「新年、あけましておめでとうございまーす!!!」
「おめでとうございます、今年もよろしくお願いしますね」
「よろしくアルー!!」
テレビから流れるカウントダウンの直後、私と新八くん、そして神楽ちゃんはほぼ同時に声を上げた。
向かい側に座る神楽ちゃんの後ろで定春も小さく吠える。
「定春もよろしくって言ってるアル」
「へへ、定春もまた今年一年よろしくね」
ふわりと笑って言うと、もうひと吠えして返事をくれた。
「あのさお前ら、言葉だけ聞いてるとすげえ良い感じだけど」
ぽそりと今まで黙っていた銀さんが口を開く。
「誰か、コタツから出ろよ」
「嫌だよ、寒い」
「入ったら出られませんからねーコタツ」
「銀ちゃんこそ首まで入ってんじゃねーヨ!さっきから足当たって邪魔くさいアル」
そう。
今、私たちは全員コタツにすっぽりと入りこんでいるのだ。
なにせ今年も結局貧困カツカツ生活のまま年越しをしてしまった。
暖房器具を2つつけるなんて贅沢はできないのである。
「なんだよ神楽、おめーこそ邪魔なんだよ足広げんな」
「ぎゃ!銀さん、それ私の足!痛いから蹴らないでよ!」
おそらくコタツ内で争っている2人の足が時々ごつんとぶつかる。
「あ、なに?これの足?すげーすべすべだな」
「ぎゃああああ気持ち悪ッ!触るな擦るな裾をめくるな!!」
私の足首辺りをするすると銀さんの足が撫でまわしており、とてつもなく変な感じがする。鳥肌立ちそう。
「あーもう、落ちついてくださいよ。なんで毎年こんな感じなんですか」
はあ、とため息を吐いた新八くんの足が見当たらないと言うか気配を感じないのは何故だろう。
こっそり正座したり胡坐かいたりして避難しているのだろうか。
「そうヨ銀ちゃん、新年早々にセクハラなんてやめるネ!もっかい除夜の鐘で叩かれてくるヨロシ」
「叩かれてくるって何だよ、頭割れるだろうが!」
「そんな煩悩しか詰まってないくるくる頭、割れちまえヨ」
「てめえええええ」
だから暴れるな、と私と新八くんの怒りの声が飛ぶ。
さっきまで聞こえていたはずのテレビの音は私たちの声にかき消されたままだ。
「もう、銀さんうるさいからちょっとお茶淹れてきてよ、急須空っぽになっちゃったし」
「そういうのはオカンの仕事だろ、なっ新八」
「誰がオカンだ!銀さんが一番台所に近い場所にいるんですから、ほら、行ってきてくださいよ」
言いながらみんなコタツの布団をぎゅっと握る。
「……さいっしょはグー!」
「えっ」
「「じゃんけんぽん!!」」
え、なんで2人共ちゃんと乗れてんの。
「くっそおおお……足の裏冷たい…」
裸足の裏に廊下の冷たさがびりびりと伝わってくる。寒い。
ヤカンに入れておいたお湯はすっかり冷めてしまっており、もう一度沸かし直さなければならない。
くっそ、さっきの銀さんの勝ち誇った顔が非常に腹立つ。
それにしてもやけに寒い。
お湯が沸騰するまでもう少しありそうだったため、私はそっと窓の方へ移動して少しだけ戸を引いた。
「わ、すご…」
窓を開けたそこに広がるのは、宵闇に舞う白い花弁のような雪。
朝になったら積もっているんじゃないかと思いながら空を見上げる。
「寒いと思ったら窓開けてんのはお前か、」
ごす、と軽いチョップが頭に落ちる。
「いった、何するの銀さん…ってよくコタツから出てこられたね」
「まーな。こっそり隠してあったチョコ出してこようかと思ってよ」
言いながらごそごそと冷蔵庫付近の戸棚の奥に手を突っ込む。
「ね、銀さん。雪だよ雪、明日になったら積もってるかな」
「うげ。原付凍るじゃねーか」
見つかったらしいチョコを片手に窓辺へ戻ってきた銀さんに夢が無いなあ、と呟く。
「明日は皆で雪合戦できるといいね。あ、雪だるま作ったりするのも楽しそうだなあ」
「子供か」
