朝起きて、万事屋の壁にかかる日めくりカレンダーをめくる。

「…あ」

 

そこに記された、母の日の文字。

 

 

 

「というわけで、仕事も無いし、今日は皆で母の日を盛大に盛り上げようと思います!」

「ちょっと待て」

即行で話の腰を折った銀ちゃんをギッと睨む。

 

「お前さ、よく考えてみ?この中で母親いるやついねーじゃん」

まあ私の母親は田舎に住んでるけど、帰る頃には母の日は終了しているだろう。

 

 

「フフフ、そこんとこもちゃーんとこのちゃんは考えているのだよ!」

ソファの上に立ちあがって銀ちゃんたちを見下ろす。

 

「今の私たちの母っていえば、お登勢さんしかいないでしょ!」

 

 

ビシッと人差し指を真上にあげて言いきると、神楽ちゃんから「おぉー」と感嘆の声が上がった。

「ありゃ母っつーよりババアだろうが。敬老と二回やらなきゃならねーだろ」

「ちょっと!失礼!!大体、べつに母かどうかっていうより、日頃の感謝の気持ちが大切なの!」

へーへーと適当な返事をする銀ちゃんを再び睨む。

 

 

「僕はいいと思いますけど」

控え目ながら新八くんは笑顔で賛成してくれた。

「確かに、今の僕らにとってはお登勢さんが母親みたいですし。特に銀さんなんて余計に」

「どういう意味だコラ」

 

「でも、何かやっておけば家賃少しはオマケしてくれるかもしれないネ」

「よっしゃーやるかぁぁ!」

こいつ…単純だな…と、私たち三人は白い目で銀ちゃんを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいっても、既に太陽は沈み始めている時間だ。

急がなければ折角の機会が終わってしまう。

そのため私と銀ちゃんで花束の調達、新八くんと神楽ちゃんで料理の準備をすることにした。

こっそりキャサリンとたまにも耳打ちして、お登勢さんを店に引きとめておくことを頼んだ。

 

「つーか花って高くね?造花でいいんじゃね?」

「確かに気持ちが大事とはいったけど、折角やるなら盛大にやらなきゃ!」

花屋に向かって足を進めながらそう意気込む。

 

 

花屋に到着すると、いらっしゃいませーという店員の声が聞こえた。

「やっぱり定番カーネーションだよね。最近じゃいろんな色があるみたいだけど…どうしようか」

「まあ一番シンプルな赤色が無難だろ」

そう言いながらカーネーションが置いてある場所を見ると、紫色のカーネーションがあった。

 

 

「へえ、最近じゃこんな色もあんのか」

「ねえ銀ちゃん、紫のカーネーションの花言葉は『永遠の幸福』だって!これ結構良いんじゃない?」

期間限定でラッピングは無料のようだから、少しくらい奮発しても大丈夫だろうと思った。

 

「…ちゃん、値段、見てみ」

「……まあ、確かに、稀少なものっぽいオーラ出てるもんね、高くて当然だよね」

銀ちゃんの財布は基本的に当てにならない。

そう思うと、これじゃ花束にはなりそうもない。

 

 

「…よし、こうなったら最終手段しかない!」

「最終手段?」

 

 

最終手段。

お店の人に、予算を言ってなんとか花束を作ってもらう。

 

 

 

数分待って出来上がった花束には、ムーンダストという紫のカーネーション。

そして飾り花のカスミソウやデンファレアイビーを添えた小ぶりながらも華やかなものとなった。

 

「おお…やっぱ花屋っつーのはずげーな」

「うん、ほんとに」

綺麗にラッピングされた花束を受け取り、代金を支払って私は外へ出る。

 

 

 

 

「よし、あとはお登勢さん見つからないように万事屋へ帰って…ドッキリ作戦でいこうね、銀ちゃん!」

くるりと隣を見ると、そこには誰もいなかった。

「あれ?銀ちゃん?」

きょろきょろとあたりを見回すと、まだ花屋にいたのであろう銀ちゃんが歩いてきた。

 

 

「どうしたの?」

「コレ。メッセージカードのサービスがあるっつったから書いてたんだよ」

そう言って私の持つ花束にそっと小さなカードを添える。

 

「なんだかんだ言って、しっかりやってんじゃん。母の日」

「まーここまできたら、な」

照れくさそうにばりばりと頭を掻きながら銀ちゃんはすたすたと歩き出す。

 

 

ぱたぱたと小走りで銀ちゃんの横に並ぶと、歩調を合わせてくれた。

大切に花束を抱えながら私は少しだけ微笑んで言う。

「お登勢さん、喜んでくれるかな」

「俺らがこんな洒落たことするとは思ってねーだろうから、とりあえず驚きはするだろうな」

「あはは、そりゃそーだ」

 

 

普段なら絶対に恥ずかしがってできないけれど、今日なら日付のせいにしてしまえる。

私も、帰ったら母に手紙を書こうと思いながら万事屋への道を歩いた。

 

 

 

 

万事屋へ戻ると、テーブルには豪華な料理が並んでいた。

「おおー、さっすが新八くん!」

「おかえりなさいさん、銀さん」

前掛けで濡れた手を拭きながら出てきた新八くん。

 

神楽ちゃんはどーんと私に抱きつくように飛び込んできた。

ー!私頑張ったネ、つまみ食いしないように心を鬼にして頑張ったネ!」

「いや前半思いっきり味見といいつつ食べてたよね」

新八くんのツッコミは、どこか疲れたような…呆れたような声音だった。

 

 

 

 

 

「よし、あとは主役を呼んでくるだけだね」

新八くんと私はここで待機、神楽ちゃんは花束を渡す役がいいと言った。

 

「じゃあ消去法で銀ちゃんだね」

「待て、ここは言いだしっぺのお前だろ!」

ぐっと私の背を玄関に向けて押す。

 

 

「ここまできておいて何照れてんの!ほら早く行ってきてよ」

「そうですよ、銀さん。早くしないとせっかくの料理が冷めるじゃないですか」

「男ならさっさと腹くくるアル」

三対一で責められ、銀ちゃんは深い深呼吸をしながら万事屋の階段を降りて行った。

 

 

 

「…まったく、どうしようもないアルな」

「素直じゃないですからね」

「まあ私たち皆、普段素直に言えないからこうやって苦労してるんだけどね」

そうやって私たちは笑いながら万事屋の玄関が開くのを待っていた。

 

 

 

 

 

永遠の幸福と愛情を







(万事屋へ入ってきたお登勢さんに花束を渡すと、お登勢さんはとても綺麗に笑ってくれた。

相当気恥ずかしかったのか、まだ顔が赤い銀ちゃんと私たちは笑顔で改めてありがとうを伝えた。)

 

 

 

 

 

次の日。

朝起きると、枕元に綺麗にラッピングされた一輪の赤い薔薇が置かれていた。

おそらく犯人はあの人だろうと、ほんと素直じゃないなと思いながら大切にその花をそっと抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

久々にほのぼの夢を書きました…!拍手からネタ提供してもらった、母の日話でございます。

なかなか普段から感謝なんてできませんからね、照れくさくて。

2011/05/08