「ふははは、俺のターン!ドロー!」

「それジャンル違ぇっつーか痛ェよ!」

ビュッ、と風を切る音が聞こえるほどに土方くんの手持ちのカードを引き抜く銀八先生。

 

「テメー、指が切れるだろうが!」

「チッ、切れなかったんですかィ」

「総悟ォォォ!!」

手に持ったカードで口元を隠して呟いた沖田の声は、隣にいたあたしと土方くんにはバッチリ聞こえていた。

 

 

「んなことより、さっさとカード引けよ」

あたしの隣に座った高杉さんが疲れ気味の声を出す。

 

チッ、と舌打ちを1度してから土方くんは沖田の手持ちのカードを引く。

続いて沖田があたしのカードを引く。

 

 

しゃっ、しゃっというカードの音が響くZ組の教室で机を囲み、あたしたちはババ抜きをしている。

 

「ほら、さっさと引けよ

「う、うん…」

高杉さんの手に持たれているカードを見据えて、これだ、と思ったものを引く。

 

引いたのは、ダイヤの5。手持ちにはハートの5がある。

「ぎゃああ!そ、揃っちゃった!!」

「これでも俺と同じ、4枚だな」

にやり、と笑う銀八先生。

 

 

「つーかお前ら、なんつーババ抜きしてんだよ」

 

「「「「逆ババ抜き」」」」

 

 

今あたしたちがやってるのは、逆ババ抜き。

普通なら、ババが残った人が負け。

だけど今回は勝者を決めるために、ババが残った人が勝ちというルールになっている。

 

「うぐうっ…絶対勝たなきゃなのにっ…!」

だって、勝者には、食堂のフリーパス券が渡されるのだ。

ちなみに、その券を持ってきたのは高杉さん。

 

 

「高杉さんが真っ先にあたしにくれればよかったんだよー」

「持ってっただろうが。銀八が目ざとく見つけたからいけねーんだよ」

高杉さんは食堂へあまり行かないみたいで、パス券も必要ないからあたしにくれようとしたのだ。

それを見つけた銀八先生が「だけずるい!」と言い出したときに遭遇したのが土方くんと沖田。

 

 

「勝者決めてーんなら、ババ抜きじゃないやつにすればよかったんじゃねえの?」

「駄目ですよ。神経衰弱とかも考えたんですけど、沖田がイカサマしそうなんで」

「心外でさァ」

 

 

そうして話しているうちも、カードはみんなの手を回る。

「げ、揃った…」

ぱらりと土方くんの手からカードが落ちる。

 

「あと3枚で死にますねィ土方さん」

「死なねーよ!!いつからそんな物騒になったんだよ!」

ぎゅう、と土方くんに握られたカードが変形するのを見ながら沖田はあたしの手持ちのカードを引く。

 

 

「っていうか、沖田はなんでそんなにカード減らないわけ!?」

「勝利の女神に惚れられてるんでしょうねィ」

「うわ、ウザっ」

はんっと人を見下したような目で見ながら、手に持った5枚のカードを見せつけながら沖田は笑う。

 

 

ぐるぐるとカードが巡る。

だんだんみんなの手持ちは減っていく。

「あ」

そう呟いた高杉さんの手持ちは、ついに2枚になった。

 

「ぎゃははは!高杉ィ、お前の負けはもう目の前だな!」

「うるせーよ。さっさと引け、銀八」

高杉さんが顎で示した土方くんの手持ちからカードを抜いた銀八先生の顔が、蒼白になる。

 

 

「ぎゃああ!おっ、俺も2枚になっちまったァァァ!!」

「ふっ、テメーも日頃の行いが悪いからそうなるんだよ」

悪態をつきながら土方くんは沖田のカードを引く。

そして沖田があたしのカードを引く。

 

 

「…げ」

珍しく、沖田が苦々しい顔をした。

「ああー!沖田、ラスト一枚じゃん!負けじゃん!」

「うるせー、なんでクローバーの4なんか持ってるんでさァ

 

そんなこと知ったことじゃない。最初に配られたんだから、仕方が無いだろう。

 

 

ぐるり、とカードは巡り、ついに土方くんが引く番が来る。

「総悟、ここで終わりだ。残念だったな!」

嬉しそうな顔をしながら土方くんは沖田のラスト一枚のカードを引く。

 

「チッ、まさか一番抜けになるとは…オイ、絶対土方のヤローには負けるんじゃありやせんぜ」

「寧ろ優勝するからね!負けないからね!!」

 

 

 

そして私の手持ちが3枚、高杉さんが2枚となったところで銀八先生が叫んだ。

「ぎゃあああ!!そ、そろっ、た…」

はらりと虚しくカードが足元に散る。

手持ちは、ゼロ。

 

