大晦日の夜のかぶき町は、いつも以上ににぎやかだった。

きっと初詣に行くのであろう人を見送りながら、あたしはとある甘味屋で働いていた。

 

突然、「年越し団子を売ろう!」と言いだした店長に手伝わされて今に至る。

まあ…ここにいた方が平和な年越しを迎えられる気がするからいいのだけど。

 

 

といってもやっぱり年末。あまりお客さんは来ないなあなんて思っていた時だった。

「おねーさん、その団子…そうだな…とりあえず50人前分くらい貰える?」

は?と思わず聞き返しそうになった。

ぽかんとしていると、「あ、ここで食べてくから」とニコニコとあたし以上の営業スマイルで言われた。

 

 

 

 

当然一度じゃ運ぶことができず、何度かに分けてお団子を店の前の長椅子に並べる。

そこに座って相変わらずの笑顔を浮かべている人は次々にお団子を平らげて行く。

…ああ、あたしの友達の万事屋にいるあの子を思い出すなあ…。

 

「ねえお姉さん。俺さ、ちょっと人待ちしてるんだ。暇だから喋り相手になってよ」

「は、はあ」

そう言って自分の隣をぽんぽんと叩く。

一応お客さんに対してそれはどうよ、と思ったけれど…今日は大晦日だし。

店長も奥でテレビ付けて紅白見ながら団子作ってたし、いいか。

 

 

「じゃあお邪魔します」

すとんと座ると、そのお兄さんは少しだけ目を開けて笑った。

月明かりに照らされたピンク色の髪と透き通る青い目は、やっぱり万事屋のあの子を彷彿とさせる。

 

「ああ、俺神威って言うんだ。お姉さんは?」

「あたしはです」

ぺこりと頭を下げると「敬語なんていらないよ」と言われた。

 

 

は行かなくていいの?」

お団子を片手に、くいと顎で神社へ向かう人たちを指す。

「あー…もうちょっと人が減ってから行こうかと思ってるんだ。今行っても潰されそうだし」

「ふうん。珍しいね、地球人は群れたがる奴らばっかりかと思ってたんだけど」

地球人、ということはこの人はやっぱり天人なんだろう。

 

 

「普段なら邪魔な奴は排除すればいいけど、さすがに新年はゆっくりしたいからね」

「神威さんって夜兎族でしょ。高確率でそうでしょ」

「うん、そうだけど。よく分かったね」

もぐもぐとお団子を頬張りながら神威さんはあたしに湯呑を差し出す。ああ、注げってことか。

 

 

「あーでもやっぱりシメは甘味類がいいなあ」

「シメ?」

「うん、さっき蕎麦屋で年越しそば20人前くらい食べてきたから」

鋼鉄の胃袋でも持っているんだろうか。夜兎族ってほんと恐ろしい。

 

 

「っと、そんなこと言ってる間にもうすぐ年明けみたいだね」

何処からともなく聞こえてきたカウントダウンの声に耳をすませる。

 

 

「ご、よん、さん」

隣から聞こえる声に合わせる。

 

「「に、いち、あけましておめでとう!」」

そう叫んだ声は、神威さんよりもあたしの方が大きかった。

 

 

 

顔を見合わせてお互いにこりと笑う。

はいいの?こんな初対面の男と年越しちゃって」

「それを言うなら神威さんもでしょ。人待ちって、彼女さんとかじゃないの?」

ほんのちょっと茶化すように言ってみる。

 

「ううん、俺の部下。ちなみに男。っていうか、むしろ財布?」

財布ってどういうことだ、と首を傾げると遠くから店に向かって走ってくる人が見えた。

 

 

「神威ィィィ!おまっ、なんで俺が屋台に金払って歩かなきゃならねーんだ!」

「あははは、御苦労さま阿伏兎」

がっと神威さんの首元を掴み上げるのは、これまた強そうなおじさま。

 

 

「ったく…知らねー間に年明けてるしよォ」

「あれ?阿伏兎ってそういうの気にするタイプだった?」

「別に気にはしねーけど、団長の食い逃げ処理しながら年越すって悲惨だろうが」

それは確かに、と心の中で頷いてると阿伏兎と呼ばれたその人はあたしの方へ視線を向ける。

 

 

「悪ィな嬢ちゃん。…こんだけ盛大に食われると、代金も心配になるだろ」

「え、ああ…でもなんだか喋ってたらすっかり忘れてました、代金のこと」

いつの間にか空になったお皿の山を見て、改めて驚く。

たしかにこれだけ食べたら結構なお値段になる。

ため息混じりに「いくらになった?」と尋ねる阿伏兎さんは、いつも苦労しているんだろうなあと思った。

 

 

 

 

 

「よし、団子も食べたし…そろそろ行くかな」

すっと立ち上がった神威さんに合わせてあたしも立ち上がる。

良い一年になるといいですねーなんて言って見送っていると、神威さんがぴたりと足を止めた。

 

 

「あ、そうだ。阿伏兎、ちょっと待ってて」

阿伏兎さんを制して、神威さんはあたしの方へ戻ってきた。

 

「団子美味しかったよ。また地球に来たら立ち寄るから、俺のこと忘れないようにね」

そう言って神威さんはすっとあたしに顔を近づけ、耳元に近い頬に唇を落とし小さなリップ音を立てて、顔を離した。

 

 

呆然としていると、神威さんは声を出して笑ってあたしの頭をぽんと撫でた。

「じゃあまたね、。これで俺のこと忘れてたら殺すからね」

「新年からなんつーこと言ってんだてめーは」

ため息をひとつついて神威さんの首根っこを掴んで引きずっていく阿伏兎さんに力なく手を振った。

 

 

「わ、忘れられるわけないじゃん…!!」

きっと真っ赤であろう顔を抑えて、あたしはさっきまで神威さんが座っていた長椅子に腰を下ろした。

今年も、波乱万丈になりそうな気がしてなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

新年の衝撃







(「おーう!家にいないからどこ行ったかと思ったら…ん?」

、なんか顔赤いヨ」

「どうかしたんですか?」

「べっ、べべべ別に何もー!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

あけましておめでとうございます!!

なんやかんやで毎年書けてる新年夢シリーズ!今年は去年人気爆発だった神威にしてみました。

新年から物騒なこと喋ってて申し訳ないです。

それでは皆様、今年も朧月書店を、風村雪をよろしくお願いいたします!!

2011/01/01