日本刀。

それは日本独自の製法によって作られた刀のこと。

西洋の剣と違った、しなやかな湾曲。一つ一つの鍔の装飾。

長さも太刀や脇差など様々な種類があり、刃のきらめき具合などこだわりの部分は多々ある。

 

 

「あーっ!もう、素敵すぎる!ビバ日本刀!」

「刀磨きながら何叫んでるんでさァ」

 

きらりと光を反射した刀に映ったのは、この真選組で一番隊隊長を務める総悟だった。

隊長という役職ではあるものの、名前呼びでいいと言ってくれた優しい人。

 

…という第一印象は、ものの数分で粉々に砕け散ったのはいい思い出である。

 

 

 

「なんだ総悟かあ。びっくりしたじゃん、刀磨いてる時に話かけないでよ」

がどっか別の世界にいっちまいそうだったから引きとめてやったんでい」

武器庫の戸に寄りかかるようにして総悟は私を見下ろす。

 

「それ以上頭おかしくなったらいくら俺でも心配になりまさあ」

「それ以上ってどういうことだ」

私を異常者みたいに言わないで貰いたい。ただの刀好きな女の子だ。

 

 

「それにしても、毎日こんなとこで刀磨いててよく飽きやせんねェ」

「これが仕事だからね。それに好きでやってることだから飽きないよ」

磨き終わった刀を鞘に納める。

カチン、と心地よい高音が武器庫に響いた。

 

 

「総悟こそ毎日毎日土方さんの暗殺計画立てて飽きないの?」

「飽きやせんね。まだ野望は成し遂げてやせんから」

サラリとそう答えてくる総悟。

暗殺とか言ってるけど、きっとじゃれてるだけだ。

たまに洒落にならないくらいの罠を仕掛けてるけど、うん、本気で暗殺しようとしてるわけじゃ、ないよね。

 

 

「土方さん良い人だと思うのになあ」

「うげ、いつからそんな趣味悪くなったんでさァ」

ここまでずっと表情を変えなかったというのに、急に顔が引きつった。

どんだけ仲悪いのさ。

 

 

「あ!でも前に土方さんが刀にヒビ入れて帰って来た時は腹立った。あれはほんと許せなかった」

あれはこの武器庫に収納されてる刀ではなく、土方さん個人の刀だったけど。

それでもあのヒビを見た時は息が止まるかと思った。

 

「ハッ、許せないとか言っておきながらケーキ3つで許してたじゃないですかィ」

「うぐっ…だ、だってさあ…」

悪かった、って別に直接私が関係したわけじゃないのにケーキ買ってきてくれたんだし。

そりゃあ許すよ。うん。これからは大事にしてあげてくださいね、って言って許しましたとも。

 

 

 

あの時のことを思い出していると、総悟が側にあったイスを引っ張ってきて私の目の前に座った。

「………」

無言。

ひたすら無言でひとの顔を見つめてくる総悟。

 

「…あの、そんなに見ないでほしいんだけど」

ずっと手に持ったままだった刀を作業台に置いて総悟から視線を外す。

 

 

 

 

「おめー、こんなふうに刀とばっかり向き合ってると婚期逃しやすぜ」

「余計な御世話だ!!!」

ひとの顔を見ながら何を考えているんだこの人は!

 

「そういう総悟こそ、そんなふうにドSな態度とってるから彼女できないんじゃないの?」

今のところ隊士内でそういった浮いた話は聞いたことがない。

総悟に限らず、土方さんや山崎さん、あと近藤さん…は微妙だけど。

とりあえずそう言った恋話みたいなものは全くと言っていいほど聞いたことが無い。

 

 

「俺の調教に耐えれる女がまだいないだけでさァ。もうちっと調教し甲斐のある女がよくてね」

「ほんと恐ろしいひとだな…」

それは好みと言うのだろうか。

ていうか、噂で聞くと総悟はかなりのサドらしいし…そんな都合のいい女の子に出会えるとは思えない。

 

