見まわりの最中に駄菓子屋へ寄るのも、もう日常になってきた。

前にいたばーちゃんも風邪から復活したが、も未だに手伝って働いている。

別に、がいるからってわけじゃないですけど、今日も当たり前のようにそこへと足を向けた。

 

 

いつもと同じように、は箒を手に、店先に落ちた枯葉を掃いていた。

ただ、近づいてわかったのは、あいつに笑顔がなかったこと。

それどころか、何か悩んでいるような。…って、何考えてんでィ俺は。

 

 

「今日も客は来てやせんねェ」

声が届く距離に来たところで、そうに向かって言う。

は、一瞬はっとしてからすぐいつも見る表情で「大きなお世話ですー!」と叫んだ。

 

 

「で、今日は何にするんですか」

「そうですねィ…じゃ、今日はこいつで」

ひょい、とマンボを手に取る。

 

「20円ですね。…っていうか、沖田さんの好みの味がさっぱりわからないんですけど」

「そーですかい?」

「だって、今日はこんな甘いので…昨日は梅ガム買ってたじゃないですか。あの超すっぱいやつ」

あ、唾液たまってきた、なんて言うに20円を渡す。

 

 

「俺は、駄菓子ならほぼ何でもイケるんでさァ」

店に置かれた椅子に座ってばりっと袋を開け、マンボを一本取り出して咥える。

ぐっと歯で噛んでチューブの中身を舐めると口の中に甘味が広がっていった。

 

 

 

「にしても、前よりさらに寂れてますねィ」

「うるっさいです。そこは触れちゃいけないとこでしょうが」

箒を持ったまま、も俺の隣の椅子に座る。

 

 

「…実際、ほんとに笑えない状況なんですよ」

「…?」

はあ、とため息をつくの顔を覗き込む。

 

 

「駄菓子だから、仕入れ値もそんなに高くはないんですけど、やっぱり、売れ行きがこんなんじゃ…」

店の中の駄菓子は、昨日と大して変わらない量が残っている。

…酢こんぶのみ減っているのは、おそらく万事屋に住むあいつのせいでしょうねィ。

 

 

「そろそろ、潮時ってやつなのかな…」

ぽつりと呟いた後、奥の部屋からばーちゃんがを呼ぶ声が聞こえた。

 

「はーい!今行くよー!…じゃ、沖田さん。仕事サボって帰っちゃだめですからね」

「へいへい」

適当に返事をすると、は立ち上がって奥へと入っていく。

 

 

潮時、ですかィ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は非番。

普段なら昼寝でもして過ごすのに、なんだか落ち着かない。

よっ、と反動をつけて寝転がっていた体を起こす。

 

「…行って、きやすかねィ」

 

 

 

 

 

 

そういや、私服で来るのは初めてか。

なんて思いながら俺はいつもの駄菓子屋へと入る。

 

「相変わらずシケた店ですねィ。…あ、何だ。いたんですかィ。壁と同化してて見えやせんでした」

「今日はいつにも増して酷い言い草ですね!!」

座って帳簿をつけていたはガタンと椅子を鳴らして立ち上がる。

 

 

「って、今日は隊服じゃないんですね」

「ああ。非番なんで」

「休日までこんなとこ来るなんて、暇人なんですねー!」

「そこのラムネ頭からぶっかけてやろーか」

「すいませんでした」

 

 

 

かたん、と持っていた筆を置いては俺の近くへ来る。

「それで、今日は休日なのに何しに来たんですか」

「買い物に決まってんだろーが」

すっとの前に立ち、顔を見つめてやるとは困惑した表情を浮かべた。

 

「な、なに?」

「買ってやらァ」

「…は、い?」

 

「売れ残り娘を、親切な俺が買ってやるっつってんでィ」

 

「売れ残りとは何だァァ…あ?え、買う?」

え?え??と疑問の声をこぼしながらは俺が言った言葉を理解しようとしているらしい。

しばらく顔を見ててやると、だんだんと顔が赤く染まってった。

 

 

「…あの、もうちょっと、わかりやすく、言ってほしいんですが」

「俺のモノになりなせェ」

「いやそれは直球すぎです」

 

わかりやすく、っつっただろーが。

顔こそ赤くはねーだろうけど、これでも結構緊張してんですぜ。

 

 

「で。は、いくらなんですかねィ」

「私は物じゃないですけど…まあ、もちろん高いですよ。看板娘なんですからね!」

真っ赤な顔して言うの手は、カタカタと震えている。

こんだけ緊張してる奴が目の前にいると、逆にこっちが落ち着いてくる。

 

 

「ふん。足りないなら、土方さんの財布から抜いてきまさァ」

「いやいやいや。それは駄目ですよ」

ツッコミだけはちゃんと入れてくるなこいつァ。

 

 

「で。はどうなんでィ」

「ど、どうって…いいますと…?」

くいっと眼鏡の位置を直しながらは尋ねる。

 

「もし、俺がを買い取る分の金があったとして、お前は俺に買われていいのかってことでさァ」

つまりは、一度手に入れたら一生離さないということ。

 

 

「……払えるもんなら、いいですよ!どうぞ、買い取ってくださいよ!」

腕組をして、俺の目を見据えて叫ぶように言う。

ハッ、上等でさァ。さすがは俺の見込んだ女でィ。

 

 

「その言葉、忘れんじゃねーよ」

「も、もちろんです!あ、でも、ひとつ約束が」

「ん?」

ぐい、と俺の服を引いて小さな声で囁く。

 

 

 

 

 

 

壊れ物につき

 

 

  丁重に扱ってください







(「………当然でさァ」「何ですか今の間!!!ちょ、やっぱり取引消去でお願いしまぁぁーーす!!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

オチが思いつかなくて放置してたんですが、半分くらい書いてあったので無理やり繋げて書き終えちゃいました。

金額のほうは、ご自分で考えちゃってください。

2009/09/19