「おめーは何か食べないんですかィ?」
丁度昼の時間…というには少し遅い昼食を食いながら、目の前に座る幽霊女、に問う。
「あー…遠慮しておきます。人の多いところだと…あ、幽霊は食べなくても大丈夫なので心配いりませんよ!」
そう言ってまた笑う。
それにしても…いつもは無駄にふらふら歩いてるくせに、こういうときに限って旦那はどこ行ったんでさァ。
「…おめーの墓にいる、ってことはねーんですかィ?」
「…多分、いない、かと」
少しだけ目を細めて、下を向く。
「あの、沖田さん。ここで私に返事をすると、周りから変な目でみられちゃいますから、黙って聞いてくれますか…?」
あたしは、沖田さん以外の人に見えない、から。
そう呟かれ、俺は言われたまま黙って昼飯を食いながら話を聞いた。
「去年まで、ずっと、あたしはお墓の前にいたんです。でも、銀さんは来なかったんです。
本当は町へ行って探したかったんですけど、あたし方向音痴だから…。
それにあの頃と町は変わっちゃってますし…。だから、待っていようって」
ゆっくりと、ぽつりぽつりと紡がれる言葉。
俺はさっさと昼飯を食い終えて、外へ出た。
「…で。と旦那の関係は何なんでさァ」
「えっと…友達以上恋人以下です」
未満じゃなく、以下。
えらく幅の広い関係だねィ、と思いながら、あてもなく歩き出す。
「好き、って言われたことも、言ったこともないんですけど、恋人みたいな関係でした」
歩きながら話す。
「あたしは、勇気がでなくて、なかなかいえなくて。もし、言ってしまったとき、この関係が終わってしまうのが怖くて…」
はだんだんと俯いていく。
「でも…今思えば、もっと早く言っておけばよかったかもしれません」
そして最後に、小さな泣きそうな声で、呟く。
「もしかしたら…もう忘れちゃったのかもしれません、あたしのこと」
「…は、事故で死んだんですかィ?」
「いいえ。病気だったんです、治らない病気」
どくんと心臓が音を立てる。
病気。笑顔。…そして、大切な、奴、との別れ。
あぁ、強く拒否できねーのは、あの人に似ているから、だったのかもしれねーや…。
「…行きやすぜ」
「え?」
「はやく捜さねーと、会ってもすぐさよならしなきゃいけなくなっちまうだろィ」
「……沖田さん……はいっ、はいっ、ありがとうございます!!」
頷いてにこにこと笑って。
ああ、とんだ休日になっちまった。
ふらふらと当ても無く歩いているうちに、空は夕方へと近づいていった。
捜すとはいえ、もう場所が無い。
そう思っていたときに、また会いたくねーやつが出てきた。
「土方さん…」
「露骨に嫌そうな顔してんじゃねーよ。何してんだてめーは」
「今日は非番ですからねィ。そんなことより…土方さん、万事屋の旦那みかけやせんでしたかィ?」
やっぱり、見えてないんですねィ。
そういいかけて、やめた。
「万事屋ァ?あー…みてない…ん?いや、確か…花屋にいたきがするが…あいつが花屋なんかいくとは…」
「そーですかィ。じゃ俺ァこれで失礼しやす。土方さん、今日は溝にでもはまって帰って来ねーでくだせェ」
「どんな挨拶だこらァァァ!!」
怒鳴り声を背に受けて、俺はの手をひいて走り出す。
パフェ2つに花屋。
そうなれば、行く先は一つしかねェ。
「おい」
「は、はいっ!?」
「旦那はきっと…あんたのこと、忘れてなんかいやせんぜ」
「お、沖田、さん、ちょっと、待ってぇ…!」
「どうしたんでさァ」
「は、はやいです、よ…」
嘘つけィ。飛んでるおめーの方が早いだろうが。
そう言ってやろうと、を振り返ると、さっきよりも青白い顔をして、息を荒くしていた。
「お…い、どうしたんでさァ」
「時間が…ないから…あはは、もう、夜、だから、ですかね」
握った手は冷たい。朝よりも、ずっと。
それがさっきよりも色濃く、こいつが生きていない存在だということを感じさせる。
「諦めてんじゃねーやィ。ここまで付き合ってやったんでさァ。俺の1日無駄にすんじゃねェ」
「…あ…そう、ですよね。…まだ少しあります、あたし、諦めませんっ!!」
「その意気ですぜィ」
肩を揺らしながら呼吸して、にっこりと笑う。
墓場まで、あと少し。
墓につく頃には、空は暗くなっていた。
も飛ぶ体力が尽きてきたのか、俺に引きずられるようにして、走っていた。
「…旦那はっ…いねーんですかィ…?」
まわりを見回す。
あぁ、そうでさァ。あんな怖がりな人が、夜中に墓場になんて。盲点、でしたねィ…。
「あの…沖田さん、あそこ、です。あたしの…お墓…」
墓場の隅のほうを指差して、言う。
「ここ…です。あたしは、去年までずっとここにいたんです」
回りのと比べて、小ぢんまりとした墓の前で話す。
「…あの、付き合ってくれてありがとうございました。今日、すごく楽しかったです!」
そう言って笑う。本当は泣きたいくせに、最後まで、笑うつもりかこいつァ。
「沖田さんと一緒に町を回れて、楽しかった。すごく、すごく…楽しかった…」
そう言って笑うは、綺麗な笑顔で、今にも消えちまいそうだった。
「おい、…」
「あっれー、なにしてるの、沖田くーん」
マヌケな声が、墓場に響く。
それは、ずっと捜していた奴の、声。
「だん…な…」
「何してんのさ。こんな夜に。1人で墓場って…何、罰ゲーム?」
ずきりと体のどこか奥が痛んだ気がした。
1人で。
なんで、どいつもこいつも。特に、なんであんたは…!!
