今日は8月12日。

空は快晴で、つい鼻歌すら歌ってしまいそうな日。

そう、だって今日は、僕の。

 

 

「おはようございまーす!」

がらり、と万事屋の玄関を開ける。

心なしか自分の声が弾んでいた気がして、少し照れくさくなる。

 

 

中からの声を待たず、そのまま居間へと入っていくと、銀さんも神楽ちゃんもさんもそろっていた。

さんはともかく、あの2人がこんな朝から起きてるなんて珍しいな、と思っていると

眩しいくらいの笑顔でさんが僕に向かって言った。

 

 

「お誕生日おめでとう、新八くん!」

 

「あ…ありがとうございますっ」

姉上以外の人に、こんな風に祝ってもらったのはいつ振りだろうか。

 

「いやー、会った時から比べたら成長したよな、その眼鏡」

「彼女いない暦がまた伸びたアルなー新八」

「あんたらからの普通のお祝いなんて端から期待してませんよ」

そもそも眼鏡が成長するかァァ!彼女とかほっとけ!

 

 

「もー、銀ちゃんがそういうこと言うから神楽ちゃんがノっちゃうでしょ!」

「悪いの俺だけかよ!」

俺のせいじゃねーよ!とさんに抗議する銀さんたちをぼーっと眺めていた。

 

 

え、ていうか、僕の誕生日イベントこれで終わり?

そう思った直後にさんが少しだけ僕の着物の袖をひっぱった。

 

 

「あのね、あたしたちから新八くんにプレゼントがあるんだよ」

「…たち?」

たち、というと、複数ですよね。

 

「うん。あたしと、銀ちゃんと、神楽ちゃんから!」

「え、うそ、冗談じゃ…」

ねえよ、と銀さんが小さく言って、神楽ちゃんとさんの3人とも何かをごそごそと背に隠しながら僕の前に立った。

 

 

「ま、の提案だから仕方なくな」

「感謝しろヨ新八ィ!」

銀さんはばりばりと頭をかきながら。

神楽ちゃんはびしっと僕に指を突きつけながら言う。

 

 

さん…銀さん神楽ちゃん…っ!ありがとう!!」

にっこりと笑っているさんに盛大にお辞儀をする。

本当に、この万事屋にまともな人が来てくれて、よかった…!!

 

 

「んじゃ俺からは、新しい雑巾とハタキな」

「私からは風呂掃除洗剤ネ」

「あたしは新しいフライパンとおナベだよー!」

 

はいはい、と次々に渡されて、僕の手元はプレゼントが一杯で…って、ちょっと待って。

 

「…嫌がらせかコノヤロー!!!」

 

 

 

 

 

「んなわけねーだろ。さすがに誕生日に嫌がらせはしねえよ」

やりそうなんですけど。寧ろ全力でかかってきそうなんですけど。

 

「新八のために一時間も悩んでプレゼント選んだアル!感謝するヨロシ!」

一時間んんん!?風呂掃除洗剤に一時間!?メーカー悩んでも15分あれば十分でしょ!?

 

「フライパン、大分塗装がはげちゃってたでしょ?おナベも結構古いし、使いにくいだろうなーって思って」

いや、理由は一番普通だけど、だけど、だけどさぁああああ!!!

 

 

皆で一緒に考えたんだよー、と言うさんに続いて銀さんと神楽ちゃんも感謝しろよ!と言う。

 

「え、マジでこれなんですか。ドッキリとかじゃないんですか」

 

「違うな」

「こんな金のかかるドッキリしないアル」

即答だった。

 

最後の砦。さんの方を見ると、少し困ったように笑っていた。

「…、さん…」

「ごめんね!でも、プレゼントこれしか思いつかなくて」

 

 

「金かけるなら、もうちょっと頭使えぇええええ!!!!」

いっそ給料として出してくれればよかったんですけどォォ!

何なの!これ僕の誕生日っていうより、万事屋に不足したもの補ったって感じじゃないですか!

 

 

テンションが高い分、いつもより盛大にツッコミを叫んでしまっている僕にさんが慌てて言った。

「あのね、これは新八くんに、これからも万事屋メンバーでいてね、ってことなんだよ」

「いや、これどう考えてもこれからも家事よろしく、って感じなんですけど」

「気のせいだよ!」

「………」

そんな綺麗な笑顔で言わないでくださいよ…!

何も、言い返せないじゃないですか…!

 

 

「こういうプレゼントしか思いつかない、っていうことは、それだけ新八くんがここに馴染んでるってことなんだよ」

さんは僕が抱えた日常用品…もといプレゼントを持つ手の上に、そっと自分の手を重ねる。

そんな仕草にどきりとしつつも、プレゼントを落とさないように必死に平常心を保つ。

 

 

「だから、日ごろのお礼と、これからもよろしくねの気持ちを込めてのお祝いなんだよ」

ふんわりと笑うさんの後ろに立つ、2人を見ると少し照れくさそうにしていた。

 

「定春の世話も手伝えヨ。…その、これからも毎日来るヨロシ」

…神楽ちゃん…。

 

「まあたまーになら、手伝ってやらんこともない、かな」

いやあんたは仕事をしろ。

 

 

「ね、馴染んでるでしょ」

そう言ってから、そっと僕の耳元で小さくささやく。

 

「2人とも、素直じゃないだけなんだよ。ほんとはちゃんとお祝いしたいんだよ」

そう、かなあと少しだけ疑いつつも、さんに免じて信じてあげようかと思った。

っていうか、近い!さん近い!!

 

 

どっくんどっくんと跳ねだした心臓に落ち着けと叫んでいると、すっと僕のそばからさんは離れた。

 

「じゃ、改めて新八くんの誕生日会はじめちゃおっか!」

「うおおー!待ってたアル!ケーキケーキ!」

「やっぱ誕生日っつったらコレだよなー」

口々に言いながらソファに座る。

 

 

「え、ちゃんと用意してあるんですか!?」

やっぱり、本当はちゃんと祝ってくれるつもりだったんですか…!

 

 

「いや、まだ用意してねーよ」

「はい?」

 

 

 

 

 

作るのはお前の仕事だろ







(結局僕かよ!!今日くらい労われ!…まあ、いいや!今日は特別ですからね!気合入れてあげますよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

祝ってるのか祝ってないのか。でもやっぱり祝ってる、そんな誕生日夢。

実はこのネタを考えたのは去年だったりします。今日までずっと保留してました。これだから、誕生日ネタは…!←

2009/08/12