「よお。仕事帰りか?」

「!ぎ、銀ちゃん」

コンビニ帰りの夜道を歩いていると、見覚えのある背中を見つけて声をかけた。

よほど驚いたのか、肩を盛大に揺らして振り返ったそいつの顔は予想通りの表情をしていた。

 

 

「うん、そう、仕事さっき終わったの」

「こんな時間までか…万事屋に転職しちまえば昼間で終わるのによォ」

「それはそうかもしれないけど、生活していけないよ」

 

困ったように笑うの顔を何度見ただろう。

何度もこうして万事屋へと誘っているのに、なかなか首を縦に振らない。

 

 

 

「それじゃ、またね!」

「あっちょっ」

待てよ、と言う前には走って夜の街へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はー…」

そのため息は呆れでも疲れでもなく、少しイラついた吐息だった。

 

「朝から何アルか、妙なため息吐くんじゃねーヨ」

「どうしたんですか銀さん。結野アナの天気予報でも見逃したんですか?」

「バカヤロー、それはちゃんと見てるっつの」

いつもと同じイスに座ってぼーっと窓の外を眺める。

 

 

返事を返さない俺に飽きたのか、神楽と新八はそれぞれどこかへ出掛けていった。

「…避けられてるわけじゃ、ねーよな…?」

独り言は静まった部屋に響き、またため息を吐いてしまった。

 

 

 

 

 

 

夜になり、新八が作って置いていった飯を食ってから玄関へ向かった。

 

「あれ、銀ちゃん今から出掛けるアルか?」

「あー。ちょっとな」

立ったままブーツに足を入れて、つま先を2,3回床にぶつけて履く。

少し違和感はあるが、まあ歩いてるうちにちゃんと履けるだろう。

 

「飲んだくれて帰ってくるんじゃないヨー、介抱なんてしてやらないアルヨー」

「おめーは俺のかーちゃんか」

ピシャンッと玄関を閉めて階段を降りる。

 

さて。飲んだくれるか、スキップして帰れるか。どっちになるんだか。

 

 

 

 

 

 

 

昨夜と同じ場所で行き交う人を見ながら壁に凭れかかる。

夜風で少し体が冷えてきた頃、待っていた人物が歩いてくるのが見えた。

 

 

「よお

「うわっ、と、びっくりした…なにしてるの銀ちゃん」

昨夜とほぼ同じ反応をしたの手をさりげなく掴む。

 

「ちょっと付き合えよ。明日、仕事休みだし、いいだろ」

なんで知ってるの、とでも言いたそうな目をしてはまだ納得していない風に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街灯よりも明るいかぶき町のネオンから少し離れた公園は、昼間とは違った雰囲気を纏っていた。

ここまで「どこいくの」とか「どうしたの」とか投げかけられた言葉に「ちょっとな」と返事をしていたせいか、

知らぬ間に会話はなくなっていた。

 

 

「なあ

公園の前で足を止めた俺の横での肩が少し震える。

 

 

「俺、お前になにかしちまったっけ」

「…へ?」

は目を丸くして俺の顔を見た。

あ、久しぶりに目が合った気がする。

 

 

「なんかお前最近俺のこと避けてねえ?」

「さ…避けてないよ、避けてない」

すっとまた逸らされてしまった目をじっと見たまま、俺はいつもと同じ声のトーンで話す。

上擦ったり、強くなってしまわないように気をつけて口を開く。

 

 

「ほんとは俺のこと、キライだった、とか」

 

「それはない!!」

顔を上げたの目はどこか必死なくらい揺らいでいた。

そしてはっとした顔になり、ぐっと眉根を寄せる。

 

「嫌いじゃ、ない…それは絶対にないよ」

「だったらなんでだよ、前はもっと」

 

もっと、なんだっけ。

喋ってたし、バカやってじゃれあって、ああそうだ。もっと距離が近かったんだ。

 

 

 

 

「だって、だって怖いんだもん、このまま一緒にいるのが怖いの」

ぽつりと言葉が零れ落ちる。

 

「このまま一緒にいたら、きっと銀ちゃんを好きになってしまうから」

いやむしろ好都合なんですけど。

そう思って今度は俺が目を丸くした。

 

 

 

「銀ちゃんの周りは、素敵な人が多いから。色んな人に愛されてるから、私じゃ、隣には並べない」

少しずつ俯いていくの頭を見下ろして零れてくる言葉を心の中で否定する。

「私には何もないもん。戦えるわけじゃないし、可愛いってわけでもないし、家事も…新八くんに負けるし」

家事はアレだ、新八がおかしいだけだ。

 

 

「そんな私が銀ちゃんの隣に並べるわけないんだよ」

 

 

顔を上げ、眉根を寄せたまま笑うの声は少し震えていた。

 

 

 

「…言わないようにしてたのに、気付かれないうちに早く心を冷まそうと思ってたのになあ」

ばれちゃうなんて駄目だな、と泣きそうな顔で笑う。

 

 

「だぁぁー!お前って奴は!」

抑えていた声は結局強く出てしまった。

その声にびくりと体を震わせたに向かってそのまま大股で2歩進み、頭を抱え込むようにして抱きしめた。

 

 

 

「ぎ、銀ちゃん!?ちょ、私の話聞いて…」

「聞いてたっつの!聞いてたからこその行動だバカヤロー」

じたばた暴れても絶対離してやるものか。

 

「ほんっとばかだな。色々、ほら、アプローチしてただろうが」

「そんなの他の人にもしてるんだろうなって思ってたから」

言いながら、離れようとしているには弱すぎる力で俺の身体を押し返す。

 

 

「お前どんだけ俺を軽い奴だと思ってんの」

「銀ちゃんなんてすっからかんじゃない!」

「誰がすっからかんだ!財布の話なら否定しねーけどな!!」

「そこは否定できるようになってよ!」

そこでやっと俺との目が合い、なんだか懐かしくなってお互い笑った。

 

 

 

「もし…いや、もしじゃねえな。確実に、俺がを好きだった場合、それでもお前は離れようとするか?」

風に揺れる髪を顔から払ってやると、くすぐったそうにしながら少し下を向く。

そしてしばらくの間の後、返事がかえってきた。

 

「少し、疑う。冗談じゃないのかな、って。そんなわけない、きっと夢なんだろうって」

でも、とは言葉を続けた。

「でも、銀ちゃんが私でいいって言うなら、信じたい、幸せに、なりたい」

 

 

「幸せに…してやれるかは分からねーけど、俺はに傍にいてほしい。…ここにいろよ、な?」

ぎゅっと腕に力を入れてまた少し距離を縮める。

 

「うん、ずっとずっと、ここにいたかった、ずっと前から、夢見てたの」

の手が俺の服を掴み、頭が凭れかかってきた。

 

 

 

「好きです、銀ちゃん」

 

傍にいるだけで幸せになれるよ、と言ったの顔を俺は見られなかった。

空に浮かんだ月が丁度雲から顔を出した瞬間しか、見られなかった。

 

 

 

 

幸せへの遠回り









(そんな可愛い事考えてたなら、もっと早く言えよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

実はすっごく昔に考えたネタ。

2013/11/03