暗い部屋の中、立てた膝に頭を埋めて座り込む。
今わたしは、目を開けているんだろうか。閉じているんだろうか。
日光をカーテンに遮られたままのこの部屋は、もう随分と暗闇から抜け出せていない。
別に、誘拐されたわけではない。
だから拘束もされていないし、着物綺麗なものを着けたまま。
ゆっくり立ち上がって、窓のそばに立つ。
カーテンの裾は開けられないように画鋲で壁に留められている。
時計も無い、ただ、机とイス、必要最低限のものだけが置かれた部屋。
そんな音の無い部屋に、ひとつの音が響いた。
ぎい、と軋むような扉の音。
わたしはその音がした方向を振り返って、言う。
「おかえり、総悟」
「ただいま帰りやした、」
ホコリっぽい部屋の中、裸足でわたしは総悟に寄る。
「今日もお疲れ様。総悟が帰ってきたっていうことは、今は夜なの?」
「ああ。今日は綺麗な月が出てやすぜ」
言いながらしゅるりとスカーフと取る。
「そっか、最近見てないなあ、月」
何気なく呟いた一言。
そんな一言すら、彼は聞き逃さない。
「外が、見たくなりましたかィ」
「え?っ、ん!」
ぐいと髪の毛を引っ張られ、噛み付くような口付けをされる。
突然の出来事に反射的に抵抗しようとするものの、腰に回された手がそれを許さない。
ぐ、と総悟の体を押し返そうとしたところで、ガリ、という音が至近距離から聞こえた。
「っ、い、た…」
体をよじって口元を手でぬぐう。
ぬるりとした感触が手に伝う。
「は俺の側にいればいいんでさァ」
わたしの腰にまわした手に力を入れる。
「他のものなんて、なにも見る必要なんかねェ」
ぺろり、と総悟は自分の口元を舐める。
「そうですよねィ?には俺以外、何もいらねェ」
自信満々と言い切れるほどの声音。
不安でたまらない表情。
「そう、だね。総悟がいればいいよ。月も、太陽も、なにも、いらない、よ」
真選組の皆と一緒に月見をした記憶が。
日差しの暖かい日に、退とミントンしてトシに怒られた記憶が。
近藤さんと夜飲みに行った記憶が、頭を駆け巡る。
「総悟以外、いらない、よ」
記憶があるから。過去があるから。
だから、これから先は貴方さえいてくれれば、それで。
綺麗には笑えていなかっただろうけれど、笑顔でそういうと総悟は安心したように笑った。
「俺も、さえいりゃ他には何もいりやせん」
総悟はちゅ、と噛み千切られた口元に口付ける。
そのたびに傷口が傷む。
「愛してまさァ、」
触れるだけの口付けをする間にそう呟く。
口元から、頬へ目元へ、そして額へと触れるだけの口付けを繰り返す。
「愛してまさァ、」
ぎゅう、と抱きしめながら呟く。
「だから」
総悟の声を聞きながらそっとわたしは彼の背に手をまわす。
「ずっと、俺の側にいてくだせェ。俺以外見ないで、俺のこと以外考えねぇでくだせェ」
わたしはその声を聞きながら、うん、と小さく呟いた。
相変わらず外は見えない。
夜なのか、朝なのか。
でも、そんなものは関係ないのだ。
「じゃあ、行ってきやす」
「うん。気をつけてね」
「さっさとやること片付けて、帰ってきまさァ。だから待っててくだせェよ」
言いながらまた不安そうな顔をする。
「待ってるよ。総悟が帰ってくるまで、ずっと、ずっと待ってるから」
だから、どうか。
「いってきまさァ、」
安心してください。
気付いて、こんなことをしなくても、わたしは貴方を嫌ったりしない、離れたりしないって。
寧ろ不安なのは、ここから外へ出て行ってしまう貴方の方が。
「いってらっしゃい、総悟。愛してるよ」
わたしから離れてしまうのではないか、ということの方が不安なんだよ。
すれ違う信頼と愛情
(ほら、ここにいると世界で俺とだけみたいだろ?いや、いっそ、世界に2人だったらよかったんですけどねィ)
あとがき
暗くてすいまっせん!!!頭に浮かぶがまま打ち込んだらこうなりました。
狂ってはいるものの、愛情はおそらく当サイト的には高い方です。
めずらしく「…」の三点リーダを使っていない小説だったり。
2009/06/13