外は青空が広がっている。
そんなきれいな空を真選組屯所内の私は部屋で布団の上に座ったまま見つめる。
視線を下ろすと、両足と利き手に痛々しく巻かれた包帯が見える。
「……」
横に座る沖田隊長が私の名前を呟く。
「おめーは、ほんとドジですねィ…こんなことに、なっちまって」
「…沖田隊長、私…」
「それ以上言うな。…ちゃんと、俺が最期までそばにいてやりまさァ」
包帯の巻かれていないほうの手をそっと握って、隊長は私の目を見つめる。
「何を勝手に私が死ぬ設定にしてるんですか沖田隊長ォォォ!!!」
バシッと手を振り払って叫ぶ。
普段の隊長じゃありえないほどのシリアスな雰囲気を打ち壊してやった。
「死にそうじゃないですかィ、そんな怪我して」
「片足は軽い骨折ですけど、そのほかは捻挫です!死にません!」
時は一昨日の夜。
攘夷浪士の集会があるという情報を元に、私たちは襲撃を行った。
その際に逃げる浪士を捕まえようとして…。
「まあ確かに、斬られたっつーわけでもなく、屋根から落ちたなんてマヌケな理由じゃ死ぬにも死ねねーか」
「マヌケ言わないでください!」
自分でもそれは分かってるんだ!
でも、あれは下の建物が突然爆発してバランスを崩したせいであって…私のせいじゃ、ない。
「死ぬ前にの財産は俺に継ぐように遺言残してくだせェよ」
「何でこれっぽっちも血の繋がりが無い沖田隊長に財産残さなきゃいけないんですか。ていうか死にません」
縁起でもないことをサラリと言ってのける沖田隊長。
「あーもう、早く治らないかなぁ…。そしたらとりあえず沖田隊長を蹴り飛ばすのに」
「恐ろしい女でさァ」
「ひとのこと勝手に死ぬ設定にした人に言われたくないです」
はあ、とため息をつくと廊下から足音が聞こえた。
「失礼しまーす」
その声と同時に入ってきたのは、退くんだった。
「お昼ご飯持ってきました!ってあれ、沖田隊長ここにいたんですか」
「何でィ山崎。俺がここにいちゃまずいですかい」
沖田さんが言うと、退くんは「いっ、いえそうじゃなくて!」と弁解しながら私のそばへお膳を持ってきてくれた。
「さっき副長が探してましたよ。報告書、早く提出しろって」
「あ。まだ書いてもいねーや」
仕事しろよ、とつっこみたかったけど今はお昼ご飯が先だ。
「ありがとね、退くん」
「気にしないでください!それより、早く治るといいですね」
そう言って退くんは少し笑って、部屋を出て行った。
ほとんど寝たきりだというのに、お腹だけはなぜか減る。
利き手が使えない今は、スプーンを借りているけど、やっぱり食べづらいことに変わりは無い。
「食べづらそうですねィ、」
「まあ、手の方は捻挫ですし、数日したら使えると思いますんで。それまで頑張りますよ」
一応持ってきてもらっている箸にそっと視線を落とす。
やっぱり、お箸の方がしっくりくるんだよなあ。
「ていうか隊長。こんなとこに張り付いてないで報告書書いてきたらどうなんですか」
「めんどくせぇ」
これではとんだ給料泥棒じゃないか。仕事してください。
「…なァ」
「ん…?何ですか」
もぐもぐとご飯を口へ運びながら視線を沖田隊長に向ける。
「食べづらいんなら、俺が食べさせてやりやしょーか」
「……は!?」
え。それはつまり、沖田隊長に「はい、あーん」をやられるということですか。
…想像しただけで恥ずかしい。
「え、遠慮します。恥ずかしくて耐えられません」
「そう言われると意地でもやってやりたくなりますねい」
にやりと笑う沖田隊長から、じわじわとサドオーラが出ている。
「ちょ、勘弁してください。大丈夫ですから、スプーンありますから」
「それでも食べづらいんだろィ?物は試しに、やってみやせんかい」
にやにやにや。
これは絶対、沖田隊長は私が恥ずかしがるのを楽しんでるだけだ。
「いいです!謹んでご遠慮します!た、隊長自分のお昼でも食べてきたらどうですか」
時計はちょうどお昼の12時を過ぎたところ。
他の隊士の人たちもお昼ご飯の時間だろう。
「まあ俺のことはおいといて。ほら、口開けなせぇ」
お膳に乗っていた箸を無理やり奪って、サラダの中のレタスをつまむ。
…確かに、野菜はスプーンだとすくいにくいんだよね…。
しかし、それとこれとは別だ。
「…いいです。ゆっくり食べますから」
「は往生際が悪ィんでさぁ。さっさと口、開けなせェ!」
言うと同時にガッと私のあごを掴んで無理やり口を開かせる沖田隊長。
ちょ、け、怪我人に対してなんてことを!
「なんでそんなに拘るんですか!もう!痛いですはなしてくださ、もがっ」
抵抗の声を上げている最中に、口にサラダが突っ込まれた。
致し方なくもぐもぐと咀嚼をする。
「…美味しい」
「ほれみろィ」
ぽつりと呟いた声に、何故か誇らしげな声をだす沖田隊長。
なにが「ほれみろ」なのかサッパリ分かりません隊長。
「次は何がいいですかィ」
なんでこうもノリノリなのか、さっぱり分からない。
けれど、悔しいことにやっぱり自分でもたもたしながら食べるよりも食べやすい。
「……お、オムレツが、いいです」
視線をお皿に向けたままで小さく呟く。
沖田隊長も小さく返事をして、箸でオムレツを切り分ける。
「ほい、口開けなせェ」
「う…あ、あー…」
視線を泳がせたまま口を開けると、そこに温かいオムレツが入ってくる。うん、美味しい。
「手が治るまでは、俺が面倒見てやりまさァ。だから心配しなくていいですぜ、」
珍しく優しい声音でそう言った隊長に、私は小さく頷いてありがとうございます、と言った。
完治までの世話係
(「でも、あの時下の建物が爆発しなかったらこんなことになってなかったんですよ」「……………。…、次何がいいですかィ」
「ちょっと待て今なんで黙った?もしかしてアレ、沖田隊長のせいですか。もしかしてバズーカですか」
「おかずの次はやっぱりご飯ですかねィ」
「怪我治ったら絶対蹴り飛ばしますんで覚悟しておいてください隊長」)
あとがき
沖田さんなりの償いのつもり。他の隊士も犠牲になってますが、償うのはヒロインさんのみです。
あと「退くん」って呼んでるのは苦労人同士で仲良くなったお友達だから、というちょっとした設定があったり。
2010/06/04