こたつに足を突っ込んで、本を読む。

かちかち、と時計の秒針の音だけが部屋に響いている。

普段賑やかな万事屋に、今はあたし1人しかいない。

 

 

神楽ちゃんは定春の散歩に。

新八君は夕飯の買い物に。

銀ちゃんはコンビニに。

そしてあたしは留守番。

 

 

 

っていうか、銀ちゃんはすぐそこのコンビニへ行くのにどれだけ時間がかかってるのよ。

帰ってくるまで本でも読んでいようと思って、今こうして1人もくもくと本を読んでいるんだけど…。

流石に、暇!

 

 

 

「うーん…むぅ…」

読みかけの本にしおりを挟んで、立ち上がる。

こたつの外はやっぱりひんやりとしていて少し寒い。

 

 

風が吹かない分、まだ室内はマシだ、と自分に言い聞かせて角にある棚へと足を向ける。

そしてがさがさ、と引き出しをあさる。

「ん、あったあった」

 

 

取り出したのは、目薬。

「よいしょ…っと」

きゅっとふたを開けて、上を向いて、目薬をさす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞー!」

ガラガラッという玄関の戸の開く音と共に銀ちゃんの声が響く。

「いや、まさかいちご牛乳の新種類がでてるとは思わなくてよォ、迷っちまってさぁ遅くなってごめんなー」

軽快に響く足音と共に、銀ちゃんがこっちへ寄ってくるのが分かる。

 

 

ー?」

「んー……あぁ、おかえりー…」

ひょっこりとあたしのいる居間を覗く銀ちゃんを振り返って、そう答える。

すると銀ちゃんは、いつもの死んだ魚みたいな目を大きく開いて、叫んだ。

「お、おま…何泣いてんのぉぉぉーー!?」

同時に、どさり、とコンビニの袋が音を立てて床に落ちた。

 

 

 

 

 

「…は!?ば、バカなこと言ってんじゃないわよ!何であたしが泣かなきゃいけないの!!これは、」

「だって泣いてんじゃん!まさか…俺の帰りが遅くて泣くほど寂しかったのか?そーかそーか、可愛いなお前は」

「理由聞けっつってんだろ」

「はい」

 

 

 

 

とりあえず、音を立てて落ちたいちご牛乳を冷蔵庫に入れてから、居間へ戻る。

「…で、理由ってなんだよ」

「これ!!」

死んだ魚みたいな目に戻った銀ちゃんの前にビシッとそれを差し出す。

 

「…目薬?」

 

 

「そう。上手く入らなくて、ちょっと…その、失敗しただけ」

近くで見れば、目じゃないところから目薬が流れてることに気付いたのだろうけど。

「なんだ、しょうがねーなぁ。俺がやってやるから、それ貸せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「…あのさ、早くしてくれない?」

銀ちゃんに目薬を手渡してから、1分ほどたった今、まだ目薬は落ちてこない。

いい加減あたしの目の乾きもやばくなってきた。

 

 

「…えーと、、あんまりみつめないでくれる?」

「み…!?見つめてないもん!しょうがないでしょ!そっち向かないと目薬させないじゃん!」

顔をうっすら赤くして視線をそらす銀ちゃんに、思わず「お前は乙女か!」とつっこみたくなった。

けどこのままじゃ、ずっとあたしの目は乾いたままだろう。

 

 

っていうか、神楽ちゃんと新八君が帰ってくるまでになんとかしないと、妙な誤解を生みそうだ。

 

 

 

「えーい!もういいって!自分でやるから!なんかもう目乾いて痛くなってきた!」

「痛い!?わ、わかった!ちゃんとやるから動くな!」

 

 

 

 

「…上目遣いは反則だと思うんだけど銀さんは」

「しょうがないんだってば!!ほら、はやく!!」

銀ちゃんのほうが背が高い。だから座高だって銀ちゃんのほうが高い。

…しょうがない、でしょ!

 

 

 

「い、いくぞ!」

「うん」

すっとあたしの頬に左手を添えて顔の向きを固定する。

…えっと、目薬なんだよ、これ。……何なのこの緊張感!!

 

思わず閉じたくなる目を必死に開けて、銀ちゃんの…顔は恥ずかしいから手元を見る。

 

 

 

 

 

「…や…やっぱり駄目!上目遣い駄目!、ちょっとそこに寝ろ!」

「はぁぁ!?何でそこまで…いったッ!!」

ぐいっと肩を押されて床にがんっと頭をぶつける。

思わず閉じた目をあわてて開けると、あたしの顔の横には銀ちゃんの腕が。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って、さすがにこの体制は…」

そう言いかけたとき。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまヨー!」

「銀さーん、さーん、留守番ご苦労様で……」

 

 

 

ぴしり、と2人の顔が引きつる。

ついでにあたしと銀ちゃんの顔も引きつる。

 

 

「な…何してんだあんたぁぁぁああ!!」

「銀ちゃん!私のを押し倒すなんていい度胸アル!」

 

「違う!押し倒し…たかもしんねーけど、ちゃんと理由が!」

「問答無用ネ!!」

 

 

ガスンッといういい音と共に、あたしの視界には天井しか見えなくなった。

 

 

 

 

ころりとあたしの横に転がった目薬を拾って、神楽ちゃんの華麗なとび蹴りを

呆然と見ていた新八君のところへ行って一言。

 

 

「…あの、ちょっといいですか」

「え、はい、さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしの目に潤いを



(ちなみに新八君はものの10秒ほどで目薬をさしてくれました。…たったこれだけに、凄く疲れたんですけど!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

私はドライアイな人じゃないんですけどね!でも一発で目薬入れられません(ぁ

っていうかあんなに放置したら目大変なことになりますよね多分。

2008/2/17