秋というには遅い季節。

もうすぐ冬がやってくるなあ、と思いながらお昼ごはんを食べ終えた私は真選組屯所の廊下を歩く。

 

吹きさらしの廊下に冷たい風が吹く。

「うう、寒っ」

小さく呟きながら医療室、私の仕事場へと入る。

 

 

換気のために部屋の戸を開けっ放しにしていたおかげで、部屋の中も冷たい空気で一杯だった。

寒い寒いと呟きながら戸を閉めようとしたのだけれど、戸は思うように動いてくれなかった。

 

「ぬ、ぐっ。あれ、なんで閉まらないんだこれ…!」

建付けが悪くなってきたのだろうか。

ぬううー!!閉まれぇぇぇ!!

 

 

「…何やってんでィ、

「あ。こんにちは沖田さん」

戸と格闘していた場面をうっかり見られてしまった。

 

 

「で。何やってんでさァ。いくら彼氏がいないからって、戸にアタックするのはどうかと思いやすぜ」

「いやいやいや。何失礼なこと言ってくれちゃってるんですか!」

というか、彼氏いないとかほっといていただきたい。

 

 

「なんだか建付けが悪くなってきちゃったみたいで…閉まらないんですよ」

ふう、と一息ついて戸に手をつく。

「へぇ。そりゃ災難ですねィ」

「ほんと、困ったものですよ」

 

……。

 

 

「…なんとかしてあげよう、とか思わないんですか沖田さん」

「何で俺がそんなめんどくせーことしなきゃならないんでさァ」

表情一つ変えずに、さらりと言い放つ。

 

「困ってる人を助けるのが警察じゃないんですか!」

「その警察の内部の人間だろうが、は」

「内部だろうが外部だろうが、困ってる人を助けるのが警察じゃないんですかー!」

 

 

ばしばしと戸を叩いて抗議してみるものの、やっぱり沖田さんは動こうとしない。

「そもそも、戸くらい無くても生きていけるだろィ」

「これから冬なんですよ。凍死しちゃいます」

じいい、と沖田さんの顔を見つめて訴えていると、小さくため息を吐かれた。

 

 

「しょうがねェな。ちょっとそこどきなせぇ」

言いながら沖田さんは部屋に入り、戸の前に立った。

 

「よっ」

言いながら戸に手をかける。がたっ、と戸が鳴った。

 

「あ、あの、外さないようにしてくださいね!直すだけでいいですからね!」

がたがたと怪しげな音を立てる戸。あの、大丈夫なんですかその戸。

 

「わかってらァ……よっ、い、しょおおおお!!!」

ばきいっ、と壮絶な音を立てて、戸は、廊下のほうへ倒れた。

 

…廊下の方。つまり、前に向かって、戸は倒れた。

 

 

おわああああ!!なんで押したんですか!引き戸!これ引き戸なんですけど!!!」

「いやァ。引いてだめなら押してみろっていうだろ」

「それ戸について言えることじゃないですよね!!!」

 

ばったりと倒れた戸。貼ってあった障子紙はところどころに穴が開いている。

はめ直したとしても、これでは風が通りやすすぎる。

 

 

「ちょ、ちょっとどうしてくれるんですかこれェェェ!!!」

「うるせぇなあ。廊下と部屋が合体して広くなったように見えていいじゃないですかィ」

そう言って沖田さんは戸をばしばしと蹴り飛ばして庭に落下させた。

 

「うおおお沖田さんんん!!!戸!私の戸がぁぁぁ!!」

「いやーすっきりしやしたねィ。24時間換気ができやすぜ」

ふう、と一仕事終えた後のような顔で言われても困るんですけど!

 

 

「あああどうするんですかこれ…!」

廊下に出て縁側から庭を見下ろすと、そこには無残にもひん曲がった戸が落ちていた。

 

「まあ、このまま戸無しで住むか、いっそ庭で住むか…それか修理するかですねィ」

「迷わず修理ですよ!!選択肢があるようで無いじゃないですかそれ!」

とはいったものの、修理も今すぐにとはいかないだろう。

それなりに日にちがかかる。

 

 

「うう…しばらくどこで夜すごそうかな…」

昼中はまだ太陽の光で暖かいけれど、さすがに夜は凍えてしまう。

それに、医療係の私が風邪を引くわけにもいかない。

 

 

「仕方ないですねィ。、お前布団は持ってるんだろうな」

「そりゃありますよ。私の部屋を何だと思ってるんですか」

 

「なら、布団持って俺の部屋まで来なせェ」

 

…はい?

「え。あの、意味がよくわからないんですけど」

「戸が直るまで、俺の部屋のスペースを貸してやるって言ってるんでさァ」

 

 

「沖田さん………遠慮しときます。なんかろくな事なさそうなんで」

どう頭をひねっても、夜中に悪戯される想像しか沸かない。

寝てる間に呪いの言葉でも唱えられようものなら、私の明日は真っ暗だ。

 

 

「人が親切で言ってやってるんでい。床に這いつくばってお礼言うくらいしなせェ」

「誰のせいでこうなったと思ってるんですか!」

ぐるりと首を回して沖田さんの方を見る。

そこには、ひどく楽しそうに笑う、沖田さんがいた。

 

 

「困ってる奴を助けるのが、警察でしたよねィ。…困ってんだろ、?」

 

はい、と言えばこのまま沖田さんに連れていかれ、夜中の平和は無くなるだろう。

いいえ、と言えば本当にこのまま放置されて吹きさらしの部屋生活になるだろう。

 

…え、何この究極の選択。

 

 

「助けてやるっつってんでさァ。素直に頷きなせぇ」

ぽん、と肩に手を置かれて促される。

「……え、遠慮します!やっぱり遠慮したいですー!」

 

ばしんと沖田さんの手を振り払った瞬間、ぼとりと足元に何かが落ちた。

 

 

「あ」

「?何ですかコレ……ボンド?」

ひょい、と拾い上げたそれは市販で売られている木工用ボンド。

 

 

「……沖田さん。まさか」

「いやーあんなによく引っ付くとは思ってやせんでした。今度は土方さんの部屋に仕掛けましょうかねィ」

「ちょっと待てこらああああ!!!!」

 

 

 

 

 

全ての原因はお前か







(「だから、お詫びに部屋提供してやるっつってんでィ」「それより戸を直せぇぇぇ!!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ヒロインと冬を過ごしたいがために物凄く面倒な方法で嫌がらせをしつつ部屋に招く沖田さん夢。

沖田さんの悪戯はどこからどこまでが想定済みなのかが分からない。

2009/12/05