「みつけやしたぜ、麻薬転売グループのリーダーさんよォ」

表向きは探偵事務所、その実態は麻薬転売を商売とする天人の拠点であったビルの扉を蹴破った。

「私らから逃げられると思ったら、大間違い!御用改め、お縄につきなさい!」

良い笑顔と刀を向けて私と総悟は抵抗する天人どもをとっ捕まえたのだった。

 

 

 

 

 

「…というわけで、昨日はちゃーんとお手柄たててきましたよ!」

「今月の給料アップも夢じゃねーですよね土方さん」

「学習しろよ破壊神コンビ。付近のビルも一緒にぶっ壊してきて何言ってんだコラ」

 

眉間にしわを寄せてため息を吐く我等真選組の副長は今日もご機嫌斜めのようだ。

「給料アップどころか、壊した建物の修繕費へ給料天引きだ」

「ええええ!?」

「そんくらい土方さんのポケットマネーから出してくだせェよ」

「意味わかんねーよ」

 

 

ぽい、と放り投げられた修理費請求書の額を見て、私は顔を引きつらせた。

総悟は隣で「こいつァ土方さんの貯金も要りそうですねィ」とか暢気なことを言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

はあ、と重い息を吐きながら土方さんの部屋を出て道場へ向かう。

私と総悟以外、誰もいない道場はやけに静かでなんだか不思議な感じがした。

 

「そもそも建物壊したのあんたじゃん、なんで私まで修理費請求されなきゃいけないの」

「まあまあ。俺とは親友だろ、嬉しいことも苦しいことも半分ずつでさァ」

「嬉しい事を分け合った記憶がひとつもないんだけど」

ぽい、と放られた竹刀を反射的に受け取る。

 

 

総悟とは江戸で出会い、刀を捨て切れなかった私を真選組に引き入れてくれた、ある意味恩人だ。

それから一緒に稽古していくうちに気の合う友人から、気の合う親友へと変わっていった。

 

 

それでよかった。楽しかった。

でも、どこかで何かが変わってしまった。

 

 

「久々に手合わせしやせんか。最近は共闘ばっかりでしたしねィ」

「えー。やだよ、総悟には勝てないって分かってるし」

「やってみなけりゃわかりやせんぜ」

にこりと楽しそうに竹刀を向ける総悟の言葉を拒否しきれず、私も渋々竹刀を構える。

 

 

目を閉じてすっと深呼吸して心を落ちつけて、ゆっくりと目を開く。

同じ動作をしていた総悟の目はさっきと打って変わり、真剣なものだった。

 

どくんと、緊張とは違うもので心臓が震える。

 

 

「いきやすぜ」

「……っ!!」

総悟よりコンマ数秒遅れて地を蹴り、振り下ろされる竹刀を受け止める。

バシーン、と腕に痺れがくるような重い一撃を受け止め、ぐっと歯を食いしばってそれを打ち返す。

 

「はぁあああ!」

中途半端な気持ちで総悟と手合わせすると、殺されそうになる。

それはどうやら私も同じなようで、他の隊士の人に似た者同士だと言われたことを思い出した。

 

「さすが、やりやすねェ!」

ぶつかる竹刀を振り払い、一歩後ろへ引いて距離をとる。

ぎゅ、と床と足の裏が擦れてチリッとした痛みに目を細めた瞬間、折角とった距離は一瞬で詰められる。

 

 

「残念でしたねェ」

「っ!」

世界の音が消える。

耳元で囁かれた声だけが、頭を周る。力が、抜ける。

 

 

呆気なく吹き飛ばされた私の竹刀は宙を舞い、私の身体も床へと倒れ込む。

 

 

ぐっと受け身は取ったものの、背中に感じる痛みは誤魔化せない。

「ひゃ、っ」

顔の真横に遠慮なく突き立てられた竹刀の風圧で髪が揺れて床に広がった。

遠くでカラン、と竹刀が床に落ちる音がした。

 

 

 

 

「一本。俺の勝ちでさァ」

私に乗りかかる総悟から、さっきの真剣な表情はもう消えていた。

 

「…だから、勝てないって言ったじゃん。というか死ぬかと思った」

相手なら本気でやらねーと俺が殺されやすからねィ」

一回も勝たせてくれないくせに、と零して顔を横に向ける。

 

 

 

 

「なあ、何考えてたんでさァ」

「……勝つこと、だけど」

あたりまえでしょうと言うように返事をする。

 

「他に何か考えてやせんでしたか」

突き立てた竹刀を杖代わりに膝立ちになったまま総悟は私に問う。

「そんな余裕ないって」

実際、手合わせ中にそんな余裕があったことは無い。

あるとすれば、あの一瞬。

 

 

「俺が踏み込んだ瞬間、何考えてたんでィ」

頭で考えた一瞬と、総悟が問う一瞬が重なり合う。

 

 

嫌なんだ、壊したくない、壊せない。

その問いに答えてしまったら私はもうこのポジションには戻れなくなってしまうだろう。

 

「黙ってねーでこっち見ろ」

ぐっと顔を掴むようにして目線を合わさせられる。

手合わせしていた時と同じ、真剣な目に負けないように、声が震えないように口を開く。

 

 

「そ…総悟のこと考えてただけだよ、ちくしょう強いな、って思ってただけ」

「ふーん」

聞いておいて随分とつまらなさそうな相槌を返された。

こっちはそれどころじゃないというのに。

 

 

 

 

「俺はそうじゃありやせん」

「は、何が?」

何が言いたいのかと首を傾げようと思ったが、未だに顔が動かない。

そんな私に上体をかぶせるように総悟は顔を耳元に寄せる。

 

 

「俺は、色っぽい顔しやがって、このまま食っちまいてェ、って思ってやした」

 

 

「……え、えっ!?は!?ななな何言ってんの!?」

どかっと顔が熱くなる。いやこれは不可抗力だろう、何を、何てことを言うんだこの人は。

 

「まあ今も思ってやすけどねィ」

「ちょっ、ばか退け!今すぐ退けぇぇえ!」

額から流れ落ちる汗に総悟の息がかかり、冷えた汗と吐息にぞくりと体が震える。

 

「退いてほしくねーくせに。よく言いまさァ」

「そんなこと思ってない!」

それは誰に言った言葉だろう、総悟か、私か。

 

 

「バレッバレなんでィ。何年親友やってきたと思ってんだ」

「な、なに…なんで」

総悟の言葉に頭がついていかなくて、言葉が出てこない。

 

「ま、俺は隠すの上手いですからねェ。ごときに勘付かれることは無いとは思ってやしたけど、ここまでとは」

「隠すって、なにを」

問いかけた言葉に、総悟は私の額にコツンと自分の額を合わせて笑った。

 

 

と同じモンでさァ」

 

 

同じってどういうこと、と言おうとした言葉は音となって外へ出る前に総悟に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「お互い苦しむの、そろそろやめやせんか」

 

 

 

 

 

 

 

万物を壊す破壊神









(コンビじゃない、破壊神はこいつだけだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

親友からの脱却。

2014/03/02