今日も万事屋に爽やかな風が窓から入り込む。

私は仕事へ行くために、制服というか隊服である黒い上着を引っ掴み、時計に目を向ける。

 

「ぎゃあああ!寝過ぎた!遅刻するぅぅぅ!!!」

「しちまえしちまえ。そしてクビになれ」

「縁起でもないこと言うんじゃないわよ」

 

 

ばさりと上着を羽織り、服装を整える。

鏡を見に行く時間も惜しいため、神楽ちゃんに尋ねると「今日もは可愛いアル」と言ってくれた。

 

 

「やばっ、あと10分で着かなきゃ!」

走って間に合うかな。っていうかそんなに長い間走ってられないし…あ。

 

 

「ね、ぎーんちゃん」

「お前がそういう声出す時は大抵俺にとって都合が悪いことなんで聞きたくないです」

「真選組屯所まで、原チャリ乗せてって!」

「ほらきた!!」

 

 

 

 

君が望む行き先は

 

 

 

 

 

なんだかんだ言って、結局銀ちゃんは私にヘルメットを渡して原チャリに跨った。

そして気持ち良い朝の風を切って私の仕事場、真選組屯所へと走る。

 

 

「これなら間に合いそう!ほんとありがとうね銀ちゃん!」

「俺はなんっにも面白くねーけどな!なんであんなとこへ送らなきゃならねーんだ」

ブツブツと何か文句を言っている声が風に乗って聞こえてくる。

 

 

「面白い事ならあるよ」

ぎゅっと銀ちゃんの腰にしがみつく手に力を込めて言う。

 

「何が」

「私と朝イチでデートができる!」

「たかが数分じゃねーか」

まあ確かに、万事屋でごろごろしてる時間を考えればそっちの方が長い。

 

 

 

「…ん、いや、ひとつ良いことがあるか」

ぽつりと呟かれた言葉に、何?と尋ねる。

 

「背中にの胸が当ってすげーいいっていうか、お前胸デカくなった?」

「おまわりさーん!!!こいつ捕まえて…って私が警察じゃん!」

ぐっと銀ちゃんから体を逸らして叫びながらノリツッコミしてしまった。

 

 

「おま、離れるな!」

「うっわやらしい!朝からそういうことばっかり考えてんの銀ちゃんって!」

「ちげーよ、危ないだろ!俺は乗っけてる時は安全運転主義なの!」

私がいなくても安全運転で頼みたい。

でも、まあ確かにこのままじゃ危ないということで体を元に戻す。

 

 

 

「まあ100パーセント違うとは言いきれねーけど」

「銀ちゃん、屯所ついたらそのまま待ってて。手錠持ってくるから」

「お前が言うと洒落になんねーんだよ警察ちゃん」

 

 

 

 

 

 

赤信号が遠くに見え、少しずつスピードが収束していく。

「…ねえ銀ちゃん、ちょっと気になることがあるんだけど」

「今日の天気は一日中晴れだって結野アナが言ってたぞ」

銀ちゃんの返事を無視して、少しだけ周りを見渡す。

 

 

 

「これ、屯所に向かってる?」

「いんや。離れてる」

 

 

 

 

……。

 

 

「はあああああ!?何、どういうこと!?ちょっ、遅刻するって言ってんじゃん!!」

「もういいって、どうせ今更足掻いたって遅刻するって…いだだだだだ!髪引っ張るな!」

銀ちゃんのふわふわの天パを後ろからぎゅううと引っ張る。

 

「ちょっとォォォ!怒られるの私なんだよ!遅刻すると土方さん怖いんだよ!普段優しいのに超怖いんだよ!!!」

「お前そうやって普段優しいからーって誤魔化されてると取って喰われちまうぞ!」

「銀ちゃんじゃないんだから、土方さんはそんなことしませんー!」

ぱっと変わった信号を見て銀ちゃんはまた走り出す。

 

 

 

「あああそっち違う!ちょ、戻って戻って!」

ぐいぐいと銀ちゃんの髪を引っ張って方向転換させようと試みる。

「痛いっつーの!髪抜ける!ハゲる!」

「ハゲろ!」

「酷ェ!!」

頑なに行き先を変えない銀ちゃんの背中に頭をごすっと押し付ける。

 

 

 

「どうすんのよ、明日絶対怒られる。ていうか怒られるくらいで済めばマシなくらいかも…」

「一日くらい大丈夫だろ。ほら、あいつ、総一郎くんなんかサボりまくってるだろ」

わしわしと髪を戻しながら銀ちゃんは言う。

 

 

「総悟?あれは特殊なの。私にはあんな真似できないっていうか社会はそんなに甘くないのよ銀ちゃん」

ごつんごつんと銀ちゃんの背中におでこをぶつける。

 

「まるで俺がニートみてーな言い方すんじゃねーよ」

「ニートじゃん。自由業っていうレベル超えてるじゃん」

くるりと首回し、流れて行く景色を見る。

 

 

 

 

 

「もう仕事あきらめて、俺とのデートに専念しなさい」

「そう簡単に気持ちが切り替わると思うな…って、何?デート?」

今現在の私とはかけ離れたイベントの単語が聞こえた気がする。

 

 

が言ったんだろーが。朝イチでデート、って」

「それは数分の話でしょ!屯所に着くまでの…5分くらい?」

こんな長時間のデートをするとは言ってない。

といってもまだ分単位で数えられるくらいだけど。

 

 

「短ェよ。そんなんじゃ全然足りねーっつの」

エンジン音が大きくなり、銀ちゃんが原チャリを加速させたことが分かる。

 

 

 

「有給余ってんなら、俺のために使いなさい」

そう言って銀ちゃんは片手で私が銀ちゃんに回している手をぎゅっと包む。

その瞬間、とくんと背中越しに大きく聞こえた鼓動に私は頭が真っ白になる。

 

 

 

「…明日、一緒に屯所に怒られに行ってくれるなら、今日は一日銀ちゃんのために使ってあげる」

心地よい揺れの中、そっと目を閉じる。

「しょうがねーから一緒に怒られてやるよ」

声音こそいつもと変わらないけれど、背中越しに伝わってくる鼓動はいつもよりずっと早い。

 

 

 

ほんと、お互い素直じゃないね。

なんて思いながら私は銀ちゃんに凭れかかったまま、少し笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

前半のギャグが書きたい勢いで書いたので、最後のシメは更なる勢いというか思いつきです。

銀ちゃん的には真選組での仕事なんかやめちまえよ、って感じなので遅刻については深く考えてなさそうです。

2011/06/19