくる。
「うー…すごいね、子供って。寒くないのかなぁ」
「いやいやよく見ろよ。ものっそ厚着してだるまみてーになってんだろ、多分」
あたしは居間のソファに座ってさっき買ってきた雑誌をぱらぱらと読む。
銀ちゃんはこたつに入ってぐったり、というかまったりしている。
おかげで厚着の真相は謎のまま。
「そういえば神楽ちゃんいないねー。遊びに行ってるの?」
「おう。朝から厚着してマフラー巻いて、これでもか!ってくらい武装してったぞ」
「武装って…。でも、あたしももうちょっと着込んでくればよかったなぁ」
万事屋への道のりは、あたしの家からは結構近い。
今日は本屋へ寄ってからきたから…とはいえそこまで離れていない。
…それでもやっぱり寒いものは寒いんだよ!
「外ではみっちり着込んでくれてかまわねーけど家の中では脱いでてね。銀さんの目の癒しに…」
「うん、やっぱりおもいっきり厚着してこようかな」
「すいませんでした」
喋りながらも目は雑誌の文字を追う。
喋りながらなので普段よりも読むのに時間がかかる。
「…いや、だけど厚着っていうのもいいかもな。こう…脱がす工程が…」
「まだその話してんの!?」
さっきので終わったと思ってたんだけど。
「だってよォ、今ここには俺としかいねぇんだよ?そういう考えにもなるってもんだろ」
いつの間にか銀ちゃんはこたつから出て、あたしの横に座っていた。
…こういうときだけ、妙に動きが素早いんだよね。
「…じゃあさ、銀ちゃん」
雑誌を机において、銀ちゃんのほうを向いて言う。
「抱きついてあげようか?」
「…え、どうしたんですかちゃん。寒さで頭おかしくなったのか?」
「失礼だなぁ。嫌ならいいけど」
言いながらもう一度雑誌に手を伸ばす。
「いいいいいえ!むしろ大歓迎だから!ほーら銀さんの胸に飛び込んでおいで!」
「……」
がばっ、と両手を広げて叫ぶ銀ちゃん。
「…後悔してもしらないから…ね」
ぼそり、と聞こえるか聞こえないかくらいで呟いたあたしは、心の中でにやりと笑って銀ちゃんに抱きつく。
そして、するりと銀ちゃんの首筋に手を回す。
その瞬間。
「冷たァアアァァァ!!」
がばっ、と物凄い勢いで両手首を掴まれ引き離される。
してやったり!と、心の中でひそかにガッツポーズをとる。
「あららら銀ちゃんどーしたのー?嬉しいんじゃないのー?」
にやにやと笑って言う。
なんだかいつもと立場が逆になっている気がする。
「いや嬉しいのは嬉しいんだけど、お前手ェすっげぇ冷えてるぞ!?」
雑誌に視線を集中していたせいであんまり気がつかなかったけれど、指先が赤くなっていた。
「あー、今日は万事屋直行じゃなくて本屋寄ったから…外にいる時間がいつもより長かったからかな」
「すっげー冷えてるよ!?わかってんの!」
「うん、そりゃあ…って銀ちゃん?」
掴んでいた手首をはなして、今度は両手をぎゅうぎゅうと握ってくる。
「…銀ちゃん、なんでそんなに手あったかいの?」
「俺は専用の人間湯たんぽだからなー。」
ぎゅー、とあたしの両手を握る銀ちゃんの手は暖かくて大きくて。
あたしの手なんてすっぽりと包み込まれてしまう。
「…あったかい」
「そりゃよかった」
「ありがとうね」
そういうと銀ちゃんは照れたように笑って、おう、と一言呟いた。
「っていうかさ、なんでこたつあるのに入らないの?」
手を握ったまま、思いついたように尋ねられる。
「こたつは…暖かくて、入るとでれなくなるじゃん」
「つまり?」
にまにまと笑って聞いてくる銀ちゃん。
「…帰りたくなくなるの!」
「じゃあ帰らなきゃいいだろ?」
簡単じゃないか、とでも言うように笑う。
そのとき、ひときわ強く風が吹き、万事屋の窓がガタガタと音を立てて揺れた。
「……泊まっていい?」
まったりしているうちに、外の風はここに来たときよりも強くなっていたようだ。
「大歓迎!」
にかっと笑って、もう一度ぎゅっと力を入れてあたしの手を握る。
「あぁそうだ。寝るときは手だけじゃなくて体ごと暖めてやるぜ?」
「寝るときは布団があるから大丈夫ですー」
暖かい貴方と冷たいあたし
(でも、今はこたつじゃなくって、銀ちゃんの手から離れるのが嫌だな、なんて絶対言わない。)
あとがき
手が冷えてるのは私です(ぁ
友達に握って暖めてもらっていた時に思いついた一品です。いつもありがとう!(ここで言うな
2008/1/24