ゴーン、と鳴る除夜の鐘の音を聞きながら、神社の階段を上っていく。

!あとちょっとで年明けアル!」

「じゃあ階段上り終わったら年明け、って感じかもね」

「いいスタートを切れるといいですね」

あたしは神楽ちゃんと新八くんの3人で、初詣に来ていた。

お妙さんも誘ったんだけど、どうやら今年はスナックのみんなと行くらしく別行動なのだ。

 

 

軽快に階段を上っていく神楽ちゃんが、少し後を歩くあたしたちを振り返る。

、新八ィ!カウントダウンするアル!あと10秒しか今年は残ってないネ!」

「マジでか!」

たたっ、と少し小走りに階段を上る。

 

3人並んでカウントダウンを始める。

「「「5、4、3、2、1」」」

 

そして、頂上。

 

「「「あけまして、おめでとうーー!!!」」」

 

あたしたちの声と共に、除夜の鐘の音も響き渡った。

 

 

 

ー!今年もよろしくアル!あと新八もな」

「なんで僕おまけみたいになってんだよ!…2人とも、今年もよろしくね」

新年一発目の新八くんのツッコミに笑いながら、私も口を開く。

「こちらこそ、今年もよろしく…」

そこまで言ったところで、近くの草むらがガサガサと音を立てた。

 

 

「お年玉よこせこの税金ドロボーがァァ!」

「うるっせーよ!警備中だっつってんだろうがァァァ!!!」

転がるようにあたしたちの前に飛び出してきたのは、取っ組み合いをする銀さんと土方さん。

 

「な、何やってるんですか銀さん!万事屋にいないと思ったらこんなところで…!」

年明けから新八くんは忙しそうだ。ツッコミが。

 

 

「そうだ、このクソ天パ…!てめーは家でモチでも食ってろ!そして喉につまれ!」

「お前がつまれマヨ方!こっちは賽銭すら出したくねぇくらい金欠なんだよだからお年玉よこせ!」

「テメーが仕事しないからだろうがァァ!」

そう叫んだ土方さんに、新八くんと神楽ちゃんは静かにうなづいた。

 

 

「まったく、年明けからうるせー人たちでさァ」

どこからともなく現れた沖田さんは、あたしの隣でふああとあくびをした。

「あ、あけましておめでとう沖田さん。…って、沖田さんは隊服じゃないんだね」

きっちり隊服を着込んでいる土方さんと対照的に、沖田さんは普通の着物だった。

 

「新年早々仕事なんてやってられやせんからねィ。っつったら、ザキが快く代わりを引き受けてくれたんでさあ」

ほら、と指を差した先には、神社内の交通整理をする山崎さんがいた。

…絶対、押し付けたなこの人。

 

 

「それより、。何か渡すモンあるだろィ」

すっと手をあたしの方へ伸ばす沖田さん。

「…え?何、なんかあったっけ?」

キョトンとするあたしに、沖田さんは「どうしようもねぇなコイツ」という失礼極まりない視線を送って言った。

 

「お年玉に決まってんだろうが」

 

 

「お前もあの二人と同じじゃねーかァァァ!!!」

真面目な顔して何を言うかと思ったら!結局それか!

 

「何バカなこと言ってるアルか!私らが金なんか持ってると思ったら大間違いネ!」

「間違ってないところが痛い…」

言いながら視線を落とす新八くん。ほんと、新年から大変そうだ。

 

 

「そういうわけで、あたしらはお金無いの。むしろ沖田さんがちょうだいよ」

「そうアル!金持ってんの知ってんだぞこの高給取りが!」

ずいずいと手を出すと、沖田さんはにやりと笑ってあたしの手をとった。

 

「金が無いんなら、他のモンをくれてもいいんですぜィ

「…いや、あたし、あげられるもの無いんで」

 

なんだか背筋がぞわりとくる笑い方で沖田さんは距離をつめてくる。

手を握られているせいで離れることができず、ひたすら体をのけぞっていると、ぽす、と頭が何かにぶつかった。

 

 

「オイオイ沖田くーん。うちの大事なちゃんに何してくれてんですかコノヤロー」

ぐるりと体に腕が回ると同時に沖田さんの手が離れる。

「まだ何もしてやせんぜ」

まだって!まだってお前何しようとしてたんだ!

