「銀ちゃん、私、お姫様になりたい!」

「よーしちょっと病院行くか、精神の方な」

 

 

 

 

いきなり万事屋の居間へ突入してきたのは、という女だ。

以前、こいつが住む家の雨漏りを直してやったことをきっかけに、何かあると万事屋へ飛び込んでくるようになった。

 

「ねえねえ、銀ちゃん万事屋でしょ!なんとかしてよ!」

「俺は魔法使いじゃねーんだよ。万事屋だからって何でもできると思ったら大間違いだぞコノヤロー」

「えっ、でも立ち位置的には魔法使いが似合いそうだよ?王子様って顔じゃないし」

「うるせェェェ!天パの王子がいたっていいだろ!!」

バシンッと読んでいたジャンプを思わず机に叩きつけてしまった。

 

 

「それを言うならお前みてーなお姫様もいねぇよ。町娘がお似合いだ」

「むう…それは分かってるよ。そこをなんとかするのが万事屋でしょ!」

「万事屋ってなんだっけ」

確かにたまに無茶な仕事をふっかけてくる客はいるが、これはまた違う種類の無茶な仕事だ。

つーか仕事にカウントしたくねえ。

 

 

 

けどまあ、飛び込んできた以上大人しく引き下がる奴ではないことは知っている。

仕方なくいつもの社長席を離れ、ソファーに座り隣をぽんと叩く。

 

「はあ。オヒメサマってなんだよ、俺はどうすりゃいいんだよ」

すとん、と少し距離を開けて俺の隣に座ったは首を傾げた。

「うーん、そうだなあ。きっかけ作りしてくれればいいかな!」

「きっかけねぇ」

…きっかけ?

 

「どういうこと?俺がの王子様になりゃいいんじゃねえの?」

「えっなにそれ、自分が王子様になれるとでも思ってるの?」

「オイ今の言葉のチェーンソー酷ェな!切り裂かれたわ!!」

なんでそんな心底不思議みたいな顔して言うんだこいつは。

適当にお姫様抱っこでもしてやりゃあ満足すんだろとか思ってたのに、全部切り裂かれた。

 

 

 

「あのね、王子様候補はいるの」

 

 

 

「………へえ」

「なにその気の無い返事!」

 

まだ、「はぁぁ!?」って言わなかっただけ褒めてほしいところだ。

心を落ち着かせて平常心平常心と唱えながら出した「へえ」を褒めてくれ。

 

「いや、うん、なにその候補って。どんな奴?ほら、シチュエーションづくりの参考までに聞いておこうと思って」

なんで言い訳みたいなってんの俺。

まあとにかく、尋ねてみるとは両手を頬に当てて少し恥ずかしそうにしながら口を開く。

 

 

「この間ね、落し物を拾いまして」

「ほう」

「それを警察署…一番近かった真選組屯所へ持っていったの」

「……ほー」

嫌な予感がしてきた。

 

「そこの警察の人なんだけど、最初はすっごく怖くて。無愛想にじゃあ書類書いて、って言われてさ」

「…うん」

「やっぱ違う警察署行けばよかったなーって思いながら書類書き上げて、その人に渡して帰ろうとしたの」

そしたらね、とは顔を綻ばせる。

 

 

「ありがとな、って言ってふわって笑ったの!!もうね、その笑顔が素敵って言うかギャップキュンっていうか!」

「ちょろすぎんだろお前ェェェェ!!!!!」

思わず叫びたくなるくらいのちょろさだぞオイィィ!

つーか大体誰なのか想像ついちまったのが嫌だ!が言うような笑顔は見た事ねーけど!

 

「だから今度はもうちょっとロマンチックなシチュエーションで再会したいわけですよ」

、やめとけ。それ王子様なんかじゃねえ。オオカミさんだ」

「えー。警察がオオカミさんだったら世の中終わりだよ。誰に助けを求めたらいいの」

「終わってっから。あそこは終わってっから。ストーカーとマヨネーズとドSしかいねーから」

現実に戻ってこいという思いを込めて、の肩をぽんぽんと叩いてやる。

 

 

「ちょろくないよ、私、同じ事銀ちゃんにされてもときめかない自信あるし!」

ザクッと言葉のチェーンソーの第二攻撃がきた。

 

「やべえもう俺泣きそう」

「何で?」

「おめーのせいだコラァァ!」

一度は耐えたが、二度目は耐えきれそうにない。

同じ傷口を狙って切り裂かれた気分だ。

 

 

「そういう相談なら、女同士でやりゃいいだろ。なんで俺んとこ来たんだよ」

「そりゃあ男の人の意見も聞きたいし。どういうシチュエーションでときめくのかなーって」

新八くんもいたらよかったんだけど、と言っているがアイツはこの手の話の役には立たないぞ。

 

、お前には無理だ。シチュエーションをぶち壊すことしかできないお前にはお姫様なんて無理だ」

「酷い!銀ちゃんこそそんな風に無理無理って言ってるようじゃ王子様には一生なれないよ!」

酷いのはどっちだよ、こっちは今のも合わせてもう三発も攻撃くらってんだよ。

 

 

「しょうがないなあ」

何かを諦めたかのように呟いて、はぴょんとソファから飛ぶように立ち上がった。

「やっぱり自分で考えるよ。じっくり考えればいい案が浮かぶかもしれないし」

着物の裾を正して、ぽかんとしたままの俺を見る。

 

「話聞いてくれてありがとう、銀ちゃん。じゃあまたね」

 

そう言っては俺に背を向けて一歩踏み出した。

 

 

「ちょ、っと待てよ!」

ぐっと勢いをつけてソファから立ち上がり、が振り返る前にその体を思いきり抱きしめる。

 

「えっ!?なに、苦しいよ」

そりゃ苦しいだろう。

手加減する暇もなく、腕ごと抱きしめてんだから。

 

 

 

「お姫様っつーのは、一度は敵の手におちるもんだろ。ストレートで王子様と結ばれるなんて諦めろよ」

 

 

 

 

「銀ちゃん」

身動きのとれないは、前を向いたまま小さく俺の名を呼ぶ。

「なんだよ」

やっておいてなんだが、今の状況でそんな普通の声のトーンで喋られるとすげえ恥ずかしい。

 

 

「王子様や魔法使いより、魔王の方が似合うね!」

「……どーも」

嬉しそうっつーか、楽しそうな声にどう返したらいいか分からず、当たり障りのない返事をしておいた。

 

 

 

 

 

エネミーサイドの王子様









(でも、今のは、ちょっとときめいた…かも。作戦、練り直さなくちゃ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

最近の敵サイドってイケメン多いですよね。

2015/05/31