ごーん、と除夜の鐘が鳴り響き、また新しい一年が始まる。
コートを着込んで防寒対策をばっちり整えた私と銀さんは初詣のため神社へ向かって歩いていた。
「時計持って来るの忘れちゃったから分からないけど、もう年越えたのかな」
「さあ?まあ数秒ズレるくらい妥協妥協」
マフラーに顔を埋めて歩く銀さんと繋いだ手をぶんぶんと振っていると、突如目の前に白い物が飛び出してきた。
「あけましておめでとう、銀時!殿!!今年もよろしく頼むぞ!」
「超よろしくしたくねーわ」
あけましておめでとう、と書かれたプラカードを持ったエリザベスと桂さんに行く手を阻まれ、銀さんの眉間にしわが寄る。
「あけましておめでとうございます、桂さん、エリザベス!今年もよろしくお願いしますね!」
というかやっぱりもう年明けてたんだなあ、と心の中で呟く。
「うむ、殿はやはり礼儀がなっているな。銀時、少しは殿を見習ったらどうだ」
「余計なお世話だ!第一、新年早々目の前に飛び出してくる奴に言われたくねーよ!」
「二人共初詣か?なら俺たちも同行させてはくれまいか」
「俺の話を聞けよ!!!」
今年もやっぱり賑やかに一年が始まるなあ、なんて思いながら銀さんと繋いだ右手を揺らす。
ちなみに左手は今、ナチュラルに桂さんに握られている。いつの間に。
「はーいはい、そこの4人仲良く手ェ繋いでる奴、ここから混むから2列になって歩いてくだせェ」
ピーッと甲高い笛の音と共に聞こえてきたのは沖田さんの声だ。
「ごめんなさい、そしてあけましておめでとうございます沖田さん」
「ん?なんでィ、誰かと思えばと旦那と………」
「………」
突如訪れた沈黙の後、隣でうわ、という銀さんの呟き声が聞こえた直後。
「桂ァァァァアアア!!!」
「チッ、俺は元日の日の出を見る前に死ぬわけにはいかぬ!すまない、さらばだ!」
ばいびー、というプラカードを掲げながらエリザベスと桂さんはその場から逃走する。
どこから取り出したのかわからないけれど、バズーカの照準を合わせ沖田さんが二人にむかって発砲する。
ドォオオオオン、という新年一発目の爆音が耳に響いた。
「ちっ、逃がしたか」
立ち上る煙と周りの一般客の悲鳴を気にかける素振りもない沖田さん。
「お前何考えてんの?新年から何してんの?なんで今日に限って仕事熱心なの?」
「だって、いま桂を仕留められたらお年玉もらえるかもしれないじゃねーですかィ」
「壊した建物の修理費をお前のお年玉から差し引いてやろうか、総悟」
カツカツと靴音と共に聞こえてきたのは土方さんの声だ。
「あけましておめでとうございます、土方さーん!」
土方さんの姿が見えてから手を振って叫ぶと土方さんも少し笑ってくれた。
「ああ、今年もよろしく。…ってはもうちょっと動揺してもいいんだぞ、一般人だろ」
「なんかもう…慣れたっていうか…」
はは、と乾いた笑いを零す。
「マンネリですかィ?そいつァいけねーや。今度火薬の量を増やしてみますかね」
「おたくらさ、攘夷なんたら追いかけるよりこのドS野郎捕まえた方がいいんじゃねーの?」
銀さんの言葉に、土方さんはため息で返す。
苦労してるなあ、ほんと。
「ってちょっと待って、沖田さんさっきお年玉って言いましたよね?貰ってるんですか?社会人なのに?」
「やけに引っ掛かる言い方ですねィ。近藤さんは今年も頑張れって言ってくれるんでさァ」
「なんという優しい上司…!」
ちらりと隣に立つ銀さんを見るとサッと目線を逸らされた。
「ねえ銀さん、私と神楽ちゃんと新八くんにもさあ、今年も頑張ろうっていうことでお年玉とか」
「それを言うならこそ俺にお年玉くれよ、お前万事屋以外でもバイトしてんだろ知ってんだぞコノヤロー」
確かにしてるけど、しないとやっていけないのが万事屋なのだ。
依頼を待ってるだけじゃお年玉どころかお賽銭すら危ういのだから。
「、これを機に今年からうちで働かねーか?」
土方さんはぽんぽんと私の肩を叩く。
「掃除や洗濯、あと総悟の相手とかの仕事が嫌じゃ無けりゃ歓迎するぜ」
「最後のやつが一番ハードル高そうですけど、これは魅力的なお誘い…!」
真選組ならお給料も良いだろうし、なにより既に顔見知りな人たちばかりだから緊張も少ないだろう。
「が来てくれりゃ俺も虐め…遊ぶ相手が増えて嬉しいねェ」
「あー!もう!うちの従業員を誑かすんじゃねーよ!入社前から虐めにあうフラグがビンビンじゃねーか!」
銀さんは沖田さんの言葉をかき消すような声で言い、ガッと私の腕を掴んで引っ張る。
どん、と背中が銀さんの胸元辺りにぶつかった。
「は今年も万事屋の一員だ!てめーら税金泥棒の仲間入りなんかさせっかよ!」
「泥棒してねーよ。こうして新年から働いてんだろうが半ニート」
「だ・れ・が半ニートだ!ちゃんと仕事してますぅー!」
私のほぼ頭上で繰り広げられる口喧嘩を聞きながら、もそもそと体を捻る。
早く神社への階段を上りきらねば。上で神楽ちゃんたちと待ち合わせなのだ。
「、こいつ使いなせェ」
こそっと私のそばにしゃがみ込んだ沖田さんの手には、神社に住みついている恰幅の良い野良猫。
「…身代わりというやつで?」
その問いにこくりと頷く沖田さん。
相変わらず頭上で繰り広げられている言い合いはヒートアップする一方で、私が銀さんの腕から抜けても止まりはしない。
そっと腕から抜けだし、私がいたところに猫を差し込みすり替えを完了させた。
「案外バレないもんですねィ」
「複雑な気分ですけどね」
こそこそと階段を数段上がった先で銀さんと土方さんを見下ろす。
「じゃ、あそこの警備は土方さんに任せるってことで。俺ァ上でも見てきますかね」
「私も早く上に行かないと。神楽ちゃんたち、もう来てるだろうなあ」
まだまだ続く階段を見上げる。
「行き先が同じなら、どっちが早く着くか競争でさァ。が負けたら今年中俺のパシリな」
「期間長っ!!ぜ、絶対嫌ですからね!」
「よーいどーん」
「ちょっと待てェェェ!」
勝手にスタートした沖田さんを追いかけて階段を駆け上がる。
私が勝ったら、色んなお店の福袋買ってもらおう。もちろん並ぶのも沖田さんにやらせてやる。
新年から一体何をしているのだろう、なんて毎年思っている気がする。
それでも楽しいと思うからこうして一緒にいるんだろうな。
今年も一年、みんなと楽しくやっていけますように!
駆け上がり初詣
(「「うおおおぁあああ!!」」「うわああ、さんに沖田さん、何してるんですか!?」「たぶんかけっこアル」)
あとがき
あけましておめでとうございます!
去年もお世話になりました。今年も風村雪、並びに朧月書店をよろしくお願いいたします!
年々更新率が落ちてきてるとか気にせず、今年も遊びに来て頂けたら幸いです。
2013/01/01