「ぎ…んさん…銀さんっ、銀さんっ、あい、たかった、です、っ!!」
俺が旦那に向かって言う前に、は泣く寸前のような、震えた声で叫んだ。
何度も何度も呼びかけても、旦那には、届いて、ねェ。
「…何しに来たんですかィ旦那」
「あー…まぁ、その、墓参りだよ。ほら、そこの」
そう言って旦那はゆっくり歩いて、こいつの、の墓の前にしゃがんで持っていた花を据えた。
「ずーっと、来よう、来ようと思ってたんだけどなぁ。なかなか決心がつかなくて」
「そりゃ何の決心でさァ」
「こいつが生きてる間に言いそびれたことを、考えててな。やっと、考えがまとまったんでな」
は旦那の後ろで、黙って聞いている。
「…ま、折角だから聞いてくれよ」
俺はうなずくこともしないで、ただ、黙って立っていた。
「俺はずっと、あの頃の関係のままでいいって思ってたんだ。
もそれでいいだろうって勝手に思い込んでたんだろうなー、俺ぁ。
だからずっと中途半端な関係のままだった。…結構不安にさせてたのかもな」
「ちが、うよ。あたし、銀さんと生きていて、楽しかった、幸せだった、だからっ」
辛そうな顔しないで。
そう言っては手で顔を覆う。
「だから。せめてもの償いに、今日は決心してきたわけだよ」
すっと立ち上がって、旦那は、くるりと後ろを向いて、言った。
「、お前が好きだ。昔も、今も、ずっと愛してるぞコノヤロー」
「ぎ…んさ…ん…あたし、も、大好きです、銀さんがあの時からずっとずっと、大好きですっ…!!」
はぼろぼろと涙をこぼしながら、笑顔で言う。
泣いてるくせに、すげェ幸せそうな顔してらァ。
「…旦那、あんた……見えるんですかィ?」
「今、急にな。墓に入ってきたときは見えなかったんだけどよォ」
そう言いながら、旦那はぼろぼろ涙を流し続けるの頭を撫でた。
旦那の、あんな笑顔初めてみやしたぜィ。
「なら、そいつのこと頼みまさァ。俺ァそろそろ帰るんで」
そう言って2人に背を向けて歩き出そうとしたとき、小さな叫び声が聞こえた。
「沖田さんっ!!ほん、とに…ありがとうございました…っ!!」
ところどころ嗚咽で聞こえないけど、ちゃんと聞こえやしたぜィ。
…せいぜい、今日の残りの時間、幸せになりなせェ。
心の中で言いながら、俺ァ振り返らずに手を2,3回振って墓を出た。
そういえば、もうすぐ姉上の命日ですねィ。
…癪ですけど、土方さんも連れて墓参りに行こうか、なんて考えながら、
俺は月の綺麗な夜空を見上げながら、屯所への道をゆっくりと歩いていた。
愛想ナイト
(「何、お前今日一日中沖田君と一緒だったの?」「うん。とってもいい人だね」
「…ちゃーん、そういうこと言うと俺妬いちゃうよー」
「あはは、でも、愛してるのは銀さんだけだよ。大好きよ、銀さん」
「お、おまっ…あーもうそういう恥ずかしいことさらっと言うんじゃねーよ!」)
あとがき
完結!書いてて楽しかったです。語りが沖田さんだから、悲恋っぽい感じがするかもしれないですけど、
沖田さんの中ではヒロインはお友達なのです。っていうか、一応銀さん夢なんで、これ!(…
2008/06/29