見上げれば青空が広がるかぶき町を、銀時はいつもより少しだけ上機嫌な顔で歩いていた。
「ふっふふ…今日はパチンコで勝てたことだし、パフェくらい食っても罰はあたらねーだろ」
緩む顔を抑えぬまま、そんな独り言を零しながら歩いていると、後ろから銀時を呼ぶ声がした。
「あーっ、銀さん!こんにちは!」
ふわりと髪を揺らしながら走ってくる娘を振り返り、銀時は足を止めた。
「じゃねーか、どうしたよこんなとこで」
「今日はみんなで一緒にお昼ご飯食べに行くんです!」
そう言って笑った彼女の笑顔に癒される、と思いながら銀時は少し首をかしげる。
「みんな?」
うん、とが返事をすると後ろから随分と目立つペットらしきものを連れた男が彼女の名を呼んだ。
「まったく、着物でそんなに走ると転ぶぞ」
「大丈夫だよ、こたにい!」
いつまでも心配性なんだから、と言った彼女の視線の先をたどる。
「ヅ、ヅ、ヅラァァァァ!?」
「ヅラじゃない桂だ!…っと、なんだ銀時ではないか」
涼しい顔をして挨拶をすると、隣にいたエリザベスもぺこりと頭を下げた。
「あれ?こたにいと銀さんって知り合いだったの?」
「知り合いっつーか腐れ縁っつーか…いやそれより、こたにいって、え?」
「貴様がその呼び方をするな気持ち悪い」
そう言って桂はの肩を引く。
ぽす、と桂に凭れかかるような形では兄の顔を見上げてから銀時に目を向ける。
「こたにいは、私のお兄ちゃんだよ」
さらりと言ってのけたに銀時の表情が固まる。
「う、っそだろォォォ!?アレか、ちゃらんぽらんな兄には出来た妹がつくっていうアレか!?」
「どういう意味だ貴様!を愚弄するなど、許さん!」
「じゃねーよ思いっきりお前を愚弄してんだよ!!」
頭の上で繰り広げられる会話に、は視線をうろうろと彷徨わせる。
「妹がいるなんて聞いてねーぞ!」
「言ってないからな!」
「いばるな!」
フン、と鼻を鳴らして桂は銀時からさりげなくを遠ざけた。
桂の腕から抜け出したはエリザベスの元へと移動する。
「くっ…この時代にガッチリ着物着て妙にガードが固いと思ったらお前のせいかよヅラ!」
「に妙な虫がついたら困るからな。しかし、銀時と知り合っていたとは…」
ぬぐぐ、と唸りながら眉間を押さえて、桂はの肩をぽんと叩く。
「、これから銀時に手でも髪でも触られたらすぐ石鹸で洗いなさい」
「俺は雑菌か」
ベシッと銀時のチョップが桂の頭に落ちる。
「銀時、お前のせいでまで糖尿になったらどうしてくれる」
「ならねーよ!つーか俺もなってねーよ!それよりお前の馬鹿がうつる方が心配だ」
ばちばちと二人の視線の間に火花が散る。
エリザベスに凭れたまま、そんな様子を見ていたはふふ、と笑った。
「こたにいと銀さんって、仲良しなんだね」
その言葉に二人共ぐるりと顔を彼女に向けて、言い放つ。
「「そんなわけないだろ!」」
さすがに二人から否定されると思わなかったのか、は目を丸くしていた。
「えっと…じゃあ、仲悪い、の?」
しゅんとして言った彼女の表情を見て、二人はちらりと目配せする。
「ば、ばっか、冗談に決まってんだろ」
「そうだぞ。俺と銀時は、ず、ずっと前から仲良しだ」
声が上擦っている。
さすがに少し疑問を感じたのか首を傾げていたの肩をぽんぽんとエリザベスが叩く。
仲がいいからこそ、喧嘩するもんだ。と随分達筆な文字が書かれた看板をに見せる。
「そっかあ。なんだか深いね!」
エリザベスのおかげでなんとかその場を凌いだ二人は小さく安堵の息を零した。
「ところで銀時、どこかへ向かっているようだったが早く行かなくていいのか?」
「あー別に急ぎの用事じゃねえから。つーか用事ってほどでもねーから」
の手前、和やかな空気を醸し出そうと努力はしているようだが、どことなくギスギスした空気が漂う。
「そうか。俺たちは今から昼飯なんだ、そこをどいてもらおうか」
「おーいいぞいいぞ、さっさとどっか行けよお前とエリザベスだけな!」
「何でだ!」
行く手を塞ぐように立つ銀時と、なんとか進もうとする桂。
傍から見たら昼間から道端でカバディする大人二人だ。
「んー…銀さん用事が無いんだったら、一緒にお昼行く?」
その一言にバッと振り返った桂ときょとんとした銀時。
「マジで?行っていいの?ヅラのおごりで?」
「誰が貴様になど奢るか!」
ぐるりと銀時の方へ顔を向け直した桂に、銀時はにやにや笑いながらこっそり言う。
「そんなケチケチすんなって。も懐のでかい兄貴の方が好きだろうよ」
「ぐ…」
よほど妹に嫌われたくはないのだろうか、桂はぐっと歯を噛みしめる。
「ねえエリザベス、こたにいは一緒に行くの嫌なのかな」
ぽろりとこぼれた疑問の言葉に、ぽんぽんとエリザベスはの肩を叩いて地面を指差す。
そこには木の枝で書かれた文字があった。
「うーん、わかった!やってみる!」
こくりとエリザベスに頷いて、は二人の元へ駆け寄る。
「こたにい、銀さんも一緒に行っちゃだめ?」
駄目だったら正直に言ってね、と言うと桂は少しだけ戸惑いながらも、そんなことはないと呟いた。
「じゃあ早く行こう!お店混んじゃうよ!」
そして右手を桂と、左手を銀時と繋いではエリザベスを呼んで歩き出す。
「なっ、、お前…」
「エリザベスがこうやって行くといいって教えてくれたんだー」
ぶんぶんと手を振って歩き出すに引きずられるようにしていた二人は顔を見合わせて息を吐く。
仕方ないなとでも言うような優しい目をした二人に挟まれて歩き出す。
「、店に着いたら手をしっかり洗うように。特に左手」
「お前いつまで俺を雑菌扱いするんだコノヤロー」
右手に兄、左手に雑菌
(「待て!タイトルおかしいだろ!何で俺はこんな扱いなんだ!」「タイトル?何の話をしているんだ銀時」)
あとがき
別にこたにいって言わせたいがために桂さんを兄にしたわけじゃ、ない、ですよ!
第三者視点でのナレーションに挑戦してみたお話でした。
2011/09/10