「いいかお前ら。今日は何の日か、わかってんだろーな?」

万事屋の居間、そこで私たちは小さな会議を開いていた。

 

「イエッサー隊長!もちろん分かってるアル!」

「僕もわかってますよ銀さん」

「私だって分かってるよ。当たり前でしょ!」

 

「よし。さすがだお前ら。それじゃ、お互い健闘を祈る!」

 

銀さんの声と共に、私たちは弾けるように万事屋を飛び出す。

これはある意味、戦いなのだ。

 

合言葉はもちろん―――

 

 

 

 

 

 

「トリックオアトリーート!!!」

かぶき町の道の真ん中で、見回り中であろう沖田さんに向かって叫ぶ。

ちなみに今日はトリート優先なので、目の前に手を突き出して叫んだ。

 

 

「…何遊んでんでさァ

「遊びじゃないやい!これはね、万事屋の大事な食料収集なのよ!」

まあ、基本的に集まるのはお菓子だけど。

 

「ほら、早く!沖田さん早くお菓子!」

まだ午前中な所為か、沖田さんは眠そうな目をしたまま頭をかく。

 

 

「まあ、あげてもいいですけど…お前は持ってんですかィ?」

ごしごし、と目をこすっていつもと同じ強気な目で言う。

 

「トリックオア、トリート」

 

「…ふふ、甘い!甘いですね沖田さん!」

持っていたカゴを漁って、中に入っているものを沖田さんの手に握らせる。

 

 

「…。どこの世界に、ハロウィンに酢昆布渡す奴がいるんでさァ」

「いいじゃん!酢昆布だって立派な駄菓子じゃん!」

というか、今朝神楽ちゃんにあげたやつの残りなんだけどね。

ひとつ残しておいてよかった…!

 

 

「ほーら!私は渡したんだから、沖田さんも!お菓子プリーズ!」

「しょうがねえなァ……ほら、受け取りなせェ」

開いて突き出していた手のひらに乗ったのは、ミルキーひとつ。

 

 

「っていい勝負じゃんかァァァ!せめて箱で渡せ!なんでひとつ!?」

万事屋を何人家庭だと思ってんの。4人いるんだよ!これ4人で分けられないじゃん!

 

「昨日食べた残りなんでね。いやァ、ひとつ残っててよかったよかった」

くっそう。ひとつとはいえ、貰ってしまったから悪戯もできないし。

諦めて他のターゲットでも探そうかと思って歩き出そうとしたら、ぐいっと手を引っ張られた。

 

 

「トリックオアトリート」

「いやいやいや。何ちゃっかり2回も聞いてるんですか!もう無いですよ!」

「2回聞いちゃいけねーなんてルール知らないんでねィ」

 

なんてこった。

そうだよ、沖田さんはこういう人だよ…!

 

 

「え、えーと、さっきのミルキー返却しますんで」

「返却は不可ですぜ」

じり、と寄ってくる沖田さんを見据えながら後ずさる。

こ、これではお菓子回収どころか、私が回収されてしまう。

 

 

ひえ、と声が漏れた瞬間にばしん、と景気良い音が響いた。

 

「ってぇ…何するんですかィ、土方さん」

「それはこっちの台詞だコノヤロー。見回りはどうしたんだ、あぁ?」

素敵すぎるチョップを沖田さんに下した土方さん。

 

 

「…ねえ、沖田さん」

「何でィ」

「土方さんには、聞いたんですか?」

「……あ」

に会うまでハロウィンなんざ忘れてたんで。と言った沖田さんと目配せして、こくりと頷く。

 

 

「土方さん」

くい、と隊服のすそを引っ張って言う。

 

「「トリックオアトリート」」

 

 

「……クク、総悟やなら言うと思ってたさ」

不敵に笑う土方さん。

あっれ、絶対お菓子なんて持ってないと思ってたのに。まさかの臨時収入…!?

 

 

「ほらよ」

どきどきしながら何が出るのか楽しみにしていた私の前に出てきたもの、それは。

 

「これは、携帯用マヨネーズ……ってそれお菓子じゃねえええ!!!

「土方さん、いくらなんでも今日はドン引きですぜィ」

素面ながらも声があきれ返っている沖田さん。

 

 

「マヨネーズは主食であり、間食でもあるんだよ!マヨネーズなめてんじゃねーぞこら」

「土方さんこそハロウィンなめんなよ!もっと普通のお菓子は無いんですかァァ!」

なぜ、そこまで、マヨネーズなんだ!

もう土方さんには期待できない!って前も思った気がする!あれデジャヴですか!

 

 

「沖田さん!」

「わかってらァ」

ごそごそとカゴから水性マーカーを取り出す。油性じゃないところが、優しさだと思ってください。

 

 

「「悪戯決定」」

 

 

「はあ!?ちょ、おい、やめろお前ら!」

「問答無用!お菓子無いなら金出せやああ!」

お前どこのチンピラだよ!」

 

言ってる間に沖田さんが土方さんに掴みかかるようにして押し倒す。

馬乗りになって動きを封じたところで、二人そろって水性マーカーを構える。

 

 

「覚悟、してくださいね」

にっこりと笑ってキャップを抜く。

土方さんの顔が青ざめていく。どうやら沖田さんは私以上に楽しそうな顔をしているようで。

 

 

とりあえず私は土方さんの額に「マヨ」と書いた。

沖田さんは右の頬に「ヘタレオタク」と書いていた。うわ、それは痛い。

 

 

 

 

一通り悪戯が終わった後、まだ隙間だらけのカゴに目を向ける。

「ぬう…まだまだ足りないなあ」

「じゃあ次は山崎あたりを狙いやすか」

水性マーカーのキャップを締めたり外したりしながら沖田さんが呟いた。

 

 

「一緒に行くんですか?」

「一人でやるより、楽しそうなんでね」

にやりと笑う沖田さん。多分、この人は悪戯がしたいだけだろう。

今断ると、さっきの2回目のトリックが有効になりそうなので、ここは頷いておいた。

 

 

「じゃあ、狩に出かけますか!」

「目指すは真選組屯所ですねィ。いやー、仕事サボれてよかったよかった」

 

…とんでもない職務怠慢発言を聞いた気がするけど、今日は悪戯が怖いからつっこまないでおこう。

土方さんの一件で忘れられてると信じてるよ。そのまま忘れていてください。

なんだか弱み握られてる気分だなあ。

 

 

 

「ほら、さっさと行きやすぜ。菓子回収したいんだろィ?」

「あ、うん、うん!行く!」

 

まあ、いいか!

なんて思いながら私は沖田さんの手を取って走り出す。

 

さあ、今日が終わるまで。

めいっぱいお菓子回収と悪戯を楽しまなくちゃね!

 

 

 

 

 

ハロウィン狩り戦争







(「あ、ちなみにへの悪戯は思いついたら実行しまさァ」「うわああ忘れてなかったァァァ!!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

即席ハロウィンフリー夢小説。

何かとイベントがある日は土方さんが大変な目に遭っている気がしますが、気のせいだと信じてます。

2009/10/31