見回りの時間、最近ほとんど毎度向かう先は行きつけの駄菓子屋。

前までばーちゃんが店やってたんだが、最近風邪をこじらせたらしく、今はばーちゃんの孫が働いている。

 

店の近くまで歩いていくと、軒下に集まった子供の声と、あいつの、の声が聞こえた。

 

「おねーちゃん、んまい棒なっとう味一本ちょーだい!」

「はいはい、10円ねーってすごいマニアックな味買ってくね!!

美味しいの、と尋ねながらお金を受け取ってんまい棒を渡しているを見ながら、子供と入れ替わりに店へ入る。

 

 

「あ、沖田さん。また来たんですか」

は子供に向けていた笑顔から、がらりと嫌そうな顔をして俺のほうを見る。

「なんでィ。寂れた駄菓子屋が哀れだから来てやってんだろーが」

「別に仕事中に来なくてもいいじゃないですか」

 

 

そう言いながらはかけている眼鏡の位置をなおす。

「相変わらずだせェ眼鏡ですねィ」

「眼鏡なめんじゃないわよコノヤロー」

つん、とそっぽを向いて酢こんぶの箱をきれいに並べなおす。

 

 

来る度にこうやってこいつに不細工だの何だの言ってるうちに、どうやらすっかり嫌われたみたいだ。

ま、当然といえば当然かねィ。

さっさと従順になっちまえばいいものを、なんて思いながら俺はねり飴をひとつ手に取る。

 

 

「オイ」

こつん、と頭に飴の部分をぶつけてやる。

「いったいなーもう!口で呼びなさいよ口で!」

「目の悪さが耳にいってて聞こえないかと思ってやした」

「お前ほんっと腹立つわ」

 

 

飴をぶつけたせいで乱れた髪を撫でて直しながら、は「60円ね」と素っ気無く言った。

ポケットから10円玉6枚をだしての手に乗せる。

 

「毎度ありがとーございましたー」

「感謝の意が感じられねーや。客商売に果てしなく向いてないですねィは」

「ほっとけ」

 

 

さっそく飴を覆うビニールを剥がして、割り箸で飴をねりながら歩く。

このままどっかで昼寝でもしてから帰ろうか、なんて思いながら俺は見回りを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

日が沈みかけて、空の色も変わりかけた頃。

屯所への帰り道で、若い男共の声が何故か急に耳に入った。

 

「オイ、あの駄菓子屋の嬢ちゃん見たか?」

「は?駄菓子屋のって…いっつも眼鏡かけるあの子か?」

「そうそう!あの子、眼鏡外すとすっげぇ可愛いんだよ!」

 

 

「……」

駄菓子屋の眼鏡の女?

そんな奴ァ、俺が知る限り、あいつしかいない。

 

屯所へ戻るはずの足を、喋りながら走っていった男共の方へ向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「うわわわ、お、お願い、それ返してー!」

「でもおねーちゃんこっちの方が可愛いーよ」

「可愛くないって!っていうか見えないんだってば!」

 

いつもがかけてる眼鏡は、現在ここらへんに住んでるガキの手に渡っている。

普段なら、子供もいるかいないか、くらいの駄菓子屋に何故か俺くらいの年の男まで集まっていた。

 

…なんか、いらいらする。

 

「何やってんでィ、

「その声…それにその真っ黒な服は沖田さんですか!?」

「お前どこで人を判断してんだ」

 

呆れながら、俺は子供が握っていた眼鏡を掻っ攫う。

「ああー!」という声が聞こえたんで、「ガキはさっさと家へ帰りなせェ。かーちゃんが心配すんぞ」と言ってやった。

俺が眼鏡を手にしたことに感づいたもガキ共に家へ帰るように言った。

ちなみに、周りにいる男共は俺がひと睨みして散らせた。

 

 

 

「はああー、ちょっと目に睫毛が入って、それ取ってたら子供に見つかっちゃいまして…」

「ものめずらしさから、眼鏡とられたんですかィ。ドジですねェ」

「う、うるさいです!それより、早く返してくださいよ!」

 

 

俺の顔を見たまま、ずいっと手を差し出す。

「ただで返すと思ってんですかい」

「…だ、駄菓子でよければ、好きなの3つまであげます」

少しだけ視線を泳がせてそう言う。

 

 

「ほんとーに、見えてないんですかィ」

「見えてたら眼鏡なんかかけませんよ。今だって、沖田さんの顔ぼんやりしか見えてないんですから」

だから早く、と言うように手を伸ばす。

 

 

ふ、と俺は小さく笑ってその手を引っ張る。

引っ張られるとは思っていなかったであろうの体はがくりと揺れるが、「っ、わ!」と叫んだだけで踏みとどまった。

「なにするんですか!」

そう叫ぶ、赤く染まったの顔に、俺はぐっと顔を寄せる。

 

 

「見えないなら、もっと近づけばいいんですぜ」

 

 

至近距離でにやりと笑ってやると、は一瞬息をのんで、その距離の近さに足を一歩後ろへ引く。

同時にぎゅう、と目が閉じられた瞬間に、つかんでいた手を離して、に眼鏡をかけてやる。

 

その感覚に、はぽかんとして目を開ける。

距離は、もう、離れている。

 

 

「え、沖田、さん…」

「かけときなせェ」

「へ?」

自分でくい、と眼鏡の位置を直すに向かって言う。

 

 

「眼鏡あった方が、まだ見られる顔してやすぜ」

 

「…はあ!?」

赤い顔をしたままで盛大に疑問の声を上げる。

ああ、そう。いつも見てる、見慣れた顔。

 

 

「何があっても、外すんじゃねーぞ。は、そっちのほうが可愛いですからねィ」

 

ぽかんとしたままのに背を向けて、駄菓子は明日貰いにきやす、と言って店を出る。

すっかり橙色に変わってしまった空を見上げながら歩き出した。

 

 

 

 

素顔よりも見慣れた顔







(眼鏡かけてない顔が可愛くないっつったら嘘になりやすけど、違和感の方がでかかった。

…いつの間に眼鏡顔を見慣れるほどになってたんだ俺ァ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

眼鏡な女の子に捧ぐ小説となりました。ほんのーりヤキモチ焼きな沖田夢です。

ちなみにんまい棒なっとう味は本当にあるらしいですよ。とんでもなくネバネバだそうで。

2009/07/13