びゅう、と吹いた強風にふらりと体のバランスを崩した女の人を支えるように手を伸ばす。

「っと、大丈夫か」

「あ…は、はい、ありがとうございます…!」

ふわりと少し照れくさそうに笑った女の人に会釈をして、その人を支えた男の人はまた歩き出す。

 

 

「ぬあああ…!う、羨ましい!」

「何がですかィ」

その男の人、我らが真選組副長を陰から尾行…いや、見守るのは私と沖田隊長。

 

「だって、フラッとしたところを支えてもらっちゃうんだよ?何その少女漫画みたいな展開!羨ましい!」

「そのまま倒れさせといて、起こしてくださいって懇願させる方が楽しそうですけどねィ」

「そんなのが楽しいのはあんただけだと思う」

電信柱と郵便ポストの陰からこっそり土方さんの後ろ姿を見ながらこそこそと移動する。

 

 

「っていうか!さっきの女の人絶対副長に惚れかけてるよ!」

「何でそんなことが分かるんでさぁ」

土方さんに気付かれないようにこそこそと移動しながら会話を続ける。

 

「そんなの、女の勘よ」

の勘じゃ、ねェ…」

「どういう意味だ」

 

 

 

 

そんな日々を送ってきて、早数日。

この前退くんにストーカーは局長だけで十分です、と言われてしまった。

そのことを思い出して少し落ち込みながら沖田の部屋に上がり込んで休憩時間を過ごしていた。

 

「だって土方さんって町の女の人には優しいのに私には優しくないんだもん!」

「そりゃあ市民を守ってこその真選組ですからねィ」

その市民を守る真選組の隊長殿は屯所で寝転がってお菓子食べてるんですけど。

 

 

「大体、土方さんの何がそんなに良いんですかねえ。ニコチン中毒のマヨ中毒ですぜ」

ばりばりと音を立てながら煎餅をかじる沖田にちらりと目を向ける。

「…ハッ。どうせ言ったって沖田には分からないわよ」

「すげー腹立つ」

空になった器が飛んできたけど、寸前で避けてやった。ざまーみろ!

 

 

「あ!そろそろ見回りの時間だ」

って今日見回り入ってましたっけ?」

「ううん、土方さんの」

そう言うと沖田は呆れたような、蔑むような、微妙な目をして立ち上がった。

 

 

「また尾行するんですかィ」

「もちろん!…と言いたいとこだけど、今日は私も書類仕事があるから尾行できないんだよね」

よいしょ、と立ち上がって沖田にあんたも仕事しなさいよ!と言ってから部屋に戻ろうと一歩踏み出す。

 

「待ちなせえ」

寝転んでいた体勢から、ぱっと立ちあがって沖田は私の手を引いて歩き出す。

 

 

「ちょっと、私の部屋向こうなんだけど」

沖田が進む方向と反対へ行きたくて足を踏ん張ってみたものの、すごい力で引きずられる。

なんなの、何がしたいのあんた。

 

「そろそろ尾行にも飽きてきたんで。ま、黙ってついてきなせえ」

悪戯でも思いついたかのような笑顔を浮かべた沖田に、私は少し不安を抱えつつもついて行くことにした。

 

 

 

辿りついたのは土方さんの部屋の隣。

現在空き部屋になってるそこで大人しくしていろと言われ、沖田はぴしゃんと戸を閉めてどこかへ行ってしまった。

なんなんだ、と思っているとすぐ隣の部屋から声が聞こえてきた。

 

 

「お出かけですかィ、土方さん」

「遊びに行くわけじゃねーよ。見回りだ」

そりゃご苦労なこって、と言う沖田の呆れたような声が微かに聞こえる。

 

「仕事熱心なのも暑苦しくてウゼーですけど、あんまり帰るのが遅いと…あんたの大事なもの、奪っちまいやすぜ」

 

やけにはっきり聞こえた沖田の声に、どきりと心臓が鳴る。

壁に耳を当て、神経を集中して声を探す。

 

 

 

「大事なものって…まさか…お前も期間限定金色キャップのマヨネーズを狙ってたのか!?」

「………土方さん、マヨネーズで窒息して死んでくだせェ」

 

 

 

 

壁にずるずると体を預けて座り込んでいると、がらっと部屋の戸が開いた。

、本気であんなのが好きなんですかィ」

「…正直ちょっと自信なくした」

 

いや、それでも、ちゃんとかっこいい時はかっこいいんだもん。

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか日が暮れて、終わらせなくてはいけない書類の山もあと少し。

一旦休憩にしようかと思って部屋を出たところで、ばったり土方さんに出くわした。

 

「あ、土方さん…!見回りお疲れ様です!」

「ああ。…ってお前に見回り行くって言ったっけか?」

おっとしまった。見回り情報は退くんにこっそり聞いてるんだった。

 

 

「や、あの、沖田…隊長に聞いたんですよ。丁度見かけたらしくて」

「総悟、か…」

視線を斜め下に逸らして、土方さんは少し考えるような素振りを見せる。やっぱりかっこいいなコノヤロー。

 

 

「あー。その、な。最近町に新しい雑貨屋が出来たらしくてな」

「はい?」

土方さんが言おうとしていることの意味を理解できず、首を傾げる。

 

「日頃仕事頑張ってるに、俺からの褒美っつーか、まあ貰っとけ」

普段と違って少し小さめの声で言いながら土方さんはポケットから小さな袋を取り出して私の手に押し付けた。

それは随分と可愛らしいピンク色の袋で、中身が気になった私は土方さんに一言言ってから袋を開けた。

 

 

「これ…髪留め…!」

がさりと袋から出したそれは、紅色の和柄の髪留めだった。

 

「お前くらいの年頃の女の間で流行ってるらしいから、な」

それってもしかして、見回りの間に聞いたことだろうか。

そんな時でも私のことを忘れずに、考えていてくれたのだろうか。

 

 

 

「土方さんっ、ありがとうございます!!大事にします!」

嬉しくて本当なら抱きついてみたいところだけど、その気持ちをぐっと抑えて精一杯のお礼を言った。

 

その時ほんのり土方さんの顔が赤くなったのは、きっと私の見間違いじゃないと思う。

 

 

 

 

 

 

尾行日和









(「案外単純ですねィ、土方さん」「副長もなんやかんやでちゃんのこと見てるんですよね」)

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

覗き見しすぎだろうお前ら、みたいなお話になりました。途中で誰オチなのか見失いました。

2011/12/17