隠密活動を終えて、報告書も書き上げた。
あとは副長に提出すれば休憩時間がやってくる。
そう思って軽い足取りで廊下を歩いていたあたしは、廊下に立つ副長を見つけた。
部屋まで行く手間が省けた、なんていう考えが浮かんだけれど、それはすぐに消えてしまった。
(ああ、またあの表情。必死に感情を殺そうとしてる表情。)
副長はたまに、どこか遠いところを見ている気がする。
どうせマヨネーズのことでも考えてるんだろう、なんて思っていたけど、どうやら違うらしい。
同じ隠密仲間の退に聞いたところ、ミツバさんという人のことを考えてるんじゃないか、という結論にたどり着いた。
(あの鬼の副長が、誰かを、それも女の人を、なんて。)
ミツバさんという人は、沖田隊長のお姉さんらしい。
隊長と同じでサディスティックな人かと思ってみんなに聞いてみたけれど、どうやら違うようだ。
むしろ間逆で、パーフェクトな人だった。
(あぁ、あたし、もう既に負けてるじゃん。)
女のあたしですら惚れてしまいそうな人だったんだろう。
みんな揃って、ミツバさんのことを話すとき、とっても優しい笑顔だったんだもの。
(なんで、そのときに仕事だったんだろう、あたし。会ってみたかったのに、な。)
会いたいという願いは虚しく、ミツバさんは、もう、亡くなってしまっていたそうだ。
(だからみんなそんな優しくて、辛そうな顔をするんだね。)
今の副長は、何を思っているんだろう。ミツバさんのこと?それとも、本当にマヨネーズのこと?
あたしとしては、後者がいいな。
それならいつもみたいに笑って話せるのに。
無意識に力がこもっていた手に握られた報告書は、とてもじゃないけど綺麗とはいえない状態になっていた。
めしゃり、と音を立てた報告書を持って、ゆっくり歩き出す。
「副長」
「ん…?あぁ、か」
そう言ってあたしの方を見た副長は、いつもと同じ笑顔だった。
「報告書、か。ご苦労…ってすげーヨレヨレじゃねーか」
「副長」
報告書を握ったまま、渡さないあたしを不思議そうに見る副長を見据えて、あたしは言う。
貴方を、幸せにします。
「…は?」
呆れたような声で言う副長。
もし、あたしがミツバさんの立場だったら。
そんな辛そうな笑顔してる副長は見たくないです。蹴り飛ばしてやりたいです。
ミツバさんはそんなことしない人だろうけど。
だから、あたしが貴方の隣で、貴方を幸せにします。笑わせてみせます。
「副長が望むなら、仕事でも何でもしますから。貴方が幸せになれるなら、笑えるなら何でもしますから」
「は、はあ…?なら、まずそのぐしゃぐしゃになった報告書書き直してこい」
「了解しましたァァ!」
ビシッと敬礼するあたしに、若干引き気味な副長。
何引いてるんですか!あたしは貴方のためにやってるんですよもう!
「報告書書いて、持ってきたら、ゆっくり休め。特に頭休めろよ、」
「イエッサー!一週間くらい全力で休みます!」
「休みすぎだろオイ」
好きです、なんて言ったら貴方は凄く困るでしょう。だからあたしは言いません。ただ、貴方の側で、あなたを幸せにするために頑張ります。
だから、側にいることくらいは、許してください、ね。
あとがき
勢いだけでやっちゃった小説です。名前変換がものすごく少なくてすいませんでした。
こういう人に惚れたら大変だよね、ってお話…かなあ←
2009/01/10