両手に荷物を持って、バランスを取りながら万事屋へと続く階段を上る。
玄関前でチャイムを鳴らすよりも先に、指先で戸を開けて中へ入った。
「おっじゃましまーす!」
返事も聞かぬまま、居間へと向かって歩き出す。そして。
「やっほー万事屋諸君!今日は私の誕生日だァァ!盛大に祝いたまえ!」
「いきなり何なのお前」
「え、さん今日誕生日なんですか?」
ソファに寝転がって相変わらずダルそうな目をした銀さんをスルーして新八くんへと目を向ける。
「そうなのだよ!今日で私もまたひとつ大人になりましたー!」
「わあ、おめでとうございます!もっと早く言ってくれたら何か準備しておけたんですけど…」
少しだけ申し訳なさそうに言う新八くんに笑顔を向ける。
「いいのいいの!前日とかに言ったら何かプレゼントしろーって言ってるようなものでしょ?」
「いや言ってただろ。盛大に祝えとか言ってただろ」
「それは気持ちの話ですー!」
寝転がったまま起きない銀さんを放置して、両手に持っていた荷物をとりあえず机や床に置く。
ふう、と一息ついたところで玄関の戸が壊れたんじゃないかと思うほど勢いよく開いた音がした。
続いてダンダンッと床を蹴るような音がして、私の胴体にドカッとすごい衝撃がきた。
「ーー!!今日誕生日ってホントアルか!?」
「ぐはっ、か、神楽ちゃん…!そ、そうなの、今日誕生日なんだよ私」
飛びついてきた神楽ちゃんに押し倒されそうになるのをなんとか堪える。
うおお、さすが夜兎パワー…侮れない!
「さっきそこでマヨラーに聞いたアル!くぅぅ…私が一番にお祝いしたかったネ!」
「神楽ちゃん…っ!あーもう、その気持ちがすっごく嬉しいよぉぉー!!」
思わずぎゅーっと抱きつき返す。可愛いなあもう!
「あ?ちょっと待て、なんで多串くんがの誕生日知ってんの?」
ようやくソファから起き上がった銀さんが自分の隣、空いたソファを指して言った。
「ここへ来る途中に会ったんだよ。その花束くれたのが土方さんなの」
机に置いた大きな花束を指差す。
自分じゃこんな立派な花束買えないなあと思うほどの、綺麗な花束をプレゼントしてくれたのだ。
「本当は朝一でここに突撃するつもりだったんだけどね。まあ色々ありまして」
「じゃあこっちの箱も?」
机に置いた箱に目を向ける新八くんに向かって、こくりと頷く。
「そっちはね、沖田さんが買ってくれたホールケーキなの」
「「ケーキ!?!?」」
見事にハモったのは銀さんと神楽ちゃん。
がばっと身を乗り出した二人に新八くんのストップの声がかかった。
「…っ、いや待てよ。これまでのことから考えて、あのサド野郎のやることだ…絶対中にタバスコとか入ってる!」
じろりと訝しげな視線を送りながら箱に手をかける銀さん。
「もしかしたら爆発するかもしれないアル!」
「いやいや、さっき買ってくれたやつだから今日は安全だと思うよ」
まあ、ケーキ屋の前でかなり念押ししたんだけど。
「遊び心だって大切でさァ。つーわけで、タバスコとワサビどっちがいいですかィ」
なんて言われたりしたけれど、今日は「ばーか、冗談に決まってんだろ」と笑って普通のケーキを買ってくれた。
「じゃあ丁度いい時間ですし、頂いちゃいましょうか。僕お茶淹れてきますね」
すっと立ち上がった新八くんにお願いしまーすと声をかけて、とりあえず二人からケーキを遠ざけた。
「じゃあこっちの紙袋は何アルか?」
がさがさと既に中身を漁っている神楽ちゃん。
「そっちはねー桂さんとエリザベスからの、んまい棒のプレゼントなんだ」
しかも、かなり多種多量。
「なんでヅラ!?つーかこの期に及んでんまい棒かよ!」
ソファから立ち上がって紙袋を覗き込む銀さん。
神楽ちゃんは「こ、これは数量限定幻のんまい棒…!なんでヅラが持ってるアルか!」と叫んでいる。
「桂さんも来る途中に会ってさ、今は手持ちがこれしかないんだって言ってたけど十分すごいよね」
「その前にこんなでかい紙袋一杯のんまい棒が手持ちってどういうことだよ。手持ちの意味がわかんねーよ」
ぶつぶつ言いながらも銀さんも紙袋を漁って、いろんなんまい棒を掘り出している。
「かなり味の種類もあるから、しばらくはおやつに困らなさそうだよねー」
「ヅラもたまにはやるアルな!」
うん、と神楽ちゃんに返事をする。
あ、いや、たまにじゃなくていつだって素敵だと思うよ!うん!
誕生日おめでとう、と言ってふわりと笑った桂さんの笑顔を思い出して、私も笑顔になる。
ほんと、真面目な顔してるとびっくりするくらいかっこいいんだもんなあ。
「なーに嬉しそうな顔してんだよ」
ぺし、と銀さんからデコピンをくらって我に返る。
「だって嬉しいもん!こんなに素敵なプレゼントくれたことも、お祝いしてくれたその気持ちも」
両方とも嬉しいよ、と言って笑うと銀さんは少し困ったように視線を逸らした。
「ふっふっふー、これは銀ちゃんへのプレゼントのハードルが上がりましたなぁー」
「うるせーな。つか神楽、てめーも何もプレゼントできてねーだろ」
私の後ろからニヤニヤと笑いながら銀さんを見る神楽ちゃん。
「神楽ちゃんからも新八くんからも、おめでとうって言ってもらったよ」
「私のほうが気持ちのプレゼントはでっかいアル!あいつらなんかに負けないネ!」
「あーはいはい分かったからに抱きつくんじゃねーよ」
むぎゅーと抱きついてくる神楽ちゃんを引き剥がそうとする銀さん。
ちょ、無理に引っ張ると私の体がメキメキ鳴りそうなんだけど…!
「何するアルか銀ちゃん!やきもちアルか!」
「うるせーっつの!ほら、お前ちょっと新八手伝ってこい、よっ!!」
べりっと神楽ちゃんを引き剥がして台所へと押しやる。
不服そうな声の後、新八くんに八つ当たりしてる声が聞こえてきた。
「ふー、やっと行ったか」
「いやいやいや。何してんの銀さん」
呆然としてそう言うと、私の両肩にぽん、と銀さんの手が乗った。
「別に俺はあいつらがいてもいーけど、お前は嫌がりそうだからな」
「は?何が?」
首を傾げると、銀さんは私から視線を逸らさずに大きく深呼吸してこつん、とおでこを合わせた。
「へ、俺からのプレゼントだ」
その言葉のすぐ後。
私の視界は銀さんで一杯になり、降ってきた温もりにぎゅっと目を閉じた。
その気持ちに勝るものは無し
(…誕生日おめでと、って気持ち。目一杯詰め込んでみたんだけど。まあ足りなかったら…残りは夜、な。)
あとがき
朧月書店が4歳になりました記念!いつもご来店ありがとうございます!
やっぱりここはサイトとしてもメインにしてる銀さんにシメてもらいました。
どうぞこれからも、朧月書店ならびに風村をよろしくお願いいたします!
2011/07/27