今日は大晦日。
そして、あと数秒で年が明ける。
『さん、にぃ、いち、!あけましておめでとうございまーす!』
「「「「あけましておめでとーう!!」」」」
テレビから流れ出す音声と、あたしたちの声が響く。
どんなに叫んだって、近所には聞こえないだろう。
だってここは、新八くんとお妙さんの家…というか、ものすごく広い道場なのだから。
「あけましておめでとうアルー!今年もよろしくネ!」
「うん、もちろんだよ神楽ちゃんっ!」
ぎゅーっと抱きついてくる神楽ちゃんをあたしも抱きしめ返す。
「今年は平和な一年になるといいですね」
そう言ってお茶を飲みながら笑う新八くんに「そうだね」と微笑み返す。
「ふふ、でもきっと無理よ」
にこにこと笑いながらお妙さんは側においてあった長刀をおもむろに床にドスリと突き刺した。
「ぎゃああ姉上ェェ!!新年から何やってるんですかァァァ!!」
「ごみ掃除よ」
ずぼっと長刀を抜いた後にできた穴を、あたしと神楽ちゃんは覗き込む。
「お妙さぁぁん!今年こそ、俺と結婚」
そこまで聞こえたところであたしたちは座布団で穴を塞いだ。
「なーるほど」
「元旦くらい、のんびりしたいもの」
にこにこと笑うお妙さんは、あたしたちが乗せた座布団の上に布団やら色んなものを積み上げていく。
「ちゃんものんびりしたいから、ここにきたんでしょう?」
そう言って笑うお妙さん。…あはは、全部お見通し…なのかな。
「うん、去年家にいたら、皆押しかけてきて大変だったんだよね…」
去年の元旦は家が破裂するんじゃないかというくらいの大人数に押しかけられて、あっというまに一日が過ぎた。
そしてみんなが散らかして行ったあとの片づけに、丸一日かかって気付いたら正月は終わっていたのよね。
「今年こそはゆっくりのんびりしたいんだよねー」
そう言いながらこたつの上に乗るみかんに手を伸ばそうとしたとき。
「ー!!新八ー!神楽ァァァ!!てめーらっ、俺だけ除け者にしてんじゃねーよ!!」
なんていう叫び声が庭のほうから聞こえてきた。
「…ね、今の銀さんの声じゃない?」
「そういえば、連れて来るの忘れてましたね」
みかんを丁寧に剥きながら、あっさり言う新八くん。
まあ、銀さんなら部屋にいれてあげてもいいんじゃないかな、と思った瞬間。
突然庭から爆発音が響いた。
「げほっ、オイィイ、どーなってんだこの家は!」
「おそらく近藤さん避けに設置された地雷じゃないですかねィ。丁度いいや。ここらでくたばって下せェ土方さん」
「うるせぇぇぇ!テメーがくたばれ総悟!!」
「俺ァ今からと初詣なんで。邪魔なのはあんたですぜィ」
ドカンドカンという爆発音の合間から聞こえてくる声は、あまりにも知りすぎた人の声。
「…ちょっとまてェェェ!!なんで皆集まってんの!」
「真選組の奴らは皆ゴキブリ並の執念アルな」
「去年さんと初詣行けなかったから、そのリベンジなんでしょうね」
もぐもぐ、とみかんを食べながら言う2人はものすごく落ち着いている。
…このままいくと、家破壊されちゃうんじゃないの…?
「ね、ねえお妙さん!このままじゃ危ないんじゃ…」
「そうね。確かに…私の平和な元旦が危ないわ」
え、そっち?と突っ込む前に凛とした声が響く。
「新ちゃん!トラップAとD、発動!」
「はいはい」
片手に持っていたみかんを口にほおりこんで、机の下のボタンをカチカチっと押す。
それと同時に、ドガガガガッという工事現場顔負けの轟音が聞こえてきた。
「うおおお、すごいネ!、あそこ見てみるアル!」
「え…って庭が落とし穴だらけになってんだけどォォ!!」
ぼこぼこと庭に開いた穴。更に鉄格子の柵まで建っている。
「神楽ちゃん、ちょっとこっち手伝ってちょうだい」
「わかったヨ姉御!」
ぱたぱたと神楽ちゃんが走っていくのを横目で見ながら、
呆然と庭を見つめていると、新八くんがこたつに入ったまま声をかけてきた。
「さん、避難してたほうがいいですよ。安全なの、ここかこの上の屋根くらいですから」
「…うん。大人しくしてる」
テレビの音は、外の爆発音やら叫び声にかきけされていく。
なんという正月…!!ほのぼのなんてとんでもない!
結局毎年こうなるのか、なんて思って思いながら窓の外を眺めていると、
突然目の前にぶらりと何かがぶら下がった。
「あの、あけましておめでとう、ちゃん」
「うおわああああ!!やっ…山崎さんっ!?なんつーとこから…」
天井から逆さまにぶら下がって手を振る山崎さんに心底驚いた。
なにこれ、今年は地味とは言わせないぜ!なノリなんですか!?
「ご、ごめんね。外…荒れてるから、ここからしか入れなくて」
「っていうか入れたことが奇跡ですよ。よく来れましたね…」
未だに爆発音は止まない。聞こえる声も遠ざかったり、近まったり。
とん、と山崎さんは廊下に降りて、あたしと同じ向きになる。
「あのさ、ちゃん、日の出…見に行かない?」
「行きたいけど…ほら、外こんなんだし。危ないよ」
入るのも大変なら、出るのも相当難しいであろう志村家を見ながら苦笑いをする。
「だから、屋根の上…行かない?」
山崎さんの言葉に「どうやって…?」という疑問を持ちながらも頷くと、にっこりと笑って手を差し出された。
反射的にその手に自分の手を重ねると、ぐいっと引っ張られて廊下に出された。
「やっ…山崎さん!?」
「ちゃんと掴まっててね」
そう言うと山崎さんはあたしの背中に手をそえて、膝の裏側に腕をまわした。
所謂、お姫様だっこの状態で床を強く蹴る。
「え、嘘でしょォォォ!?」というあたしの叫びも虚しく、あっというまに屋根の上に登ってしまった。
「新年早々、寿命が縮んだ気がする」
「ご、ごめんね!でも安全そうなの、ここしかなくて…」
顔の前で両手を合わせてさっきからずっと謝ってる山崎さん。
「…でも、素敵な日の出が見れそうだから、許してあげる」
「ちゃん…ありがとう!今年も、よろしくね」
「うん。こちらこそ、よろしくねっ!」
あたしたちは笑いながら、もうすぐ昇ってくるであろう朝日を、屋根の上で待っていた。
とてつもなく賑やかな庭と、きれいな空を見ながら。
今年も賑やかに
(「…死人、出ないよね、これ」「まああの人たちなら、大丈夫なんじゃないかな」「…それもそっか!」)
あとがき
あけましておめでとうございまぁぁぁぁーす!!!
今年も風村雪、そして朧月書店をどうぞよろしくお願いいたします!
若干去年の続きみたいになってます。オチは退というマイナーなところに収まりました。
多分、このあとちゃんとみんなで初詣行ってもうひと暴れしたと思いますよ!(ぇ
2009/1/1