 

「そういうはどういう奴が好みなんでさァ」

「え?優しい人」

パッと反射的に答えると、総悟は目をぱちぱち瞬かせた。

 

 

 

 

「……すげえ普通すぎて言葉が出やせんでした」

「なんでよ!いいじゃん普通で!」

「もっとこう、刀っぽい人とか猫背の人とかくると思ってやした」

「どういうこと!?猫背ってアレか、刀の湾曲の話か!?あの美しい湾曲と猫背を一緒にするんじゃない!」

ばっと立ち上がって、さっきと逆に総悟を見下ろすようにして熱弁を奮う。

 

 

 

「…なんか、に見下ろされてんのは癪でさァ」

日本刀の良さについて語っていると、急に立ち上がった総悟が物凄い勢いで私の左肩を掴んだ。

そのまま側の作業台に叩きつけるように押し倒され、ぐき、と腰に嫌な衝撃が伝わった。

 

「いっ…ちょ、何…ッ!?」

それだけでは済まず、びゅっと顔の横を風が過ぎ去ったかと思えばすぐにベキッと作業台から音がした。

 

 

 

「やっぱこの眺めが一番でさァ」

「…私、死ぬ3秒前って感じなんだけど」

顔の真横に突き立った愛しい日本刀。でもちょっと近すぎる。

それに作業台も絶対穴が開いているだろう。

 

 

「でも今すげえ可愛い顔してやすぜ。目に恐怖の色が浮かんでますねィ」

ぐっと私に覆いかぶさるように上体を倒してくる総悟と、一緒に傾いてくる刀。

「ほら、の大好きな刀ですぜ」

「ま、待って落ちつこうよ総悟、ほらあの、確かに刀好きだけどまだ死にたくはないんだって」

 

嫌な汗が額を滑って作業台に染み込んでいく。

 

「ちょ、ほ、本気じゃないよね…?」

「何が?」

疑問を疑問で返すなと心の中で思ったけれど、確かに私も言葉が足りなかった。

 

 

「その、私、ここで天国行きとかにならないよね?」

「ああ、そういう意味の本気ですかィ」

ぱっと顔だけ上げて何かを考えるように首を傾げ、総悟はにやりと笑って再び顔を近づけてくる。

 

 

 

「イかせてやろーか、天国」

 

その瞬間何かを頭で考えるより先に私の足が全力で振りあがった。

ゴッと確かに攻撃を与えた感触と共に私の脛辺りにも、じんとした痛みが伝わる。

 

それよりも総悟の方がダメージが大きかったらしく、声にならない叫び声を上げて床に転がりのた打ち回っている。

うん、不可抗力。しょうがないだろうこれは。でもさすがに痛そうである。

 

 

「や、あの、なんか身の危険を感じて。ごめんごめん、超ごめん」

作業台から体を起こして、床にうずくまる総悟を見下ろそうとしてやめた。

サッと横にしゃがんで出来るだけ姿勢を低くして視線を合わせることにした。さっきの二の舞は御免だ。

 

 

「て、め…!何しやがる…」

「だから不可抗力っていうか?正当防衛っていうか?」

よろよろと体を起こして総悟は私の肩に手を置く。

 

一瞬ビクッとしてしまったけれど、さっきみたいな力は込められていなかった。

けれど、ぐっと体を私の方へ寄せ、耳元あたりに寄りかかるようにして総悟はぽそりと何かを呟く。

 

一瞬何を言っているのか分からなくて首を傾げると、再び総悟は耳元でこう呟いた。

 

 

 

「次は無いと思え」

 

 

 

 

 

刀のように真っ直ぐに









(「土方さん、私の憩いの武器庫は天国トラウマゾーンと化したので避難所をください殺されてしまいます」「は?」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

私が沖田さんに殺されそうです。笑

もうちょっといい話を書いてあげろっていうね。あと日本刀好きなのは私ですすいません。

2012/07/22