神楽ちゃんが定春の散歩、新八くんが買い物行っていつもより静かな万事屋。
残っているのは私と銀時。
いつもならそれぞれ自分の好きな事をして過ごしているけれど、今日は違った。
「… あの、ちゃん。銀さん的には上から目線よりは上目遣いの方が好きかな…」
「それより今なんつった」
自分でも少し驚くような低い声が出た。
私は腕を組んでソファの上に立ち、銀時は床で正座している。ていうか、正座させた。
「いや、ほら、俺って一応昔は攘夷志士だったし今も結構危ないことしたくねーけどするハメになってるし」
ちらりちらりと私の顔を見上げて様子を窺いながら言葉を零す。
「そのたびに心配かけるのも悪ィしお前が巻き込まれたらマジ俺心臓止まりそうだから、その、ちょっと距離を」
「みくびってんじゃないわよ天パ」
最後に続く言葉を言わせないように、声で遮った。
きょろきょろと目を泳がせる銀時を、腰に手を当ててじっと見下ろす。
「私がそんな甘っちょろい気持ちであんたと一緒にいると思ってんの?」
はあ、と息を零す。
「もちろん心配させるのも大概にしろ糖尿天パとか思ってるけど」
「そんなこと思ってたの!?」
ばっと顔を上げた銀時は少しヘコんでいるように見えた。
その顔を見て少しだけ私の怒っていた気持ちも落ち着いていく。
「天人の1人や2人」
「いやそんな少なくない」
「… 100人や1000人くらい」
「極端だなオイ」
いちいちツッコミを入れてくる銀時をギッと睨んでやると、さっと目線を逸らした。
その時、思い切り首をひねったせいで首筋が見えた。
本当なら見えないはずの白い包帯も。
「… とにかく!!そんなことくらいで私は、銀時から離れたりしないわ!」
腕を組んで上から銀時を見下ろして叫ぶ。
本当は私だって、銀時を守れるくらいになりたい。力になりたい。
でも、銀時は優しいから。私がついて行ったら余計な気を遣わせてしまうんだろう。
だから、私にはここしかない。
ここで待ってるしか、できないんだから。
「…馬鹿にしないでよね」
待っ てるくらいは、させてよ。
「…なあ、立ちあがっていい?」
いつの間にかじっと私の顔を見つめていた銀時の視線から逃れるように、今度は私が目を逸らす。
「……だめ」
「ならお前が降りろ」
銀時がそう言った瞬間、足元が突如不安定になる。
肘かけに手を置き、ソファが歪んでバランスが崩れる。
なんてことをしてくれるんだこの天パ、と頭の中で叫ぶ。
うわ、と声が出てソファから落ちそうになる前に銀時に強く手を 引かれた。
どさりと衝突したのは床ではなく、銀時の胸。
「…やっぱ駄目だな。距離なんてあけられそうにねーわ」
「ぎ、ん…」
最初に言ったのはお前だろうが、というツッコミすらできないくらいぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が苦しい。
ときめいて苦しいのではなく、物理的に。
「悪い。俺の方がと離れるなんて耐えられそうにねぇみてーだ」
そう言って少しだけ腕の力を緩める。
すっと息を吸うと、頬を銀時の手が滑り視線がぶつかる。
「なあ、これからも…待っててくれるか?」
少し辛そうな笑顔で言う銀時。
頬を滑る手に自分の手を添えて、私もしょうがないな、と笑う。
「待っててあげる。万事屋掃除して、ご飯作って、待っててあげる」
「帰ってきた時はアレで頼むわ。ご飯にする?お風呂にする?それとも私?ってやつ」
「却下」
却下早ェよ!とツッコミ返す銀時を見て、あははと声を上げて笑う。
「帰って来た時に、怪我とかしてなかったら言ってあげてもいいよ」
ぽそりと言うと銀時はきらりと目を輝かせた。
「マ ジでか。ちょ、俺これから毎日でかけるから帰ってきたら」
「ただし、パチンコ帰りとか遊んできた帰りの時のお出迎えは定春に頼むから」
「え?食われろってこと?噛まれろってこと?」
定春なら期待を裏切らず、銀時に噛みついてくれるだろう。
「なら、やっぱ家にいよっかな。がいてくれんなら、家にいた方がいいや」
「お仕事はちゃんとしてきてよね。銀時が仕事しないなら私が夜 のお仕事に行くよ」
行くとしてもお妙さんの所か、万事屋の下なんだけどね。
「バッ、そんなもん駄目に決まってんだろうが!夜のお仕事ならここでやりなさい」
「却下」
本日二回目の即行却下にしゅんとする銀時の頭を撫でる。
「とにかく。私は、よっぽどのことがない限り銀時から離れたりしない。だから、そんなこと言わないで」
離れるなんて、言わないで。
「ああ。寧ろこれでもうは俺から離れることができなくなったんだからな。覚悟しとけよ」
そう言って銀時はにっと笑って私の顎を掬って顔を寄せた。
甘く見ないでよ
(「ぶえっくしょい!」「………」
「………」
「ちょ、か、神楽ちゃん!今いいとこなんだから邪魔しちゃ…」
「止まらんかったアル」
「おめーら…いつからいた んだ…あぁん!?」
「あーあー。そう怒るんじゃないネ。大体の悩みは私たちずっと前から知ってたアル」
「え」
「うん。二人には相談してたよね」
「え」
「わおん」
「定春にも相談したもんねー。あ、これから銀時がパチンコ行ってたら噛みついていいからね」
「え」)
あとがき
70作目は甘くしようと思ったんですけどすんごい中途半端で申し訳ないです!
そんな簡単に離れるものですか、っていうお話。そして何気にハブられてた銀時さんでした。
2012/03/10