「じゃあ今から幕府襲撃作戦の会議を始める」
「あのー、晋助さま」
「あ?」
「と万斎がいないッス」
「…チッ、またあいつらか…!!」
振り回されているのは
「〜好きだなんて言えないけれど〜わかっていてくれるでしょ〜」
そう歌いきって、耳にはめたイヤホンから伴奏が消える。
「…どう?」
「流石、殿。いい感じだったでござるよ」
手元に持った歌詞を書いた紙を見ながら、うんうんと頷きながら言う万斎。
時々、こうやってあたしは万斎の手伝いをしている。
曲と歌詞が合うかどうか1回歌ってみる、というのがあたしの手伝い事。
それで万斎がオーケーを出したら、歌は万斎のプロデュースしている歌手へと運ばれる。
ちなみにお蔵入りになったものは、あたしが勝手に歌ってる。
元々歌うのは好きだから苦にはならない。むしろ楽しい。幕府に攻撃するより、会議するより楽しい。
「それにしても、あんた普通の歌詞も書けたのね!」
「バカにしてるでござるか?」
「あはははは…褒めてるのよ!」
キラリ、とサングラスの向こう側で目が光った気がして慌てて訂正する。
ここの人たち、なんか皆怖いのよね!
「殿、歌手にはならないでござるか?」
「え?あー無理無理!お通ちゃんの方が上手いって。あたしのは趣味レベルだからさ」
あははと笑って、鬼兵隊と普通の仕事両立できるなんてあんたくらいよ、と心の中で付け足しておいた。
「っていうか、最近万斎さ…」
そういいかけたとき、部屋の襖がスパーンと勢いよく開き、晋助の叫び声が響く。
「何やってんだテメーらァァ!!朝は会議だっつっただろ!」
「ぎゃああああああ!」
「晋助、朝から叫ぶと体に悪いでござるよ」
「「お前落ち着きすぎ」」
普通に返事をした万斎にあたしと晋助でツッコミをいれた後も、お説教は続いていた。
「で。会議サボって何やってんだァ?」
「すいませんでした。その、ちょっと、万斎の手伝いを…」
正座をするあたしの前に仁王立ちをする晋助は、物凄く怖い。
どんどんとあたしの顔は下を向いていく。
晋助は下を向いたあたしの顎に刀の鞘を当てて、くいっと上を向かせる。
「これはお仕置きが必要だなァ…ククッ」
「丁重にお断りいたします!!会議行かなかったのは謝るから!てか謝ってるから!」
そう叫ぶと、晋助はゆっくりとしゃがんで耳元に顔を近づける。
ちょっと何してんのこの人!
「選ばせてやるよ。痛い方と気持ちイイ方…はどっちがお好みだ?」
「ちょっとまてェェェ!それセクハラ!なんかセクハラくさい!」
どんっと晋助を突き飛ばして後ずさる。
「そっ…そもそも、なんであたしだけ!?万斎だってサボって…っていねぇぇぇ!どこいったあいつ!」
部屋を見渡してみても万斎の姿は無い。
変わりに部屋の隅、壁際に一枚の紙が落ちていた。
それを拾って読んでみると、『晋助のことはまかせたでござる』と一言だけ書かれていた。
あの野郎…1人で逃げたわね…!!
「あいつ、絶対シメてや…」
壁に向かってそう呟いた時、ダンッという音を立ててあたしの両脇から伸びてきた手が壁につく。
「まだ話は終わってねェ」
あたしのすぐ後ろで呟かれた声は、さっきの数倍低く、背筋がぞくりとした。
「も、もういいじゃん!謝ったじゃん!会議サボってすいませんでした!」
「そうじゃねぇんだよ」
そう耳元で低く言われる。
微かにかかる息から逃れようと、あたしの顔はまた俯いていく。
無駄に声いいんだから、耳元で喋らないで頂きたい…!
「俺が怒ってるのは、それじゃねェ」
「は…?」
え、あたし他に何かしたっけ。
ぐるぐると考えを巡らせてみても、思い当たる節は無い。
うーん、と唸っていると痺れを切らした晋助が口を開いた。
「テメーなぁ…ほんっとうにわからねーのかよ?」
「ッ!!だから耳元で喋るんじゃないわよ!!」
あたしが叫ぶと同時に上げた頭が、ガツンという音を立てて晋助の…多分顎にヒットした。
「あ…ご、ごめんね!わざとじゃない!っていうか今のは晋助が悪い!」
思いっきり息を吹きかけられた耳を押さえながら言う。
対する晋助は顔を抑えて言う。
「この…石頭女…」
「ぶっとばすわよ」
「で、あたし何かしたっけ?」
今度はちゃんと向かい合って普通に座りながら話をする。
「…は俺の女だろうが」
「………あ、うん。そうだね」
「今の間は何だ、今の間は!」
晋助はドンッと刀の先を床に叩きつける。
怖いなぁ、なんて思いながら斜め下へと視線をそらしたあたしの頬にそっと晋助の手が添えられる。
「…あんまり俺以外の奴と一緒にいるんじゃねぇよ」
「それは、女友達も含まれてるわけ?」
「当たり前だ。いつでも気ィ張ってろ。さっきみてーに無防備でいるんじゃねーよ」
なんて独占欲。これじゃまた子と買い物も行けやしないじゃないの。
そう思いながらも、どこかあたしの心は温かい。
こうやって晋助が嫉妬してくれるから、愛されてることがわかるから、あたしは素直に言えないのよ。
「なら、ちゃんとあたしを繋ぎとめておいてよね」
「あぁ。逃げようったって逃げられねェように…首輪でも買ってくるか」
「ごめんそれは勘弁して」
俺かお前か両方か
(「ねぇ万斎、最近恋愛色の強い歌詞が増えてる気がするんだけど」「ネタになる奴らがいるでござるからな」「…まさか」)
あとがき
うちの高杉は嫉妬深いドSみたいです。そして万斎が陰の支配者みたいになってます。
それにしても奇兵隊は難しい…!エセ高杉エセ万斎で本当に申し訳ないです…!
2008/11/07