朝のかぶき町は、夜に比べて静かだった。
まぁ、まだ早朝っていうのもあるんだろうけど。
そんな時間に歩いているのも、万事屋へ行って銀さんと神楽ちゃんを起こして、朝ごはんを作る仕事があるから。
それにしても、今日はいつもよりまだ早いなぁ。
…あぁ、そうだ。ちょっとだけ、寄り道していこう。
かぶき町から少し離れたところの林にある神社。
緑が多いこの場所は、空気も綺麗で結構気に入ってたりする。
ここを教えてくれたのは、銀さんだけど。
…っていうか、今日はなんか美味しそうなにおいがする…なんだろこれ、味噌汁?
とりあえず賽銭箱の前に立って、両手を合わせて息を吸う。
「今度発売のお通ちゃんのシングルがオリコンチャートで一位になりますように!!!」
お賽銭はないけど!…というのは心の中で叫んだ。
すると、目の前の拝殿の奥からガタガタッという音、そして「あ、わ、うわわっ」という声が聞こえた。
…え、何かまずいことになってる?
その場で立ち尽くしていると、閉められていた拝殿の戸が少しだけ開いた。
「…あはは、おはようございます。えっと…さっきの、聞こえました…?」
そう言って少し恥ずかしそうに出てきた巫女服の女の子に、僕は2、3回頷いた。
「驚かせちゃいましたよね。ご、ごめんなさい!」
そう言って頭を下げる女の子と、ふわりと漂う味噌汁の香りでふと我に返る。
「あ、い、いや、僕の方こそ朝からすいませんでしたぁぁ!!」
やっぱコレ味噌汁だよね?と疑問に思いながら、頭を下げる。
「そ、そんなことないですよ!ただ、今までこんな朝早くに来る人いなかったから、驚いちゃって」
だから顔上げてください、と女の子は言った。続けて、少し照れくさそうに言う。
「…朝ごはん、もう食べました?」
拝殿はさほど広くは無いけれど、人ひとりくらいは生活できそうなスペースがあった。
戸を開け放って、僕と女の子…さんは朝ごはんを食べていた。
「はい、新八さん」
「あ、ありがとう」
にっこりと笑って差し出されたご飯と味噌汁。
神社で何をしてるんだ、なんていつもならツッコミでも入れるのに、今日は何故か何もいえなかった。
「男の人にはちょっと足りないかもしれないけど…」
「ううん、それより、本当によかったの?」
拝殿の中にある、小さカセットコンロと鍋。そしてこれまた小さな炊飯器。
さっきの音は、どうも湯のみを倒してしまった音だったみたい。
「いつも1人で朝ごはんなんで、たまには誰かと食べたかったんですよ」
「1人…ってここに住んでるの!?」
お味噌汁美味しいです、って言う前に違う言葉が出た。
「そうですよ。一週間くらい前からですね。前はおばーちゃんがここ管理してたんですけど、今は交代中なんです」
半年ずつで交代なんですよー、と言って笑う。
「でも夜とか危ないんじゃない?」
「鍵はバッチリしめてますからね。それに、夜はこんな町外れの神社に人きませんよー」
あはは、と声を上げて笑うさん。
「ふふ、でも心配してくれてありがとうございます!」
にこっ、という効果音が似合う笑顔を向けられて、一瞬、どきりとした。
ちょ、ちょっとまて!僕には、僕にはお通ちゃんが…いる、じゃないか…!
そう心の中で何度も唱えても、心臓は正直に早鐘を打つ。
「新八さん?」
「うわあっ、あ、えと、朝ごはんごちそうさまでした!!美味しかったです!」
「は…はい!」
大声で叫んだ所為だろうけど、一瞬目を丸くして驚いていた。
でも、美味しかった、と伝えるとさんは、またふわりと笑ってくれた。
ダメだ、ダメだ。これ以上かかわったら、きっと僕は。
そう思っているのに。
「…あの、また…明日も来ていいですか?」
なんて、口は動いてしまった。
「はい、毎日でも来てください!楽しみにしてますよ!」
笑顔で手を振るさんを後に、僕は万事屋への道を歩いていった。
「おっせぇぇえええーーー!!!テメー、今日の朝ごはん当番だろうが!」
「もうお腹ペコペコアル!早くご飯作るヨロシ!」
「あぁ…はいはい、今から、準備しますんで」
ぼーっとしたまま台所へ向かう。
味噌汁とご飯…美味しかったなぁ、なんて思いながら今度は僕が朝ごはんを作る。
…どうせならさんに作ってあげたいなぁ…って何考えてるんだ僕は!!
「銀ちゃん、なんか新八気持ち悪いアル。1人で百面相やってるヨ」
「ありゃーきっと女だな。うん、銀さんの長年の勘がそう言ってる」
「マジでか!誰アルか!」
「よし、探りいれっぞ神楽!」
「あいあいさー!」
出会いは味噌汁の香り
(朝ごはんを持っていったら、銀さんと神楽ちゃんが気持ち悪いくらい笑顔だった。なんなんだよこの人たち!!)
あとがき
捏造神社の巫女さんヒロイン。ずっと前から設定だけは考えてたんですよ。
もしかしたら同じヒロインでまた書くかもです。新八の夢小説はほのぼのになりそうだ…!
2008/08/25