ただいま深夜1時。

真選組屯所も既に電気が落ちて真っ暗になっている。

そんな中、私はこっそりと食堂へと向かっていた。

 

 

そろりと足音を立てないように食堂に入る。

扉を閉めてから、ぱちり、と最低限の電気をつける。

それと同時にぎゅう、とお腹が鳴る。

 

「……お腹減ったァァァ!」

 

 

小声で叫んでから、棚を漁る。

「おっ、いいものみっけー」

乾麺のうどんの袋を開封して鍋を準備し、麺を茹でる。

 

数分後。

夜食ということもあり、具の少ない見た目シンプルなうどんが完成する。

 

 

「ふふ、いっただきまー」

バキッと割り箸を割ると同時に、なぜか、食堂の扉が開いた。

 

 

「……何やってんだ、

「…ふ、副長こそ…なんで夜に食堂なんか来てるんですか」

割り箸を割ったところで手が固まる。

なんで、このタイミングで来るのかなぁ土方副長ォォォ!!!

 

 

「見回りしてたら、食堂の電気がついてたからな。誰がいるのかと思ったらお前か…」

「何ですか!いいじゃないですか別に!わ、私は今から夜食タイムにするんです!」

副長からガードするように丼に手を添える。

 

 

「夜にモノ食べると太るぞ」

「知ってますよ!でもお腹減ったんです!ていうか今からまた書類仕事するからいいんです!」

体力回復ですよコノヤロー。もう仕事するためのヒットポイントが足りないんです!

 

 

もう副長がいたって構わない。私のお腹のほうが限界なんだから。

心の中でいただきます、と呟いて箸をつけようとした瞬間にぎゅううとお腹が鳴る音が響く。

しかし、それは私のものではなく。

 

 

「…副長もお腹減ってたんですか」

「悪ィかよ」

若干顔を赤く染めて吐き捨てるように言う副長。

 

「悪くないです、悪くないです。ていうか副長も何か食べればいいじゃないですか」

「ああ。…っつーわけで、、お前なんか作れ」

 

 

今、ものすごい命令が聞こえた気がするんだけど。

 

 

「えーと、はい?何て言いました?」

「何か作ってくれっつったんだよ」

 

なぜ、私が。

 

「自分で作ってくださいよ!ああもう!私のうどんがのびちゃうじゃないですか!」

「なら、そいつを俺が食べるからもうひとつ自分の分作ってこい、よ!」

言いながら副長は私の丼に手を伸ばす。

 

 

「何してるんですか!ちょっ、離してくださいよ!私のうどん!」

「だから、こいつァ俺が食ってやるって」

「意味が分からない!副長は自分の分を今から作ればいいじゃないですか!」

 

副長に引っ張られる丼を負けじと私も引っ張り返す。

ぐぐ、と机の上で丼が行ったり来たりを繰り返す。

 

 

「こういうときくらい、上司に譲れ!敬え!」

「こういうっていうか、いつも敬ってますけど!」

まあ心の中では文句言ってますけどね!

 

「ほーぅ、なら褒美でもくれてやらァ」

そう言ってにやりと笑った副長は、本気を出したのかぐいっと丼を引っ張って掻っ攫っていく。

 

 

「ギャアア私のうどんんん!」

カムバック夜食!そう叫びかけた時、間近にふわりと煙草の香りが漂った。

何で、と思うより先に目の前に副長がいて。

ほんの一瞬だけ、唇にぬくもりを感じた。

 

 

 

 

「……え…え、ええええ。何、なんなんですか急に」

頭がうまく働かないのは空腹のせいだけじゃない。

 

「あァ?褒美っつっただろうが」

「いや、そ、そんな軽いノリでしていいことじゃないでしょうが!」

ばんっと机に手を突いて身を乗り出す。

既に私のうどんに箸をつけて食べ始めている副長に叫ぶ。

 

 

「…軽くねェよ。軽くはねぇが、こういうノリじゃねーとできそうになかったんだよ」

丼を手に持ち、つんとそっぽを向いてうどんをすする。

その横顔は薄暗い食堂でも分かるくらいに赤かった。

 

 

「…で。お前腹減ったのはどうしたんだよ」

「なんか…さっきのでお腹いっぱいになりました」

というか、もうお腹減ったの通り越したよ副長のせいで。

 

 

呆然としていると、副長は食べ終わった丼を机に置いた。

「そんじゃ、もう一仕事片付けてくるか…」

そう言って伸びをひとつして立ち上がる。

 

 

「ちょ、ま、待った副長!」

「あ?」

がたんといすを鳴らして私も立ち上がる。

 

「やっぱり、その、あんなことした理由をちゃんと聞きたい、です」

そうじゃないと私の自惚れで終わってしまうかもしれない。

 

 

副長はぱくぱくと口を動かして言葉をためらう。

「……それは…また、そういうタイミングがあったらな」

 

 

「…副長のヘタレめ」

「何か言ったか

「いいえ何でもありませーん!」

…すごく小さい声で呟いただけなのに。副長の地獄耳…!

 

 

「あ、じゃあ、副長」

「何だ。まだ何か…」

呟く副長の目を見据えて、机に置かれている丼を指差す。

 

 

「あれ、片付けておいてあげますから、もういっかいご褒美ください」

「………」

副長はばちりと目を見開いて固まる。

 

「…言ってる私だって恥ずかしいんですから、何か反応してくださいよ」

顔に熱が集中するのが分かる。

前を向いているのに耐えられなくなって足元に視線を落とすと、コツという靴音が耳に届いた。

 

 

名前を呼ばれて、顔を上げる。

そこには少し頬を染めた副長がいて。

 

 

 

「…明日は蕎麦にしてくれ」

「はい…ってなんですかその台詞!!ちょ、さっきまでの私の緊張感返してください!」

「うるせーな。一気にそう全部上手く事が運ぶと思ってんじゃねーぞ!」

 

 

私の頬をひっぱってくる副長の手をベチベチと叩きながら、私はうるさく鳴る心臓に落ち着けと言い聞かせた。

そんな私の気持ちも知らず、副長はそっと耳元に顔を寄せる。

 

「明日まで待ってろ。今日のうちに、その、アレだ。心の準備ってやつをしてくる」

普通その心の準備が必要なのって、待ってる側の私じゃないんですか。

なんてことを思うと同時に、再び煙草と…うどんのつゆの香りが鼻を掠めた。

 

 

 

 

 

 

夜食とノリとタイミング







(「なんでこういうことはできて一言が言えないんですか!」「うるせーなこれはこれで一杯一杯なんだよ」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

副長が随分とヘタレになりました。あっれえ。

中途半端ギャグで申し訳ないです…!難しいよ土方さん…!

2009/01/10