今までは感じなかった風を首元に感じながらかぶき町を歩く。

正直、今まであったものが無くなるとちょっとだけ落ち着かない。

 

「すみません」

「おばちゃん、団子1パック頼むわ」

 

私の「すみません」を突然出てきた人に横取りされた。

誰だよ!私に被せて注文した奴!

 

そう思ってふと隣へ視線をやると、そこにいたのは良く知った男がいた。

「…なんだ、銀ちゃんだったの」

「は?」

きょとんとして隣の男、万事屋店主の坂田銀時は私を見る。

 

そのまま何度かまばたきをしたり、目を細めたりして悩む事数秒。

 

「…え、?」

「ですけど。なに、そんなに別人っぽい?」

恐る恐る、といったかたちで聞いてきた男に少しむっとした口調で返してやる。

 

「は、はああああ!?え、おま、髪の毛どこやったの!?」

「人をハゲたみたいに言わないでくれる!?」

とんでもない言い方をしてくれたものだ。

ただちょっと、いや、かなり。髪をばっさり切っただけだ。

 

 

「えええええ。あの綺麗なストレートどこやっちまったんだよ…憧れのストレートヘア…!」

「銀ちゃんの憧れはどうでもいいとして」

「バッサリだなオイ」

そう言ってる間におばちゃんがお団子1パックを銀ちゃんの元へ持ってきた。

 

「あ、お会計は私がします」

「何言ってんだよ。俺が頼んだんだぞ」

「いいの。万事屋へ行く手土産にするつもりだったから、同じ事だもん」

神楽ちゃんもいることだし2パックくらい買うつもりだったけど、まあいいか。

 

 

 

 

 

お会計を済ませて私と銀ちゃんは並んで万事屋への道を歩き始めた。

「いやマジでどうしたんだよ、髪」

背中隠れるくらいはあっただろ、と聞いてくる。

 

実は、別に大した理由はない。

ただちょっと美容院の人に勧められて、流れるように「あっじゃあ切っちゃってください」と言ってしまったのが原因だ。

仕上がった後の自分の髪を見て少し後悔したような、これはこれでいいような微妙な気分になったのが昨日のこと。

肩につくかつかないかくらいで揺れる髪を手で払ってみる。

 

「まあ、うん、あれよ。イメチェンよイメチェン」

「イメチェン、ねえ」

じーっと見つめてくる銀ちゃんの視線がなんだかくすぐったい。

…似合わないんだろうか。

それだったら、切ったことは後悔でしかない。

 

 

「言いたい事があるなら言ってよ」

似合わないなら、似合わないと言ってほしい。

「あー、随分思い切ったことしたなーって。なんだよ、失恋か?」

ニヤニヤしながら尋ねられる。

お前そんなこと考えてたのか!

 

「…そーよ!失恋ですぅー。だから今日、神楽ちゃんと定春に慰めてもらおうと思って万事屋行こうと思ったんですぅー!」

本当は、どうかな?って聞きに行こうと思ってただけなんだけど。

美容院の人は似合いますよって言ってくれたけど、お世辞かもしれないし。

 

 

っていうか、私の言葉への返事がない。

どうしたのかと思って銀ちゃんを見てみると、ニヤニヤはニヤニヤなんだけれどさっきとはちょっと違う笑みを浮かべていた。

何て言うんだろう、ニヤける顔を抑えてるっていう感じだろうか。

 

 

「銀ちゃん?」

「や、なんでもねーよ。そか、失恋、ねぇ」

少し上擦った声は、口元を押さえる手によってだんだん呟くような音量へ変わっていく。

にやついて上がった口角が銀ちゃんの手の隙間から見えた。

 

 

 

 

 

「似合ってるよ」

「へ?」

思わず銀ちゃんを二度見してしまった。

 

 

「なんだよ、嬉しくねーの?」

「う、嬉しいけど…なに急に。気持ち悪いんだけど」

「気持ち悪いって何だよ!本心だぞコノヤロー」

「お団子屋さんで会った時、私だって気付かなかったくせによく言うわ」

そう返すと銀ちゃんは、うぐっと呻き声を上げて視線を逸らした。

 

 

「だってよォ。しょうがねーだろ」

銀ちゃんはがしがしと自分の髪を掻く。

「前もって髪切った、とか教えてもらってりゃ気付けただろーけど、いきなりだったんだし」

当たり前だ。

なんでわざわざ銀ちゃんに今日髪切るね、なんて連絡をしなきゃいけないんだ。

私と銀ちゃんはお友達でありそういう仲ではない。

 

 

「でも、ビックリしたってだけで、似合ってねーわけじゃねえから」

「…ほんと?」

確認するようにもう一度尋ねる。

銀ちゃんはにやっと笑って、私の毛先をそっと撫でた。

 

「すげー可愛いから安心しろ。こんなイイ女をフった男の気が知れねーわ」

 

そう言った銀ちゃんの声が、なんだか妙に色気を孕んでいて、ぞくりと背が震えた。

 

「あ、えと、ありがとう…」

触れられた毛先がくすぐったい。ぞわぞわする。

それが嫌な気分のものではなくて、どちらかというとドキドキするもので、思わず言葉が詰まった。

 

 

「あ、ほら、もう万事屋見えたから!はやく行こう!」

ぞわぞわする気持ちを振り払うように足を進める。

歩くと同時に揺れる髪をすりぬけて、首筋を風がかすめていく。

 

「…やっぱいーわ。長いのもだけど、今の短いのもすげーイイ」

 

後ろからぼそりと銀ちゃんの声が聞こえる。

やっぱりなんだかぞわぞわする。

似合うかどうか心配だったけど、そんなに言われるとそれはそれで照れる。

 

「もー!いつまで言ってんの、銀ちゃんの感想はもういいから!!」

「なんだよ。本心なんだから有り難く受け取れっつの」

 

 

万事屋の階段を上り、玄関を開けるまであと少し。

 

神楽ちゃんと新八君が驚きながらも、笑顔で迎えてくれるまであと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気まぐれチェンジ









(が「失恋」と言った時。確実に俺の中に、どろりとした感情が、嬉しいという感情が湧いた。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

銀さんが一人だけギャグしてない。心の中がどろどろしてる。

2016/06/19