 

「てんめー、土方ァァ!なんでハートのエース持ってんだよ!」

「さっきのやり取りと被ってんだろうがァァ!!」

ツッコミをいれつつ土方はあたしのカードを引く。

 

 

「っ、げ、俺もラスト一枚…」

「こりゃと高杉の一騎打ちだな」

はああ、と落ちたカードを弄びながら銀八先生は呟く。

 

 

妙に緊張する空間の中、高杉さんのカードを引き抜く。

「…ダイヤのジャック…揃ってるし…」

ぱらりとあたしの手からカードが落ちる。

 

机が置いてあるというのにもかかわらず、あたしたちの足元にはカードが散らばっていく。

 

 

「ククッ、じゃあ悪ィな土方」

何だかんだで本気な高杉さんが土方くんのカードを引く。

土方くんの手持ちは、ゼロになる。

 

 

「くっそ、食費が浮くと思ったのによォ…」

溜め息をついてイスの背もたれに背を預ける。

 

 

あたしの手持ちは一枚、高杉さんの手持ちは2枚。

「…ババ持ってたの、高杉さんだったんですね」

「最初から持ってたわけじゃねーけどな」

二枚になったカードを目の前に出される。

 

 

「最初に持ってたのは俺でさァ。ぜってー勝てると思ってたんですけどねィ…」

最初に持ってたのは、沖田だったのか。なんという強運。

 

「頑張れよ、高杉なんかに負けるんじゃねーぞ!」

「持ち主に戻しちまったら意味ねーからな」

「そうでさァ。が勝って奢りなせェよ」

「うん、頑張る…って沖田のはなんか違う!!!奢るものか!!!

 

 

余計な一言付きの応援を背に、高杉さんと向き合う。

どくんどくんと心臓が高鳴る。

 

右と、左。

確立は2分の1。

「……っ、こっち、だァァァ!!!」

右側のカードを引き抜く。

 

 

その瞬間、高杉さんがにやりと笑う。

 

「チェックメイトだ、

 

くるり、と高杉さんのカードが、こちらを向く。

 

そこにはやけにテンションの高そうなピエロの絵と、ジョーカーの文字が。

 

「…う、そっ」

あたしの手持ちは、ダイヤの9と、クローバーの9。

ま、負け、ちゃった…!!!

 

 

「そっ、そんなァァァ!!」

「ククッ、残念だったなァ

イスに深く腰掛けて、足を組む高杉さんが魔王のように見えた。

 

 

…」

ぽん、と肩に銀八先生の手が乗る。

そしてすっ、と土方くんと沖田があたしの横に立つ。

 

 

「「「パス券持ってきた奴勝たせてどうすんじゃぁぁぁぁ!!!!!」」」

「ぎゃああああ!ごめんなさぁぁぁぁい!!!」

 

思いっきり顔の近くで叫ばれて、がたりとイスの音を立てて立ち上がる。

 

 

「こりゃ、罰ゲームですねィ」

「えっ、ええ!?」

「ああ。俺たちの期待を裏切った罪は重いぜ」

「ちょ、ちょっと待とうよ!皆負け組みでしょ!」

 

土方くんはあたしの右手、沖田は左手を掴む。

何この掴まった宇宙人ポーズ!!!

 

 

「覚悟しろよ、ちゃん?」

にやり、と笑った銀八先生が目の前に立ち、手をわきわきと動かす。

 

「えええ、待ってよ!何コレ、重すぎるでしょ!あたしだけ罰ゲームっておかしいでしょ!?」

「大丈夫、土方さんには後でやりまさァ」

さらりと言った沖田を土方くんがギロリと睨む。

 

 

「さて、。……罰ゲーム開始」

にっこりと笑って言った銀八先生の声に、絶望を覚えた。

 

 

 

 

 

放課後カードバトル







(「ぎゃははは!やめっ、やめて!こ、こそばゆっ!!た、助けっ、高杉さん!」「いい眺めだなァ」「この鬼畜共ォォ!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

長らくお待たせいたしました、瀬奈ちゃんへ捧ぐ相互夢でございます!ほんと遅くなってすみませんでした!!!

リクエストは『3Zメンバーでババ抜きと罰ゲーム』とのことでした。罰ゲームがオマケみたいですみません。

実はこれ、1人で5人分トランプ配って実践しながら書いてました。

なので、勝者も敗者も、まったくの無計画で始めました。最初に沖田のカードが無くなったのには吃驚でした。

行き当たりばったりで書き始めたものの、案外ちゃんと終わってくれました(笑)

甘さもない、ノリとギャグだけのお話ですが、瀬奈ちゃんへ捧げます!どうぞこれからも、よろしくお願いいたします!

2009/06/04