爽やかな朝…というには少し遅い時間帯だけど、万事屋の朝は今から始まる。
朝ごはんを食べ終えて、私は掃除を開始した。
「風呂の残り湯はやっぱ洗濯に再利用だよね!うん!」
ぽいぽい、と服を洗濯機に放り込んでスイッチを入れる。
ゴゴゴゴゴと、洗ってます!みたいな音を聞きながら、次は風呂掃除をするべく風呂掃除用の
柄付きスポンジを持ち、風呂場へと一歩を踏み出した。
とりあえずは水で流そうかな、と蛇口に手をかけた。瞬間。
「神楽ァァァ!てめっ、それ俺のプリンだっつってんだろうがァァァ!!!」
「名前書いておかなかった銀ちゃんが悪いネ!もうこれは私のヨ!」
「屁理屈言ってんじゃねぇええ!逃がすかコノヤロー!!」
そう叫んで、逃げる神楽ちゃんの背に手を伸ばすものの、神楽ちゃんはそれをジャンプして避ける。
なんでそんな実況ができるのか。
それは。
「おまっ、お前ら風呂場に入ってくるなぁぁぁああああ!!!」
「うげっ、ッ!?」
掴みかかろうとした勢いのまま、風呂場へとなだれ込む2人。
そして銀さんの手は私の横を通り過ぎ、蛇口にめり込み、取っ手が飛んだ。
続いてガコッと何かが外れる音がした後、シャワーから大量の水が放出される。
「ぎゃあああああ冷てェェエエ!!!」
「何やってるアルか銀ちゃん!」
「っていうか何してくれとんのじゃお前らぁぁああああ!!!!!」
取れてしまった取っ手を無理やりはめ込んで、なんとか水は止めた。
幸い、シャワーの真下にいた私と、ジャンプしたまま避難した神楽ちゃんは濡れなかった。
けれども銀さんはそういうわけにはいかなかった。
「びっしょびしょなんだけど俺。なんで朝からこんな惨めにならなきゃならねーの?」
「銀ちゃんが私のプリン横取りしようとしたからバチが当たったネ」
神楽ちゃんはもぐもぐ、と死守したプリンを食べながら言う。
「違ぇっつーの。俺のだっつーの」
私たちは風呂場の洗い場に座ったまま、壊れてしまった風呂を呆然と見ていた。
「どうすんの。これ。次蛇口ひねったら、確実にさっきの二の舞だよ」
「若干壁も崩れたしな」
「銀ちゃんのせいアル」
てんめっ、こらァァア!と叫ぶ銀さんにチョップをお見舞いする。
これ以上壊されたらたまったものじゃない。
「直るまで…お登勢さんの方でお風呂借りる?」
「いや。いやいやいや、駄目だ!」
ガッ、と肩をつかまれる。
濡れるから正直つかまないでいただきたい。
「ただでさえ家賃滞納してんだぞ。そこに風呂壊れたとか言ってみろ、確実に追い出される…!!!」
「それ全面的に銀さんがちゃんと働いて家賃払えば済む話だよね」
そういうと、よろりと壁に寄りかかって「ちゃんこわい…」とかつぶやき始めた。
いや、本当のことだからね!
「じゃあ、銭湯行くアル!」
ぺろりとプリンを食べきった神楽ちゃんが人差し指を立てて得意気に言った。
…そうか。そうじゃん、銭湯があるじゃん!
「お風呂直るまでは銭湯生活かあ。あ、ちょっと楽しみかも」
ね、銀さん!とぺちぺちとほっぺを叩いてみる。
「銭湯か…ま、ババアんとこよりはマシか」
ぎゅうう、と水気を吸った着物のすそを絞りながら銀さんも同意してくれた。
「きゃほーい!しばらくはと一緒にお風呂アルな!」
「ああ、そういえばそうだね」
万事屋の風呂で2人はいるのはキツイ。
っていうか、今洗い場に3人いるのも、結構キツイ。
私も神楽ちゃん銀さんも膝を立てて座っているのだ。
「一緒に風呂…だと…!?」
銀さんはぽつりとつぶやくように言う。
狭い上に、風呂場なので小さい声も聞こえてしまう。
「そりゃ、一緒に入るでしょ。銭湯だもん」
わざわざ時間をずらす理由も無いから、一緒に入るのは必然だ。
「……」
「な、なに?」
俯いたまま、えらく低い声で言う。
「今から全力で仕事してくるから、銭湯は無しだァァァ!!!」
「!?」
なぜ、そうなった。
なんなの、銭湯のトラウマでも思い出したの!?
「神楽!てめっ、絶対先は越させねぇからな!」
「…そういうことアルか。ふん、銀ちゃんに一番は譲らないネ!」
「させるかよ…!いいか、待ってろよ、ぜってー風呂は俺がなんとかする!」
「ハッ、今まで仕事してこなかったのに急に金稼げるわけないネ!」
…話が見えない。
なんなの、狭い空間なのにこの凄まじい置いてけぼり感。
っていうか、百歩譲ってお金が集まったとしても、それからじゃ修理が間に合わないと思うんだけど!
そう思って唖然としていると、やっぱり濡れたままの銀さんが私の肩に手を置いて、普段見ない真剣な目で言う。
「…絶対神楽にゃ先を越させねえ。お前と最初に一緒に風呂に入るのは、俺だァァ!!!」
「そんな話だったのォォォ!!!???」
そんな話を、今までしてたの!?
それはある意味ついていけなくてよかったのかもしれない。
っていうか、入らないよ!銀さんと一緒にお風呂って、そんな…っ!!入るわけないだろうが!!
「待ってろよ、」
そういって私の頬をそっと撫でてから風呂場を飛び出していった。
「…なにが…したいの、銀さん…」
「むっつり天パはほっとくアル。これで修理費はなんとかなりそうヨ、」
…え、あの、神楽ちゃん。その笑みはなんなんですか。想定内ってやつですか?
「おはようございま…ってウワアアア銀さん何ですかそのびっしょびしょ!」
「うるせえ眼鏡!俺はっ、俺は今から仕事なんだコノヤロォォォーーー!!」
「大変ですさあああん!銀さんが仕事だなんてっ、今から台風が来ますよコレェェェ!!!」
銭湯まであと数時間
(「かくかくしかじか、ってことなんだよ」「なんだ、それなら僕の家へ来ればいいじゃないですか」「「あ、そっか」」)
あとがき
力一杯ギャグが書きたかったんですけど…これで…いいんですかね…?
なんにせよ、なぜうちの風呂ネタは甘甘ドッキリ☆みたいにならないんでしょうね。
2009/08/16