 

「…お前ら、これで適当に遊んで来い」

銀さんは、ひょいと新八くんと神楽ちゃんに向かって500円玉を投げる。

「むおお!どうしたアルかこれ!」

「多串くんのポケットマネー」

「何やってんですかあんたァァァ!!!」

 

得意気に言う銀さんを新八くんが叱って。

まあでも、お年玉ってことで貰っておきます!と言いながら二人は境内へ走っていった。

 

 

 

「で。お前は新年早々ンなこと考えてんじゃねーよ。そこの鐘ついてる坊さんに頭もついて煩悩消して貰えば?」

「旦那こそ頭かち割ってもらえばいいんじゃねーですかィ」

「ちょ、物騒な話しないでくれる!?」

頭の上をぽんぽんと飛び交う痛々しい言葉に思わずあたしもツッコミを入れてしまう。

 

 

「つーか総悟。てめえ仕事はどうした」

若干息を切らせた土方さんが、ゆらりと沖田さんの背後に立つ。

「うわ。何してんですかィ土方さん。新年から背後霊が出たかと思ったじゃねーですか」

「うるせえよ!とにかく、さっさと仕事しやがれ!」

 

がしっと沖田さんの首根っこをつかんで引きずるようにその場を去る土方さん。

「あっ、土方さん!今年もよろしくねー!!」

 

叫ぶように言うと、土方さんはくるりと振り返って笑った。

「ああ。今年もよろしくな、。つーか新年からこいつが迷惑かけて悪かったな」

「今度はちゃんと、見張っておいてよ!」

そういって笑うと、土方さんも笑って了解、と言って去っていった。

 

 

 

「さてと。あたしたちもちゃんとお参りしなきゃね」

未だに体に回ったままの銀さんの腕をぺちぺちとたたく。

「あいつらにやった分しか賽銭ねーけどな」

…土方さん、札は死守したんだね。

 

 

 

「ぶえっくしゅっ!」

境内まで道のりを歩いていると、隣で盛大なくしゃみが聞こえた。

「大丈夫?っていうかマフラーしてこなかったの?」

よく見ると銀さんの格好はいつもと大して変わらない。上着を羽織ってるくらいだ。

 

 

「あー、忘れた。とりあえず金確保のことしか頭になかったんだよ」

「本当にお坊さんに頭ついてもらえば?」

金のことしか頭になかったって、それ煩悩の塊じゃないか。

 

 

「まったくもー…しょうがないなあ」

言いながら自分のマフラーを解こうとすると、その手を銀さんに制止された。

「バカ。んなことしたらが風邪ひくだろーが」

 

「でも、銀さん鼻の頭真っ赤になってるよ」

「……」

銀さんはごしごし、と着物の袖で鼻の頭をこする。

 

 

「とにかく、首はいいからこっち頼むわ」

そういって銀さんはあたしの手に指を絡める。

「手袋も忘れたんだよ」

 

寒さなのか何なのか、顔が赤く染まっている銀さんを見上げて、少しだけ笑った。

「しょうがないなあ。…あ、そうだ。銀さん、今年もよろしくね」

「…おう」

ぎゅう、と繋いだ手に力をこめて、あたしたちは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

お年玉はぬくもりで







(「まあでも結局お賽銭はないんだよね」「こういのは気持ちだ!神様ァァ!俺らに金をォォ!」「何このお願い」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

あけましておめでとうございます!!

去年はお世話になりました。今年も風村雪と朧月書店をよろしくお願いいたします!

何気に毎年新年夢はシリーズのように同じ設定で書いてたりします。

途中まで沖田さんオチにするつもりだったんですけど、何か銀さんがでしゃばりました。

2010/01/01