濁った色を映す空の下は同じように血や肉塊で濁った色ばかりが広がっていた。

 

「っ、はああああ!」

姿勢を落として迫りくる天人の腹部へ刀を突き刺す。

斬って刺しての繰り返しばかり。

 

 

「はあ、はあ…」

顔の側面を滑り落ちる汗を拭って、糸が切れたように崩れ落ちる天人を見つめる女に向かってヒュウと口笛を吹いた。

 

 

 

 

「おーおー、程良い汗と上がった息、場所が場所じゃなけりゃイイ顔してんじゃねーか」

「銀時…」

「お前、刀じゃなくても目で刺せそうだな。刺さりそうなんですけど」

降参と言うように左手を上げる。

右手はこの女、と同じように血がこびりついた刀で塞がっている。

 

 

 

「随分余裕だね、こっちはちょっと、休みたいとこだわ」

はゆっくり息を整えながら刀を地面にざくりと刺し、杖代わりにして体重を預ける。

どうやらさっきのでこの辺りにいた天人は片付いたようだ。

 

 

 

 

「どっか怪我したのか?」

「怪我…はしてるけど、擦り傷とか打ち身とか大したことはないわね」

確かに大きな怪我は見当たらない。

 

 

「でも顔に傷作ってんじゃねーか。ほら、ここ」

殴られたのか吹き飛ばされたのか分からないけれど、口元に拭い損なわれた血が滲んでいる。

そっと指の背で傷口を拭うように撫でてやると、びくりとの身体が跳ね、刀ごと俺から離れた。

 

 

「なっ、ば、ばか!ど、どうせまた怪我するんだから放っておいてくれていいの!」

「いや怪我しないようにしろよ」

頬を赤く染めて俺を睨めど、さっき天人に向けていたような睨みとは全然違う。

怖いどころか、すげえ可愛い。

 

 

 

 

 

「それで、戦況はどうなの」

ひとつ息を吐いて気持ちを入れ替え、強い視線で俺を見る。

「良くはねえな」

正直な感想を述べると、そう、と奥歯を噛みしめては呟いた。

 

 

 

「早く応援に行かなくちゃ。ヅラとか晋助とか…は大丈夫そうな気がするけど、辰馬が心配だわ」

「あれはあれで強いから大丈夫だろ」

「いや、そうじゃなくて…転んで頭打って怪我してそうな気がするの」

「やっべ想像できちまった」

 

顔を見合せて同じタイミングで吹き出す様に笑う。

辺りは一面真っ赤で真っ黒で、何一つ笑えるものなんか転がっていないのに。

がいるだけで俺はこんなにも心が温かくなる、笑顔になれる。

 

 

 

 

「ふふ、攘夷戦争の真っ最中なのに、不謹慎よね」

「でもそんなモンだろ、戦争なんて」

 

規模が違うだけで勝った負けたの闘いだ。

敵を倒して勝ったと思えば、そこには喜びの感情が生まれる。それは、きっと仕方ない事。

まあでもさすがに今は喜びの感情なんかよりも、罪悪感や黒くどろどろした感情が生まれるだけだ。

 

 

 

 

「はやく、終わるといいね」

ぽつりと俺から視線を外して、煙の立ち上る別の戦場へ目を向ける。

ああ、そうだなと呟いて俺も同じ方向を見る。

 

 

 

 

「なあ…」

彼女の方へ体の向きごと振り返った時、ざり、と俺と以外の足音が聞こえた。

それは彼女も感じ取ったようで、一瞬にして刀を構え戦闘態勢に入る。

 

 

「ったく、いいとこで邪魔してくれやがって」

「え?なにがいいとこ?」

心底疑問に思っているような口ぶりで言うに体の力が抜けかける。

いやまあ、確かに場所としては最悪だけど。

 

 

 

「ちょっと今いいこと言おうとしたんだよ」

「銀時のことだから、どうせ死亡フラグでもぶっ立てるようなこと言おうとしたんでしょ」

今まで何もなかった地平線に、天人の影がゆらゆら揺れ出す。

 

 

「死亡フラグって何だよ、もしかしてアレか?この戦争が終わったら結婚してくれとか言われると思ってたのか?」

「違うわよ。この戦争が終わったらデザートバイキング行こうって言われるのかと思ったのよ」

「いいなそれ、すげー行きたい」

「死ぬわよ」

おっと危ない。

こんなとこで死亡フラグ立てたら洒落にならねーや。

 

 

 

 

 

でも、ちょっとだけ賭けてみようかとも思う。

本当にそういう類の台詞が死亡フラグに繋がるのかどうか。

 

 

背中合わせになり、刀を構える。

同時に一気に迫ってくる天人どもを睨みつけ、少しだけ口角を上げる。

天人どもの雄叫びにかき消されぬようにの名前を呼ぶと、気が散るとでも言うような相槌が返ってきた。

 

 

 

 

「なあ、この戦争が終わったらさ、にちゅーしていい?」

「天人どもォォォ!地球人なめんじゃないわよ!!」

「あれっスルー?」

 

そこは俺に合わせてくれよと思いながら、ついに飛びかかってきた天人を斬り捨てる。

同時に背中にあった温もりがふっと離れていく。

 

 

 

「銀時」

同じようにも目の前の天人を斬り捨てたのであろう音を聞きながら、振り返らずにその声に耳を傾ける。

どしゃりと何かが崩れ落ちる音の後、すっとが息を吸ったのが分かった。

 

 

 

「大怪我しないで、元気な姿で笑って会えたら、その時はしていいわよ」

 

 

 

おいおい。ハードル上げてきやがったよコイツ。

…でも、俄然、やる気は出てきた。

絶対に生きて帰ってやる。

 

 

「しっかり聞いたからな。今度会った時に忘れてたじゃ済まさねーぞコノヤロー!」

 

 

 

 

 

 

死亡フラグは生存フラグへ









(目指すは最高のハッピーエンドだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

攘夷銀時のお話も一度書いてみたかったのです。

2013/02/09