「そう言って一番はしゃぐの銀さんでしょ」
「はしゃがねーよ、いい大人だからな」
もう閉めるぞ、と言って銀さんは私の横から手を伸ばして窓を閉めた。
温度差で一気に白く曇った窓ガラスに、世界が遮断される。
「うー、寒っ。そろそろお湯沸いたかな」
湯気が立ち上るヤカンの火を止めて、急須にお湯を入れる。
その間銀さんはもぐもぐと先ほど出したチョコを頬張っていた。
あ、てっきり板チョコだと思ってたけど個包装チョコだったのか。
「よしっと」
お湯で一杯になった急須からお茶の良い顔いが漂う。
バイト先のお歳暮のおすそわけで貰って来たお茶葉はなかなか上物だったようだ。
少しだけ残ったお湯をそのままに、ヤカンをコンロに戻してから銀さんの方を振り返る。
「先に戻っててよかったのに」
「んー、いや、ちょっとタイミングを見計らってて」
何のタイミングだろうかと首を傾げる。
傾げた所で、私と銀さんの間にあった空間が一気に狭まった。
近いとか、急にどうしたのとか、そんな言葉は一切出なかった、いや、出せなかった。
「…っ、ん」
普段のトーンより少しだけ高い声が漏れた所で、やっと呼吸ができるようになった。
「新年初ちゅー、していい?って聞くタイミングを見計らってみたんだが、どうよ」
「どうよじゃないわ。聞いてないし、事後報告だし。しかも甘っ」
ごくりと唾を飲み込む。
お茶しか飲んでなかった口の中に、やたら甘い味が広がる。
「さっきのホワイトチョコだったからな。甘ェだろ」
「ばか、ほんとばか!煩悩と一緒に削ぎ落されてしまえ!!」
「何が!?」
ちょ、怖いんだけど!とか叫ぶ銀さんを放置して、私は急須と一緒に居間へ戻った。
おかえりなさいと言ってくれた新八くんに急須を渡して、私はコタツに頭まで埋まるように入り込んだ。
「大丈夫アルか?ほらみろ、こういうのは男共がやらなきゃいけないネ!女の子は体冷やしちゃ駄目アル!」
「おっかしいな、てっきり銀さんが追いかけてったと思ったんですけど……」
コタツの布団越しに2人の会話を聞いていたが、声がぴたりと止まった。
「まさか」
「…銀ちゃん…」
ぼそりと低い声が布団越しに聞こえる。
だがしかし、今の私はここから出たくない。
「あー寒ィ、やっぱ駄目だわコタツ入らねーと死ぬって」
「「そのまま朝まで固まってろ煩悩天パがァァァァ!!!」」
「は!?ちょ、なにゴフッ」
バキバキバキッ、という恐ろしい音が聞こえた。
柱か何か、壊れたんじゃなかろうか。
「ほんっと進歩しないんですから、銀さん」
「寧ろ年々我慢できなくなってるネ。が可哀想アル」
もそもそと布団の中の神楽ちゃんの足が移動して私の隣へ来た。
ぽんぽんと背中を撫でてくれる感覚に、少し顔を布団から出す。
「大丈夫ネ、今年ものことは私が守ってあげるヨ」
「神楽ちゃん…」
「ええ、さんみたいな優しい人を穢させるわけにはいきませんから」
「新八くん…2人共、ありがとう!」
ぎゅーっと神楽ちゃんを抱きしめて笑う。
すり寄ってくる神楽ちゃんはなんだか猫みたいで可愛くて、少し心も落ち着いた。
「いっててて…んだよ、新年くらい大目に見てくれても…」
「新年だからって何しても許されると思ってんじゃねーヨ、削ぎ落とすぞ」
「す、すんません」
前言撤回。猫どころか、猛獣だった。
新年も通常運転で
(「なにはともあれ、今年もよろしくね2人共!」「こちらこそ」「よろしくアル!」「俺ともよろしくしてくださ」「しません」)
あとがき
あけましておめでとうございます!
去年もたくさんお世話になりました。今年も風村雪、そして朧月書店をよろしくお願いいたします!
進展しないのは万事屋も当店も同じです。そんなサイトですが、今年も頑張っていきたいなあと思っております!
2014/01/01